「話を聞き実現する場を作る」 川﨑レナさんが語るウェルビーイング

「話を聞き実現する場を作る」 川﨑レナさんが語るウェルビーイング
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 子どもの権利のために活動した世界の子どもに贈られる「国際子ども平和賞」。若者の政治や社会参加に向けた先駆的な活動を行っているとして昨年、大阪府出身の川﨑レナさんが日本人で初めて受賞した。教育新聞では川﨑さんにインタビューし、日本の子どもを代表して、国内の教育や行政についての“本音"を語ってもらった。子どものための行政機関を担う「こども家庭庁」が4月に新たに創設されるなど、2023年は子どもを巡る環境が大きな変化を迎える。その一つが23~27年度の次期教育振興基本計画。身体的・精神的・社会的に良好な状態であることを意味する概念「ウェルビーイング」が大きな柱になっているが、川﨑さんは「日本の子どものウェルビーイングが本当に理想の形でかなえられるとしたら、一人一人のために教育が成り立っていて、学校の外のアイデアも含めてちゃんと話を聞いてあげる。それを実現する場があるということ」と語る。

授賞式のスピーチに込めた思い

国際子ども平和賞の授賞式でトロフィーを受け取る川﨑さん(クレジット:KidsRIghts 2022)
国際子ども平和賞の授賞式でトロフィーを受け取る川﨑さん(クレジット:KidsRIghts 2022)

 「本当にまだ信じられなくて。友達もびっくりしていたけど、一番びっくりしたのは私」と笑顔で振り返る川﨑さん。「国際子ども平和賞」はオランダに本部がある国際的な児童権利擁護団体「キッズライツ財団」が、子どもの権利擁護に大きく貢献した人を対象に贈っており、昨年は川﨑さんが世界46カ国175人以上の候補者から選ばれた。

 川﨑さんが行動を起こそうと決意したきっかけは、小学4年生の時に学校の図書館で読んだ本がきっかけだった。「自分の国の情勢のせいで、自分たちが受けたい教育とかかなえられない夢があることを知った」。

 14歳でNGO団体を創設。学校と地域の政治家によるバーチャル会議の開催やオンラインプラットフォームを活用し、直接政治家に連絡を取れるようにするなど、子どもや若者が積極的に政治参加できる仕組みを作ったことが評価された。

 「私がこの活動を始めたきっかけは悔しさでした。変わりそうのない日本。自分の生まれた国、日本に誇りを持てないことについて、とてつもない悔しさを感じました」――。国際子ども平和賞の授賞式で彼女が行ったスピーチの一節だ。

 川﨑さんが通うのは大阪府内のインターナショナルスクール。さまざまな国籍の生徒が在籍している。「もともと、日本人としての誇りがすごく強かった。いろいろな国の人が話す中で、日本は本当にいい国だよね、本当に平和だよね、素晴らしい文化があるよねと言ってもらえて、日本人としてうれしかったし、日本に生まれてなんて幸せなのだろうとすごく思っていた」。

 そんな気持ちを変えたのが、テレビのニュースで報じられた議員が議会中に寝る姿。「すごくつらい気持ちになってしまって、自分が持っていた日本のイメージとの落差があったのがショックだった」。かつて自分が思っていた「かっこいい」日本をどうやったら取り戻せるのだろうか。川﨑さんはこの出来事をきっかけに活動を始めた。

国際子ども平和賞の授賞式で日本の政治についてスピーチする川﨑さん(クレジット:KidsRIghts 2022)
国際子ども平和賞の授賞式で日本の政治についてスピーチする川﨑さん(クレジット:KidsRIghts 2022)

 しかし、活動を通じて、地元大阪や東京、四国の行政関係者と接する中で実感した。「本当にたくさんの大人がかっこよく、ワクワクと地元の皆さんのために仕事をしていた。幼稚な言葉だけど、そう感じさせてくれる大人がたくさんいた」。

 「愛国心は子どもを育てるようなもの」――。この表現が一番しっくりきたと彼女は言う。「すごく日本が大好きだから、日本が自分にとってすごく誇りだったからこそ。負の部分を見た時にすごく悲しいという気持ちを誰か分かってくれないかなと思った」。強い愛着があるからこそ、受賞式の場で日本という国を叱ったのだ。

『話を聞き、実現する場を作ること』=子どものウェルビーイング

 川﨑さんは日本の教育について、「何が正解なのか私自身は分からない」と前置きした上で、「外国人に聞いたら素晴らしいと言っていた」と明かす。「例えば米国だったら、公立の高校が地域によって、レベルが違ったりとか、先生の質が違ったり、カリキュラムや教え方の質も違うのに対して、日本は北海道から沖縄まで、どこを見ても、ちゃんとそろったカリキュラムのレベルを保っている」。

 しかし、多様な進路や働き方の形がある現代において、全員に同じカリキュラムを課す方法に対する不満もある。「例えばギフテッド教育が遅れていたり、発達障害を持っている子たちの教育ができていなかったりとか。また逆に真ん中で止まってしまって、もっと上にいけないとか。出る杭が打たれるという教育が日本の現状であり、良さも悪さも作っている」と指摘。

 続けて、「先生が本当に口をそろえて言うのが、教員が足りないから、個人的なサポートができないということ。それはすごく悲しいなと思う。日本のカリキュラムのレベルは先生の過重労働で保たれているところもある。教員が減っている中で、さらに子どものさまざまな課題を先生が全部抱え込んでしまったら、最終的には、やっぱり同じ教育にするのが一番いいとなるのではないか」とし、個別最適な学びの実現のためには、教員数の増加は欠かせないと訴える。

