部活動の地域移行と教員の兼職兼業 不可避な労務管理

部活動の地域移行と教員の兼職兼業 不可避な労務管理
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 いよいよ「改革推進期間」がスタートする、休日を中心とした中学校の部活動の地域移行。指導者を確保するための一つのやり方として考えられているのが、これまで部活動を教えてきた教員の兼職兼業だ。スポーツ庁と文化庁が年末に策定した「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」に合わせ、近く、教員の兼職兼業の制度を教育委員会で整備する際の手引きが公表される予定だ。しかし、すでに部活動の地域移行に伴い、教員の兼職兼業を試みている自治体などに取材すると、「労務管理」という避けて通れない問題が浮かび上がってきた。

教員としての在校等時間と指導者としての労働時間は通算される

 

 部活動の地域移行を見据えて策定されたガイドラインでは「教師等の兼職兼業」として▽教育委員会は、部活動の地域の受け皿での指導を希望する教員が兼職兼業の許可を円滑に得られるように、規定や運用の改善を行うこと▽その際は、教員の意思を尊重し、指導を望んでいないにもかかわらず参加を強いられるようなことがないように十分に確認し、勤務校の業務への影響や健康の配慮など、学校運営に支障がないことの校長への事前確認なども含めて検討した上で許可すること▽地域の受け皿となる団体が教員を雇用する際には、異動や退職などがあってもその団体で指導を継続する意向があるかなどを確認し、継続的・安定的に指導者を確保できるように留意すること▽兼職兼業の労働時間の確認にあたっては、厚労省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」も参照し、教育委員会と団体が連携して勤務時間の全体管理を行うなど、適切な労務管理に努めること――などが明記されている。

 「本音では休日に部活動の指導はしたくないが、地域の受け皿団体で指導者確保が難航していて引き受けざるを得ない」というような事実上の強制をしないことなどに言及されているのが目を引くが、ここで注目したいのが労務管理の考え方だ。

 公立学校の教員の兼職兼業の取り扱いについて、2021年2月に文科省が出した通知では、教員の兼職兼業の許可を出す際の留意点として「教師の心身の健康を確保するため、当該教師の学校における労働時間と地域団体の業務に従事する時間を通算した時間から労働基準法に規定される法定労働時間(原則として1日について8時間、1週について40時間)を差し引いた時間(いわゆる時間外労働と休日労働の合計時間)が単月100時間未満、複数月平均80時間以内とならないことが見込まれる場合には、兼職兼業の許可を出さないことが適当である」とし、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の指針で規定された「在校等時間」についても、この対象として扱うよう求めている。

 つまり、兼職兼業をする場合は、学校で教員として業務を行っている時間と、休日に地域の受け皿団体で指導者として部活動を教えた時間を通算して、月100時間未満、複数月平均80時間以内に収めなければいけないことになる。部活動の地域移行が教員の長時間労働を許容する抜け穴にしないようにするための楔(くさび)とも言えるが、土日の部活動の指導もこの枠内で収めようとするのは、普段の業務だけでも長時間労働になりがちな教員にとって、高いハードルになることは容易に想像できる。

地域移行を進める自治体でも難航

 「兼職兼業で(指導者を)と言うけれど、本当に兼職兼業を認められるのか」

 現在、運動部・文化部の両方で部活動の地域移行に向けた国のモデル事業を行っている埼玉県白岡市。同市は昨年12月17日、地域移行の進捗(しんちょく)現状を紹介する「白岡市地域部活動フォーラム2022」を市内で開催した。そのパネルディスカッションで、登壇者が市教委や県教委を問いただす一幕があった。

「白岡市地域部活動フォーラム2022」のパネルディスカッション(YouTubeで取材)
「白岡市地域部活動フォーラム2022」のパネルディスカッション(YouTubeで取材)

 スポーツ庁の『運動部活動の地域移行等に関する実践研究事例集』によると、白岡市は21年度の取り組みで、7人の教員が兼職で地域の部活動を指導していると記載されている。ところが、市教委に確認したところ、22年度は教員の兼職兼業は事実上ストップしているという。その理由を市教委の担当者は「21年度は、地域で部活動をした期間が4カ月だけだったが、これを通年でやるとなると、教員の労働時間や謝礼の問題が出てきてしまう」と説明する。

 同市が教員に行ったアンケートでは、3割ほどの教員が部活動を兼職兼業で教えることを希望しているという。しかし、それを可能にするにはどのような制度にしなければいけないのか。頭を抱えているのは同市だけではない。

