いじめ防止の強化策を検討している文科省の「いじめ防止対策協議会」の第5回会合が3月23日、オンラインで開催された。文科省では4月から児童生徒の生命や身体に関わるいじめ重大事態に関しては、学校設置者や学校による国への調査報告の提出などを求めて情報の集約を目指しており、この日の会議では調査の方法や調査に伴う課題、報告書の分析の方向性などについて議論された。
文科省が都道府県教委などに対して行った3月10日の通知では、4月1日以降、学校や学校設置者からいじめ重大事態の発生、調査の開始、調査報告書の提出を求めている。同省はこれらの情報を活用し、調査の運用改善を行うほか、4月に発足するこども家庭庁と情報を共有する。
いじめ防止対策推進法では、学校設置者や学校は重大事態を受けて組織を設けて事実関係を明確にするための調査を行う、とされている。文科省の「いじめの防止等のための基本的な方針」で、この調査は「事実関係を明確にする」ために行うもので、因果関係の特定を急ぐべきではなく、その責任追及を直接の目的とするのではないとされた。
しかし、実際には調査内容の詳細が決まっていないために、事案によっては膨大な調査項目が設定されたり、自殺の動機といじめとの因果関係の証明を行ったりするケースがあり、経験の少ない自治体などでは調査組織の立ち上げや調査の長期化などで負担が増加しているという実態があった。
その上で、文科省ではこの日の会合で、今後の調査の方法などの在り方について論点を整理。調査自体が再発防止策の検討を目指すものであることを踏まえて、国が標準的な調査項目や内容を示していくことが必要と指摘。さらに調査経験の少ない学校設置者を念頭に調査に必要な対応の仕方やノウハウなどを示すほか、調査を担う人材の育成の必要性を示した。
これを受け渡辺弘司委員(日本医師会常任理事)は「基準となる調査項目はあっていいのではないか。実際、何をどう調べてどう書いたらいいか当事者は分からないことが多い。分析するときにも基本となる共通項目があればしやすい」と指摘した。八並光俊委員(東京理科大大学院教授)は「例えば子供たちが中学校から高校に行くなど進学した場合には、中学時代の遡及(そききゅう)的な調査は難しい。そういった場合の調査のやり方についても示してもらえるとありがたい」と述べた。村山裕委員(日本弁護士連合会)は「いじめにはいろいろなバリエーションがあるので、対応・留意点については早く出していく必要がある」、遠藤哲也委員(東京都葛飾区立新宿中学校長)は「重大事態の経験がなく意識の薄い管理職、教員が多い。いじめが発生した時に証拠保全の意識が弱く、根拠のないまま話が進んでいくケースもあるので、ノウハウや留意点が分かっていれば意識が高まって防止策の普及啓発にもつながっていく」などと発言した。
さらに会合では文科省から調査報告書の分析・活用の方向性も示された。それによると、重大事態につながるケースに共通するいじめの背景や原因などを把握し、重大事態への対処の改善・強化を図るとともに未然防止策へつなげる、調査に係る混乱や現場の困り感の解消に向けて、迅速かつ適切な調査の運用の在り方や調査すべき内容を検討するとした。さらに事態の認知から調査開始までの迅速な処理に向けた検討も必要としている。
これについては、中田雅章委員(日本社会福祉士会副会長)から「分析をした後、どのようにそれを生かしていくことができるのか、アウトプットの活用が漠然としている」、田村綾子委員(日本精神保健福祉士協会会長)から「共通する要素を抽出して再発防止や未然防止につなげるのはすごく大事なことだが、一方で共通する要素はなくてもヒヤリハットのような教訓も生かしていける仕組みになるといい」などの意見があった。