中教審の「高等学校教育の在り方ワーキンググループ」の第5回会合が1月27日、オンラインで開かれた。▽高校教育の在り方▽少子化が加速する地域における高校教育の在り方▽全日制・定時制・通信制の望ましい在り方▽社会に開かれた教育課程の実現、探究・文理横断・実践的な学びの推進――の4点について、文科省が今後の論点を提示。小規模校の在り方について、委員が具体的な提言を行ったほか、18歳成人を踏まえ、「大人」として育むための教育について、精力的に意見を交わすなど、論点整理に向けた作業が本格化した。
生徒の教育条件の改善が論点とされた、少子化が加速する地域における高校教育については、岩本悠(地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事、島根県教育魅力化特命官)委員が▽地域資源の活用▽オンラインなどの遠隔・通信の活用▽越境留学の活用――の3点に分けて、具体的な提言を行った。
岩本委員はまず小規模校の現状について、「専門高校に行くような興味関心を持った生徒から、都市部だったら定時制・通信制に通うような子供たちまで、本当にさまざまな子供たちが一つの小さな高校に集まっている」と述べた上で、「少ない教職員でこうした多様なニーズに総合的、包摂的に対応できる仕組みというのが今後、求められる」とした。
地域資源の活用については、地元の小中学校や福祉施設・産業を活用するために、市町村の強みも生かすべきと主張。地域と学校をつなぐコーディネーターなど、より地元とのつながりが重要な人材については、任用を市町村が行うなど、柔軟な人事体制を整えるべきとした。
オンラインなどの遠隔・通信の活用については、へき地・小規模校特例制度の創設を提案。不登校などさまざまな生徒に応じるために、全日制であっても、スクーリングやオンライン授業といった通信制・定時制の方法を用いた教育を可能とするべきとした。
さらに、国立附属高校などにへき地・小規模校向けの通信制教育やオンライン・遠隔授業の配信拠点を設置するなど、小規模校への教育の機会均等と教育の質の維持・向上を図る取り組みを国も行う必要があるとした。
「留学生自身の成長に加え、留学を受け入れた小規模校の生徒にとっても、多様な価値観や切磋琢磨(せっさたくま)する上で効果的」とした越境留学に関しては、必修科目など教育課程の不一致から断念せざるを得ないケースがあると説明。海外留学における単位認定をへき地・小規模校への越境留学にも適用することを求めた。
これらの提言を踏まえ、岩本委員は最後に「小規模校の特例的な話でとどめていいものなのかという問題意識もある。どこまでを小規模校にするか、全国でできるものはないかというのは今後議論したい」と語った。
高校教育の在り方については、18歳で成人になることを考慮し、生徒を「大人」として育むことが重要とした上で、生徒が成人として、社会の一員になるために共通で必要となる資質・能力とそれを養うためにどのような教育が求められるかなどを論点とした。
これに対し、石崎規生委員(東京都立桜修館中等教育学校長、全国高等学校長協会会長)は「前段階として、義務教育ではこういう能力をつけて、高校教育段階ではこういう能力をつけて社会の一員になるというような枠組みを作るべき」と述べ、大学も含めた段階的な議論を通して、高校前後の関係を整理する必要があるとした。
冨塚昌子(千葉県教育委員会教育長)委員も「高校生の抱える問題は高校になってから生じるものではない。市町村教育長と意見交換をしていると、やはり県と市町村との連携、小中高の連携が非常に重要であり、まだまだ足りないなとしみじみ感じる」と述べ、県教育長の立場から義務教育との連携の必要性を訴えた。
岡本尚也委員(Glocal Academy代表理事)は探究的な学びの内容について言及。「社会課題に寄っていることに違和感がある」と指摘した。社会とのつながりを理解する教育は重要としながらも、社会課題をこじつけるのではなく、生徒の好奇心に応える内容にするべきとした。
この意見については、荒瀬克己(教職員支援機構理事長)主査も「生徒の興味関心というよりは、地域や地元という感じで、同調圧力などにつながるような気が私もする。非常に重要な事」と同調した。
また、鍛治田千文(YMCA 学院高等学校校長、大阪YMCA 国際専門学校校長、学校法人大阪YMCA理事)委員も「社会の一員になるための資質・能力が、国のための人材育成をしていると感じてしまう」と述べた上で、「子供たちから見て、生徒の夢が実現できるように、社会がどう応援するかという発想もあった方がいいのではないか」とくぎを刺した。
社会に開かれた教育課程の実現や、探究・文理横断・実践的な学びの推進については、外部人材の活用について、意見が出され、濱田久美子(高知県教育センター企画監、元高知県立山田高等学校長)委員は「多様な子供に多様に接するというのが非常に難しく、それで子供も先生も、行き詰まったり、しんどくなったりというような状況が起こっているのではないかと思う」と話した上で、社会に開かれた教育課程を実現するために、「外の力をどうやったら借りられるのか。制度的にもどこまで柔軟にできるのか、これまで以上に議論したい」とした。
大学進学につながる高校段階こそ社会に開く必要があるとした篠原朋子(学校法人NHK学園理事長)委員は「理系や文系(という区切り)は産業界から言わせれば、おそらくもうナンセンス。大学入試にも高校にも残っているのは、社会に出た人たちにとってはまどろっこしい現状」と述べた上で、「今回の提案や改革が少し行き過ぎなのではないかと言われても、前に進むべき」と強調した。
外部人材の乏しい地域や小規模校に推進していくための方策も論点の一つに挙げられ、沖山栄一(東京都立世田谷泉高等学校長、全国定時制通信制高等学校長会理事長)委員は、2021年1月の中教審答申で提言された遠隔・オンラインと対面オフラインの最適な組み合わせについて言及。「遠隔オンラインが対面オフラインを補うようなものなのではなく、対面オフラインと全く同じような価値を持つ学習ツールにならなければいけないと感じている」と述べた。