 同じスポーツ庁の事例集に特徴的な取り組みとして詳しく紹介されていた大阪市では、都島区内にある市立中学校の生徒を対象にした「桜宮スポーツクラブ」を立ち上げ、同じ区内にある大阪府立桜宮高校(21年度まで大阪市立)と連携した休日の部活動を展開している。中学校でも行われているサッカーやバスケットボール、陸上競技に加え、ボートといった珍しい種目もある。また、中学校の部活動にはないダンスや、障害があり配慮を要する生徒も含め参加できる水泳教室は、元世界チャンピオンやオリンピアンが指導。年間で計41回の活動が行われている。

中高連携で地域移行を行っている桜宮スポーツクラブでは、ボート部といった珍しい活動もある(大阪市教委提供)
中高連携で地域移行を行っている桜宮スポーツクラブでは、ボート部といった珍しい活動もある(大阪市教委提供)

 これらの活動の一部は、人間スポーツ科学科がある桜宮高校の施設設備を借りて行われ、部活動の教員や生徒が中学生を指導することもある。部活動の地域移行を担当する市教委指導部の糸山政光保健体育担当主席指導主事は「休日に桜宮スポーツクラブで部活動が行われれば、中学校の部活動の顧問は休むことができ、負担軽減になる。また、桜宮高校の生徒の中には、将来スポーツ指導者になりたいと考えている生徒も多く、中学生に指導するのはいい経験になっているようだ」と、このモデルのメリットを話す。

 しかし、本格実施を視野に入れた際には、中学校や高校の教員がスポーツクラブの指導者として兼職兼業をどのように行うか、教員以外の質の高い指導者の確保などは、やはりここでも課題山積というのが現状だ。

部活動の指導に関する労務管理の問題は私立学校にも

 部活動と教員の勤務時間の問題に悩まされているのは、私立学校も同じだ。

 経産省の「未来のブカツ」フィージビリティ事業の一環で、兵庫県西宮市の関西学院高等部では学校の外に部活動のプラットフォーム(KGクラブ)をつくり、そこに部活動を移行していくモデルを模索。例えば、希望する教員が部活動の指導をする際、定時を超えて指導する分については、KGクラブが運営する部活動のコーチとして従事する方式などが検討された。

 しかし、この取り組みのけん引役である田澤秀信副部長は「教員の間で議論して、改めて部活動の教育的価値を再認識することになった。一方で、これまで部活動で培ってきたメタ認知や非認知能力などを、探究的な学びとして授業の中で展開していくフェーズに来ているのも事実。そうした考え方の整理ができたものの、そこで足踏みしてしまっているのが現状だ」と打ち明ける。

 「部活動を教えたい先生方のモチベーションを維持していく形にしないと学校は成り立たない。労務管理の問題とどう両立させるかはなかなか難しい。そもそも現状の民間の労務管理を教員に当てはめることには、無理があるのではないか」とも田澤副部長は指摘する。同高では部活動が盛んで、卒業後も関わり続ける生徒が多い。こうした私立学校ならではの強みを生かしていくことも含め、田澤副部長は新たな部活動の枠組みについて模索を続けている。

キーパーソンとしての統括責任者

 教員の働き方改革と部活動の地域移行のはざまで難航している、教員の兼職兼業の仕組みづくり。そうした中、自治体などから業務委託を受けて、部活動の指導者を配置する部活動支援事業を展開しているリーフラスでは、京都市の市立中学校とある県の県立高校で、教員の兼職兼業をサポートする実証を行った。

 同社では、業務委託先に統括責任者を置き、部活動の運営に関するさまざまな事務作業を受け持っている。教員の兼職兼業をする場合、希望した教員は同社と雇用契約を結ぶことになるが、学校で教員として働いた在校等時間と、同社雇用下での部活動の指導時間の労務管理については、この統括責任者が把握するようにし、時間を越えそうになれば注意を促すこともある。

 同社の永冨剛常務執行役員は「労働時間に関しては法的にも絶対に守らなければならないというのが民間の感覚。統括責任者が校長先生ともコミュニケーションをしっかり取りながら、枠内に収めていく。自然と教員も休日の部活動の時間を確保するために、学校での業務を効率化するようになる」と、民間が間に入ることで、労務管理への意識が変わっていくと強調。生徒がけがをしたときの保護者連絡など、これまで教員が担ってきた部活動に関する細かな仕事も統括責任者が行うため、その面でも教員の負担は減るという。

 同社の西梶博紀地域協働推進本部副事業部長は次のように語る。

 「今は部活動指導を自身の希望で従事している先生も、いずれ子育てや介護などでできなくなるときが来るかもしれない。そうした状況変化にも対応できる働き方も考えながら、無理のない部活動のやり方を今から実現していかないといけない」

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