中教審は1月27日、オンラインで総会を開き、次期教育振興基本計画(2023~27年度)の審議経過報告案について意見交換を行った。委員からは「現場では超勤や休日出勤が常態化しており、教育サービスの低下につながりかねない現状がある。抜本的な検討がもう少し必要ではないか」と学校現場のマンパワーを充実させる必要性をもっと強く打ち出すべきだとの意見や、高等教育で文理融合を進める方向性を示す中で「初等中等教育でも探究・STEAM教育の強化だけではなく、文理の枠にとらわれないという表現があってもしかるべきではないか」との指摘が出た。
この日の総会で、後藤景子委員(奈良工業高専校長)は「教育というのは現場での協働とか、競争とか、地域や家庭との連携が支えの源ではないかと思う。その観点から、教育投資については、現場の人的なリソースに費やすという必要がある。現場では超勤とか休日出勤が常態化していて、教育サービスの低下につながりかねない現状がある。支援体制、外部人材の適用も含めて、抜本的な検討がもう少し必要ではないかと感じている」と述べ、学校現場の人員増の必要性をもっと強く打ち出すべきだとの意見を述べた。
これに対し、渡邉光一郎会長(第一生命ホールディングス会長)は「審議経過報告案では『今後の教育政策の遂行に当たって特に留意すべき事項』のところで、そういった(現場の人的リソースの)ことも含めた財政措置が必要だと書き込んでいるので、趣旨は十分に踏まえていると思っている」と応じた。
越智光夫委員(広島大学長)は「審議経過報告案では、大学において文理融合教育を推進するとともに、初等中等教育では探究・STEAM教育を強化する、としている。初等中等教育と大学で、あえて表現を変えるのが適切であるのかどうか。大学教育で文理融合を唱えても遅い。初等中等教育の段階から文理の分断をなくすべきだ。例えば、あらゆる学校段階において、従来の文理の枠にとらわれない探究活動を行う、といった表現にしてはどうか。初等中等教育でも文理の枠にとらわれないという表現があってしかるべきだと思う」と指摘した。
貞廣斎子委員(千葉大教授)は「次期教育振興基本計画のコンセプトでは、個人的・私的な成長の側面にのみ着目するというよりも、むしろ自らが社会の創り手となるとか、持続可能な社会を維持発展させていく人材といったような、公的な側面が前面に出るような形で書いている。こうしたことがあってこそ、個人のウェルビーイングと社会のウェルビーイングが実現するかと思われるので、このコンセプトが全体に通底する形で計画が進行していくことを期待したい」と述べ、次期計画が掲げている「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」という考え方で公的な側面が重視されている意義を高く評価した。
この発言に対し、渡邉会長は「次期計画の非常に強いメッセージ性はコンセプトにある。『2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成』という視点と、そのゴール感を『日本社会に根差したウェルビーイングの向上』という形でまとめた。これは答申全体の非常に強いメッセージ性になるんじゃないかというふうに考えている」と応じた。
審議経過報告案は中教審の教育振興基本計画部会が1月13日に取りまとめたもので、素案のたたき台に当たる。第1部の総論と第2部の各論の2部構成になっており、A4判71ページに及ぶ。この案に対し、25日までパブリックコメントを募集したほか、20日と23日には関係団体からのヒアリングを実施。中教審でも部会の上部組織にあたる初等中等教育分科会で18日に意見交換を行い、この日の総会でも委員に意見を求めた。中教審は、こうした結果を踏まえ、2月7日の教育振興基本計画部会で次期教育振興基本計画の素案を示す見通し。