中教審の教育課程部会は2月20日、第11期で最後となる会合を開き、各委員が次期に引き継ぐべき初等中等教育の課題を次々と指摘した。2022年度から高校で全面実施された学習指導要領が掲げる「主体的・対話的で深い学び」とGIGAスクール構想によるICT端末の整備、新型コロナウイルス感染症の影響などで学校教育が転換点を迎え、課題解決型の学びへの取り組みが始まったことを評価する声が多く出る一方、「指導と評価の一体化だけではなく、子供を主人公にした評価の在り方を考えるべきだ」「STEAM教育がいくら良いことをやろうとしても、大学受験が優先される社会では高校教育は動かない」「どんな批判があろうとも、学習指導要領が定める学習内容の削減を検討する時期に来ている」といった、さまざまな課題意識が示された。委員の意見を紹介する。
秋田喜代美委員(学習院大学文学部教授)は「子供を主人公にした評価の在り方」という問題意識を提起した。「こども基本法が制定され、子供の意見表明が重視されている。学習指導要領の指導と評価の一体化というときに、教師側の指導と評価の一体化だけではない。子供を主人公にする学びだけでもない。その学びの評価においても子供を主人公にした評価の在り方を今後考えていくべきではないか。これまでの教育課程では、全国学力・学習状況調査などで教育課程が達成されているかを見てきたが、もっと生徒の側から見て、見えないところでの評価の在り方やそれが資質能力とどうつながるのかを検討する必要がある」と指摘した。
石崎規生委員(全国高等学校長協会会長、東京都立桜修館中等教育学校長)は「義務教育で当たり前のように言われてきた指導と評価の一体化は、高校ではやっと始まったところ。新しい学習指導要領でどのように指導と評価の一体化を実現していくのか、引き続き議論と検証をしないといけない。観点別評価はいま調査書から除かれているが、大学入学者選抜での活用も含めて、観点別評価の活用、指導と評価の一体化は大事になると考えている」と述べた。
市川伸一副部会長(東京大学名誉教授)は、初等中等教育と高等教育を接続する大学入学者選抜について、厳しい見方を示した。「STEAM教育は非常に良いことをやろうとしているが、総合的な学習の時間ができたときにも、私たちは非常に苦い経験をした。非常に良い教育をやっていこうとしても、やはり受験優先が学校側にも生徒にもあり、本来目指していた活動が学校で展開されないことがある。特に私立学校では内容を把握しようがない。例えば、大学生に聞くと、高校、中学では総合的な学習などなかったと言い張る生徒がいっぱいいる。同じようなことはSTEAM教育でも起こりかねない」と懸念を表明。「学習指導要領は非常にいい方向を目指しているけれども、実際の社会的なニーズが変わらないときに、理想的なことを言ってもなかなか動かない可能性がある。STEAM教育は結構だけれど、大学に入ってからやればいいではないか、で終わってしまい、高校教育が全体として動かないことになってしまうことを非常に心配している」と、高大接続に改めて取り組む必要性を指摘した。
末冨芳委員(日本大学文理学部教育学科教授)は「この11期は大きな変動期に当たる。タブレットを使った学びが学校現場を前向きに変え、かつ子供たちの学びが非常にポジティブなものに変革しつつある現場も増えている」と、学校現場の変化を評価した。課題として教育データの利活用を挙げ、「学習者本位のデータの収集と分析をしてほしい。指導と評価の一体化と言っても、実際に子供たち自身が教員からの評価や、こうするといいといったフィードバックを丁寧に受けられていない実態もある。教育データを利活用すれば、無理に話をする時間を取らずに、ある程度『こういうふうなことをしたらいいよ』と伝えることも可能になる。子供たち自身の学びの意欲か、知識やスキルの習得を可能にする形での教育データ利活用をお願いしたい」と述べた。
今村久美委員(認定NPO法人カタリバ代表理事)は、学習指導要領が定める学習内容の削減に踏み込む時期に来ていることを強調した。「次の学習指導要領が定める教育課程の最低基準とは、何をもって最低基準なのか。本当にこれが必要なのか。『Chat GPT』のようなAIを使ったチャットボットも出てきている中で、本当に減らさなくていいのか」と切り出し、「もしかしたら、教員が着目しなければいけないのは、人格形成の中で人と人とがもうちょっとけんかをして、ぶつかり合った中で何かを見つけていくことであり、そこにきちんと伴走する時間を作らなければいけないのではないか。学習指導要領は、学校という枠組みでなければできないような学び、各家庭での通信教育では学べないような学びに、きちんと向き合うような時間と学習内容にしていくことが求められている」と指摘。
次期学習指導要領について高校進学にあたって通信制を希望する生徒が増えていることにも触れながら、「子供たちが通信制を選ぶのは、学習内容が柔軟で、学習指導要領が定めているものも弾力性を持って取り組むから。簡単に言うと、そんなにやらなくてもいいでしょうという部分はやらなくていいという認識が子供たちにあって、だからこそ通信制に通っている子もいる。前回の学習指導要領の検討のときには『とにかく学習指導要領の削減はありません』というところから議論が始まったけれども、もう削減するという方針をきちんと検討していく必要があるのではないか。どんな批判があろうとも、それにきちんと向き合っていかなければいけない時に来ていると思う」と力を込めた。
貞広斎子副部会長(千葉大学教育学部教授)は「令和の日本型学校教育をうたった中教審答申や学習指導要領は非常によい哲学を背景に作られていると思っているが、学校現場への浸透ぶりがまだらなままであるところを懸念している」と、学校や地域によって主体的・対話的で深い学びへの取り組みに差が出ていることを課題に挙げた。
その上で「今回の柱になっている『GIGAスクール構想』も『STEAM教育』も『社会に開かれた教育課程』も、本当にそれを学校現場の教員たちにやってもらえるようなリソースや条件整備が足りているのか。兵糧がないところで『頑張れ』と言ってはいないか。社会に『そうだね、追加的なリソースを配分しましょう』と納得してもらえる社会的合意を得る道筋を作っていくことも、次期の重要な課題だろう」と指摘した。