地理の視点からの防災教育 ウェブGISを使った実践を提案

地理の視点からの防災教育 ウェブGISを使った実践を提案
ウェブGISで災害情報を重ねて表示する方法を実演する小田准教授
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 東日本大震災の発生から12年を迎え、防災教育への関心が高まる中、日本損害保険協会は3月7日、ハザードマップなどの防災地理情報を活用し、地域の災害リスクを学ぶ授業づくりをテーマにした教員研修を都内で開催した。地理学を専門に防災教育を研究している小田隆史東京大学准教授が講師となり、さまざまな地理情報をインターネット上で閲覧・統合できるウェブGISを使った防災教育を提案した。

 今年度に高校で始まった学習指導要領では、地理歴史科において「地理総合」が必履修科目となり、GISの利用や防災教育が重視されている。また、今年度から5年間の学校安全施策の基本方針である国の「第3次学校安全の推進に関する計画」の中でも、地域の災害リスクを踏まえた実践的な防災教育・訓練を実施することが求められている。

 こうした背景を踏まえ、小田准教授は「大学入学共通テストも今年度入学した生徒が卒業する年のテストから、新しい内容をベースとしたものになるだろう。試験対策も含めてじっくり学ぶ機会が高校生も増えた。高校生になる前の小中学校ではGIGAスクール構想が進み、インターネット上の地図から読み取り、災害を考える機会が今後増える」と予想。気候変動や温暖化の進行による災害の激甚化なども踏まえ、防災教育の重要性はより高まると強調した。

 また現在、自治体などが発行しているハザードマップは、色分けのルールなどで標準化が進んでおらず、自治体の境を越えると災害情報が分からなくなるなどの問題点があり、紙やPDFでは情報を統合的に見ることが難しいとも指摘。これらの課題を解決するツールとして、便利なウェブGISのサービスを紹介した。

 例えば、国土地理院が公開している「重ねるハザードマップ」は、洪水や土砂災害、津波などの災害情報をボタンで選択するだけで簡単に地図上に重ねることができ、自分が住んでいる地域でどんな場所にどんな災害リスクがあるかを可視化できる。同じく国土地理院が出している「地理院地図」では、土地の高低差を立体的に捉えやすい「陰影起伏図」を他の地図情報と合成できるほか、2地点間や道なりに標高差を断面図で示したり、過去に災害があったことを後世に伝える「自然災害伝承碑」や指定緊急避難場所の所在を表示させたりすることが可能になっている。

 これらのウェブGISの機能を実演も交えながら解説した小田准教授は、実際に災害が起きたときは防災気象情報と防災地理情報をリンクさせて判断する必要があるとし、「学校の防災教育はそれぞれの学校や発達段階、学習内容に応じてこうしたツールを活用して、平時からどういったところにリスクがあるのかを読み取る授業や、例えば『もう何日も大雨が降り続いていて、こういう警報が出た。お年寄りと一緒に住んでいるあなたはどうしますか』など、より差し迫った状況を付与して考えさせることもできる」と、ウェブGISを活用した防災教育の実践を呼び掛けた。

 参加した高校の教員は「今は公民科の授業を担当していて、生徒にも津波の話をすることがある。今日は地理という枠ではあったが、各教科、各教員がそれぞれ防災教育をどうやっていくかを考えるのは大切で、地理の知見を融合させて公民科としての資質を育てられるかが自分の課題意識としてある」と振り返っていた。

 ハザードマップの活用を考えたくて参加したという小学校の教員は「ウェブGISを使うと、身近な地域のこの場所に、こんな災害リスクがあると、子どもたちにも具体的に伝えられるように感じた」と、活用イメージを膨らませていた。

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