国は「給特法を廃止」と明言を ワーク・ライフバランス小室社長

国は「給特法を廃止」と明言を ワーク・ライフバランス小室社長
有志の会の会見に出席した小室社長
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 給特法の見直しを求めてオンライン署名を展開している有志の会のメンバーの1人、ワーク・ライフバランス(東京都港区)の小室淑恵社長はコンサルタントとして、これまで200以上の学校や教育委員会の業務改善に携わった。小室社長は「教員の労働時間管理に責任を取る人間がいない」という現状が、学校の働き方改革を妨げていると指摘。その根拠となっている給特法の廃止を国が明言することこそ働き方改革、ひいては教員確保の第一歩になると訴える。

学校は労働環境に責任を持つ人がいない

 小室社長は教員の働き方改革を進める上で、最も大きな障害は「労働時間に関して責任を取る人がいない仕組み」と強調。それを担保している法律こそが、教員の時間外労働と休日手当について、労働基準法を適用しないと定めた給特法だと語る。

 「学校現場の管理職は働き方改革をしても評価されないし、逆に何もしなくても降格することがない。労働環境に責任を持つ人が事実上、一切いないということ。360度評価など管理職を一般の教員が評価する仕組みもない」。その結果、管理職はもっぱら教育委員会や保護者からの評価を重視し、クレームを避けるために「念のためにやる仕事」を現場で積み重ねていると訴える。

 自身の経験を踏まえ、小室社長は学校現場における残業について、「学校や学年独自、地域に根差した慣習などに派生している業務が要因なので、管理職が『この業務は止めていい』と具体的な指示を出さないことには減らせない構造」と指摘。管理職が地域への説明も含め、責任とリスクを持って対応しない限り、現状は変わらないとした。

給与を増やしても教員不足の解決にならない

 教員のなり手不足や処遇改善について、抜本的な改革案の作成を目指している自民党の「令和の教育人材確保に関する特命委員会」。2月22日に開かれた第4回会合に有識者として小室社長も出席し、「調整額の増額や手当の創設だけで乗り切ろうとすれば、若者はすぐに見抜く」と主張。魅力ある人材確保のためには、長時間労働の是正こそが重要だと述べた。

 「教員不足というのは、教員がどんどん辞めること。そして、学生から選ばれなくなっていること。この2つを解決しなければいけない。調整額の増額で給与が多少増えたからといって、問題は何も解決しない」と小室社長は口にする。

 小室社長が教員不足につながると考える課題は▽子供に向き合う時間や授業準備という、教員の根幹である時間をとれない職業になっている▽断れない形で業務が増やされるのに、残業とは認められず報われない▽精神疾患で休職する教員が年々増えるなど、健康を維持することができないほどの長時間労働に強い不安を覚える――の3点。

 給与の話は業務量と比例していないという時に話題となるだけで、「給与が少ないから頑張れないというような話は誰もしていない」と話す。にもかかわらず、教職調整額の増額や残業代の支給ばかりが注目されるのは、「課題と解決策がかみ合っていない」と断じる。

 さらに、「教員だけでなく、児童生徒が大きな被害を受けている」と小室社長。学校現場における働き方改革は子供や保護者もステークホルダー(利害関係者)にあたるとし、給与面の改善だけでは何も解決しないと繰り返す。その上で、有志の会の目的を「民間同様の仕組みを取り入れ、教員が精神的に児童生徒の多様性を受容できる環境を作ること」と説明した。

給特法廃止「明言」こそ教員確保の第一歩

 「(超勤4項目を除き)教員に残業を命じないという給特法を維持する限り、教員採用がままならない状態が解決することは決してない」――。小室社長はそう断言する。

 その根拠として言及したのが、19年の改正給特法で可能となった変形労働時間制。長期休業期間中に「休日のまとめ取り」をすることを目的に新たに盛り込まれたが、導入にあたっては条例を各自治体で定める必要がある上、在校等時間が月42時間以内、年320時間以内に収めることを前提とするなど、ハードルは高い。去年12月に文科省が公表した調査によれば、条例を定めている自治体は都道府県で23.4%、政令市は5.0%にとどまっている。

 小室社長は変形労働制の導入を「お茶を濁しただけで何も解決しなかった。給特法の概念を維持して、微修正でどうにかしようとする限り、膨大な時間とコストを無駄にするということ」と断言。その上で「調整額増加や手当の創設を決めて施行しても、教員不足が解決しなければ、追加でお金まで無駄になる。その後で廃止に踏み切ったとしても、作った手当は減らせない」と述べた。

 働き方改革を進めるためには、「国が給特法廃止を明言すること」が重要と力を込める。「ちょっとでも残業時間が減っているのではないかと、毎年調査結果を待っているだけでは全く変わらない。政治がリーダシップを取って、まず廃止を明言するべき」。

 そう明言することは教職課程に進んだ学生にとって、教員への意欲低下を避けることにもつながると考える。さらに、「実態を変えるために働き掛ける時間は必要。しかし、3年に設定すると自分の任期ではないと考える管理職も出てくる」として、廃止決定から施行までには「2年」の猶予が大事だとした。

 文科省の試算では、教員の超過勤務に対して正当な賃金を支払うためには、約9000億円が必要だ。「文科相1人では決断できない(ほど、大きな)金額。与党だけでなく、さまざまな党が子供たちへの投資として必要な金額だと合意することが重要。それから世論。増税につながるのではという話ではなく、これまで払わなければいけなかったお金をやっと払うという経緯を深く理解してもらう。後退しないように進めるためには、子供たちの未来のために9000億円が決して惜しくない金額という民意が必要」と話す。

 人材確保につなげるため、働き方改革を内外にアピールする民間企業は増えている。その現状は、教員の処遇改善にとっても後押しになっていると小室社長は考える。「冷静に見て、給特法はブラック企業の手法そのものだと、民間から見えるようになった。数年前より民意を得られやすい状態になっている。今こそ政治が決断するべき」。

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