スポーツに励む中高生の留学意欲を喚起しようと文科省は3月30日、世界の舞台で活躍するアスリートと中高生の交流イベントを開いた。ラグビー日本代表の姫野和樹選手と、スコットランドでプレーするサッカーの旗手怜央選手によるトークショーが行われ、海外に挑戦することや異文化に触れる大切さを熱く語った。
同イベントは文科省の留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」の事業の一つで、高校生が主体となって、高校生の留学を啓発するプロジェクト「#せかい部」の一環で開催。オンラインも合わせて90人の中高生が参加した。
姫野選手は2019年に日本で行われたワールドカップで日本代表として出場。サモア戦でトライを決め、日本の勝利に貢献した。旗手選手は22年からスコットランド・セルティックFCでプレー。22年FIFAワールドカップアジア3次予選では日本代表にも選出されている。姫野選手は会場、旗手選手はオンラインで参加した。
21年にラグビーの強豪国ニュージーランドのチームに所属。新人賞にも輝いた姫野選手は海外挑戦の理由について、「居心地の良い環境から離れたかった。プレッシャーのかかる舞台で『失敗したい』と思った」と明かした。その上でチームメートらとのルームシェアなどを通し、「支えてくれる人もいない中で、挑戦することで考え方が整理され、メンタルが強くなった。自分と向き合う時間も多くなり、新たな価値観が生まれた」と成果を語った。今年開催されるワールドカップについても、「自分を磨いたことで、余裕ができた」と自信を口にした。
一方、旗手選手も「日本のサッカーに対する慣れを払しょくしたかった。スポーツマンとしてだけでなく、人間としても成長したかった」と向上心から海外に進出したと話した上で、「6万5000人の大観衆の中、毎試合プレーする。結果が出ないとすぐに批判される。そういう環境だからこそ、自分を律する心が身に付いた」と述べた。
さらにトークショー終了後、旗手選手が会場を去った姫野選手を呼び戻し、「選手は(監督から)選ばれる立場という中で、メンタルをどのように保っているか」と質問。それに対し、姫野選手は「自分がどういう状況に置かれ、どう思い、どういう行動をしたらいいかをノートに書く。可視化することで自分と対話ができ、考えが整理され、メンタルも落ち着く」と答えた。世界の舞台で活躍するアスリート同士が自らを高め合おうとするやりとりを、参加した生徒は興味深そうに聞いていた。
北欧への留学を目指しているという日本大学豊山高校の河村伯凱さん(3年)は「調べるだけじゃ分からないことが、両選手の話を聞いて知ることができた。海外に行けば新しい出会いや発見があるのかなと想像できて興奮した」と話した。また、ダンスを海外で探究したいという浦和実業学園中学校の桜庭梨花子さん(3年)は「日本と違う場所で挑戦するだけでもすごいのに、言葉の壁や環境の違いを乗り越えて活躍しているのがすごいと感じた」と話すなど、留学を志す生徒の励みになったようだった。
来年度から第2ステージを迎える文科省の留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」。若年層の留学を促すため、返済不要の奨学金を給付する主要事業「日本代表プログラム」の高校生の人数を大幅に拡充。14年度から22年度の9年間で約3400人だったが、来年度から27年度の5年間で4000人を採用する。4月1日からは新高校1年生の応募申請も始まる。
新型コロナの影響で日本人の海外留学数は大幅に減少。21年度は1万999人で、前年度に比べ1万人近く増えたものの、過去最高だった18年度の11万5146人からは大きく水をあけられている。文科省は27年度までにコロナ前の水準に戻すことを目指しており、同省トビタテ!留学JAPAN広報の西川朋子さんは「国際交流の支援プログラムを持っている自治体はたくさんあるが、コロナで止まってしまった地域も少なくない。そういった動きを元に戻せば盛り上がるはずなので、自治体と協働して応援する施策をしっかりやっていきたい」と話す。