永岡桂子文科相が2月2日の衆院予算委で、卒業式のマスク着用について「速やかに検討する」と発言したことを受け、都道府県教委や学校、保護者からは「正式な通知がないと対応は難しい」や「5類移行していない以上、外せない」など、さまざまな反応が見られた。一方、新型コロナの患者を受け入れる病院の副院長は「卒業式を契機に患者の増加が心配される」と懸念を示す。
都教委は現状、厚労省・文科省の指針に基づいてマスクの着用ガイドラインを定めており、「屋外においては、人との距離が確保できる場合、または、人との距離が確保できなくても会話をほとんど行わないような場合はマスクの着用は必要ない。屋内においても、人との距離が確保でき、会話をほとんど行わないような場合はマスクの着用は必要ない」とする一方、「会話時には必ずマスクを着用」としている。
2日の永岡文科相の発言を受け、都教育庁都立学校教育部学校健康推進課の担当者は「文科省から正式な通知が示されているわけではない。卒業式での対応も含め、通知を受けてからでないと検討は難しい」と話す。卒業式での対応についても、「家庭での判断としてよい理由なども含めて、正式な方針が示されてからの判断になる」と語る。
千葉県教委が作成した「新型コロナウイルス感染症学校における感染対策ガイドライン」では、屋内でマスクを外せるケースは「2メートル以上を目安に、身体的距離が確保できる場合で、かつ会話をほとんど行わない場合」としている。この基準は県内市町村の教育委員会にも参考にするよう通知している。
千葉県教委学習指導課の担当者は「現状、卒業式はマスク着用にあたる」との認識を示す一方で、新型コロナの感染症法上の位置付けが「5類」に移行されることを受け、着用基準の見直しを進めていたと明かし、「大臣の発言も参考に今後、検討する必要がある」と述べた。
一方、3月1日に卒業式を行う福井県の啓新高校(荻原昭人校長、生徒986人)の伊藤昭一教頭は「3月はまだ5類に移行されていないし、学校生活におけるマスク着用は変わらない。卒業式だけ大丈夫とはならない」と強調。マスク着用に加え、体育館での参加者は卒業生と保護者のみに制限。校歌などは歌わないといった従来の感染対策の下、挙行するとした。
都内に住む小学6年生の女子児童も「卒業式でマスクを外していいと言われても、私は外さない。感染したら隔離期間があるのが面倒なので、予防のためにも着けていたい。周りの友達も、男女関わらず、マスクを外したいと言っている子はいない」と話し、マスクを外した卒業式に否定的な見方を示した。
また、東北地方のある自治体の教育長は「ある程度、現場に任せていただけるのが一番いいと思う。各学校で事情が違うので、最終的には各学校で保護者の方ときちんと話し合いをして、合意形成を取って進めるというのが一番大事」と話し、文科省として大臣がマスク着用に言及する必要はないとの認識を示した。
予算委員会の答弁の中で永岡文科相は「学校の中でマスクを外すかどうかというのは、やはり個人というよりも、家庭での議論というのが非常に大きな要素を占めると思っている」と述べた。この発言について、卒業式を控える子どもを持つ保護者からは戸惑いの声が聞かれた。
高校3年生の息子を持つ愛知県の40代女性は「マスクの着用義務を作ったのなら、義務解除の日をはっきりさせた方がいい。終わりの判断を家庭に委ねるようで無責任な印象を受ける。マスクの必要なしとはっきり言ってくれた方が、校長や先生も行動しやすいのでは。家庭判断は日本人が一番苦手なこと」と疑問を呈す。
また、高学年・低学年2人の小学生を持つ都内の30代女性は「卒業式は在校生も一部出席するし、本人もせっかく最後だからと、多少の体調不良なら無理してでも出席しそう。クラスター発生のリスクは大丈夫なのかと思う。5類変更の後なら、マスクなしでもいいかなと思いつつ、まだその前なので、何かあったときのことを考えると、積極的にマスクなしでよいとは思えない」と話した。
新型コロナを含めた2類感染症の医療機関である第二種感染症指定医療機関に指定されている福井赤十字病院(福井市)の小松和人副院長は「卒業式が元の姿に戻ってほしいと思うのは一市民として当然」と理解を示す一方、「インフルエンザよりも感染力が強いというのが医学的な認識。卒業式を契機に感染者が広がるリスクは当然ある」と話す。
仮にマスクを外して挙行する場合は、換気の実施や歌を歌わない、収容人数を減らすといった感染対策を行っても限界があると指摘。また、感染増の大きな要因となっている家庭内感染にもつながるとし、「今回の発言を受けて、マスクを外して行う学校も出ると思う。(感染者を増やさないために)さまざまな工夫を行ってくれると思うが、病院は感染者が増えると思って、準備するしかない」と語った。