 23~27年度の次期教育振興基本計画の大きな柱となる「ウェルビーイング」。満足した生活を送ることができている状態、幸福な状態、充実した状態など多面的な幸せを表す言葉だ。この考え方について、川﨑さんは「パーソナライズしないといけない。だからこそ本当に難しい」と話す。

 公立、私立、全日制、通信制、定時制…、さまざまな学校の形態がある日本。恵まれている国だからこそ感じるのが「すごく忙しい」ということだ。「習い事もあるし、部活動もある。小学校から受験を始めた人は小学校から大学までずっと受験。就職の時も面接がある。ずっと他の人に認められるために生きているのではないかなと思って」と疑念を抱く。

 ただ一方で、このシステムが合っているという人がいることも分かっている。「何か一つを解決したら、誰かのウェルビーイングがなくなってしまうし、こっちの人を助けようと思ったら、また反対の人のウェルビーイングがなくなる。本当に難しい」。

子どものウェルビーイングについて語る川﨑さん
子どものウェルビーイングについて語る川﨑さん

 そこで、川﨑さんが提言したのが『話を聞き、実現する場を作ること』。「一番重要なのは、子どもが出したアイデアや自分の意志でしたいことがつぶされないことだと思う。難しいのは分かっているけれど、日本の子どものウェルビーイングが本当に理想の形でかなえられるとしたら、一人一人のために教育が成り立っていて、学校の外のアイデアも含めてちゃんと話を聞いてあげる。それを実現する場があるということじゃないかなと思う」。

こども家庭庁は子どもの意見を取り入れる行政機関に

 4月に設置されるこども家庭庁。子ども政策に関する大綱の作成・推進をはじめ、虐待やいじめ対策、ヤングケアラーに対する支援、教育・保育内容の基準も文科省と共同で策定を行うなど、まさに子ども政策の「司令塔」としての役割を果たす。

 子どもの権利を守るために新たに設けられた行政機関に、川﨑さんが期待するのは「子どもの意見を抽出する」ことだ。「子どもの意見を聞かずに大人が考える『子どもにとってのいいこと』だと、助けようとする大人にとっては難しい状態になるし、子どもにとってもそれが欲しいわけじゃないのにという悲しい状態が続いてしまう」と強調。「リアルな声を聞くことはすごく重要だと思う。実際に地域や町にいる子どもに意見を聞いてみたり、学校で調査したりしてほしい」と述べた。

 子どもたちの意見を聞くことは、こども家庭庁だけでなく、子どもにとってもいい影響があると川﨑さんは考える。「まず聞くという行為は私たち子どもにとって、すごくうれしいこと。すごく自信につながる。以前、私の団体メンバーである中学生や高校生の話を、環境省の人が聞く場があった。その後にメンバーのアイデアがとても広がったみたいで、団体も活性化されてすごくうれしかったし、本当にやってよかったと思った。シンプルだけれど、意欲につながると思う」。

 だからこそ自身のように、すでに活動を始めている子どもだけではなく、さまざまな子どもの意見を積極的に聞いて、政策に取り入れてほしいと願う。「行政の話も聞いて、(子どもの意見を取り入れるのは)難しい面があることは理解しているけど、もし、それを乗り越える方法が見つかって、子どもたちが作る理想のこども家庭庁ができたら、本当にすてきなことではないかなと思う」と期待感を寄せた。

将来は「裏方として行政に」

 10代から企業や行政を巻き込み、さまざまな活動を行ってきた川﨑さん。しかし、一度家に帰れば普通の女子高生だ。「休みの日は本当にダラダラして過ごしている。なにか意識の高いことをしているのではと思うかもしれないが、休みの日に家を出ることはあまり好きじゃない。電気じゅうたんをつけて、映画を見たり、本を読んだりしている。母からは『外でいろいろやっているのは良いことだけど、家でもちゃんと動きなさい』って、めっちゃ言われる」と恥ずかしそうに笑う。友達と遊びに行くときは、ラーメン屋やファミリーレストランに行くことが多いという。

 そんな彼女も今年9月で18歳。法律上の「大人」となり、選挙権を手に入れる。海外の大学進学を目指しているが、「海外に行っても郵送してもらって投票ができるので、もちろんしたい。ワクワクしている」と政治参加に意欲を見せる。一方で、子どもでなくなることの覚悟も持っている。「子どもとしての意見を求められてきた中で、子どもだから許されたこともある。すごくありがたいけど、私が成長するには、皆さんの優しさに甘えてはいけない。子どもだから注目されるのではなく、川﨑レナがこう言っていると言われるぐらいまでいきたいなと、すごく思う」。

 目指すのは「論理的かつ冷静に、下の世代にスポットライトを当てられる大人」。それでも「子どものときに持っていた課題意識やワクワクした感じ、アイデアなど、今まで考えられてきたものと外れた新しい意見を出す力は持っておきたい」と初心は忘れない。

 今後は、子どもや若者だけでなく、さまざまな世代の人や思想を持った人をつないで、建設的な議論ができる場を作っていきたいという。思い描く将来は「日本の行政に関わる」。政治家も一つの選択肢とする一方で、裏方としての思いが強い。「企業や役所の人たちが楽しそうに仕事をする姿を見て、私も市民や国民のために何かできるようになりたいと思った。逆にいろいろなアイデアを持っている政治家がそれを実現できるようなシステムをどんどん作ってサポートしたい」。真っすぐな目で言い切った。

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