給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の廃止を含む抜本的な見直しを求め、インターネットで署名活動を行ってきた「給特法のこれからを考える有志の会」は3月16日、文科省の伊藤孝江大臣政務官と面会し、昨年4月から今月12日までに集まった8万345筆のオンライン署名と要望書を提出した。有志の会のメンバーは、教職調整額や各種手当の増額では残業を減らすことにはつながらないと指摘。給特法の廃止により「確実に残業が減っていく流れに移行したい」と強調した。面会した伊藤大臣政務官から具体的な回答はなかったというが、「しっかり(要望を)受け止めてもらった印象を抱いた」という。
要望書では、「給特法の見直しとそれに伴う業務改善の要望」として▽労働基準法を適用し、他の地方公務員一般職と同じルールに▽残業を労働と認め、使用者側に厳格な労働時間管理を義務付ける▽残業代の支給▽時間外労働の罰則付き上限規制▽休憩時間の確保を使用者側の責任に▽持ち帰り仕事も使用者側の責任に▽勤務間インターバル制度の導入▽部活動の地域移行▽「学校依存社会」からの脱却▽授業準備時間の確保――を求めた。
また「残業代予算に関する要望」として▽残業時間の削減▽基本的待遇の維持・向上▽教育予算の拡充(教育国債の発行)――を、「その他の要望」として▽管理職評価に「残業削減」を追加▽労働基準監督行政による改善――を要望した。給特法の見直しに加え、教員定数の改善や専門スタッフの増加も要望書に盛り込んだ。
伊藤大臣政務官との面会後、記者団の取材に応じた高校教員の西村祐二氏によれば「特に具体的な返答があったというよりは、受け止めてもらった」といい、「(給特法の)廃止はゼロ%なのか」と尋ねたところ、「現時点でどういった方向も決めては当然いないし、どういった方向もありうる」という内容の回答があったという。
面会に先立ち、有志の会のメンバーは文科省で記者会見を開き、今回の署名と要望書について説明。西村氏は「教職調整額や各種手当の増額は、全く解決にならない。なぜなら、残業を減らすことにつながらないからだ。そうではなくて給特法を廃止し、残業は管理職が命じた労働であるとしっかりと認めて、労働の責任を管理職に負わせ、結果的に残業が生じたら残業代というペナルティーが生じるという形で、確実に残業が減っていく流れに移行したい。目指す本当のゴールは、『残業代は支払われるが、実際に残業はほとんどない』という職場。そうなれば、若者も志望してくれるのではないかと思う」と訴えた。
また、日本若者協議会の室橋祐貴代表理事は「あまり議論されていないと感じるのが子供の視点。子供の自殺や不登校が増えており、子供をケアする大人の層をどう分厚くしていくかが求められている。さまざまな国の視察で感じたのは、子供の個性に合わせた教育をしようとすると、やはり20人ほどの学級でないと難しいということだ。しかし、教員の長時間労働によって志望する学生が集まらない。子供たちのケアをする人を増やすためにも、待遇改善によって教員として働きたい人を増やしていく必要がある」と語った。
署名については「教師以外のいろいろな立場の仲間が訴えてくれている。世論もだいぶ変わった」と西村氏。嶋﨑量弁護士も「学校関係者は『世の中の理解は得られないはずだ』と言うが、世の中はもう長時間労働が良いものだとは受け止めておらず、制度の仕組みを理解すれば(給特法の課題が)分かる」と指摘した。
有志の会は引き続き署名活動を進めるとともに、文科省が現在進めている勤務実態調査の結果を踏まえ、今年5月をめどに「何らかのメッセージを発するべきだと思っている」(西村氏)としている。給特法の見直しについては、自民党の「令和の教育人材確保に関する特命委員会」が同5月ごろまでに議論をまとめるとしているほか、立憲民主党などでも議論が進められている。