給特法の見直しを視野に教員の給与や学校における働き方改革に関する論点の洗い出し作業を続けてきた文科省の調査研究会は4月13日、第4回会合をオンラインで開き、論点整理を了承した。それによると、教員の月給を4%上乗せする代わりに時間外勤務手当を支給しない給特法の教職調整額について、「自発性や創造性など教員の職務の特殊性をどう考えるか」「時間外勤務を削減するインセンティブが機能するか」などを論点に挙げた。委員からは、今後議論を進めるに当たって、「健康を害するような心身に負荷のかかる過重労働をなくすことが、優先順位が一番高い」「給特法が教員の働き方の特徴としている自発性や創造性という表現はやや抽象的。必ずしも自発的とは言えない働き方が自発的とされ、健康被害を捉えにくくしている」「教員の働き方の自由度を確保することが重要。自分の意思によって自分の働き方を決められる余地があると、教員の働きがいと働きやすさを両立した環境につながっていく」などと、高度な専門職としての教員の働き方について深い議論を求める意見が相次いだ。文科省によると、この論点整理を基に、5月に予定している教員勤務実態調査の速報値公表の後、中教審で給特法見直しや処遇改善の検討が始められる。
論点整理では、基本的な考え方として、教員不足も指摘される中、質の高い人材を確保するために教職の魅力向上を図る必要があると強調。その上で、人材確保法の趣旨に照らした職責にふさわしい処遇の改善や勤務制度などを一体的・総合的に検討していく必要があるとし、具体的な論点を①教員給与②教師の勤務制度③さらなる学校の働き方改革の推進④学級編制や教職員配置⑤支援スタッフ配置――に分別した。
このうち教員給与については、「給与のみならず、勤務制度、学校における働き方改革、教職員定数・支援スタッフなどに関して一体的・総合的に検討する必要がある」と明記。現行の給特法が定める教職調整額や超勤4項目を議論する際に留意が必要な観点として、▽教育が、教師の自発性、創造性に基づく勤務に期待する面が大きいことなど、教師の職務の特殊性をどう考えるか▽教師の職務は勤務時間の内外に切り分けることができる性質のものなのか▽仮に時間外手当を支給する場合、学校管理職が時間外勤務の承認を実務上できるのか▽仮に時間外手当を支給する場合、服務監督権者である市町村教委に時間外勤務を削減するインセンティブが民間企業の場合と同様に機能するか。市町村教委の考え方の差異によって給与面での差が生じる可能性をどう考えるか――といった点を指摘した。
このほか、教員給与の論点として、「新たな手当を創設するなど、教師の意欲や能力の向上に資する給与制度の構築をどう考えるか」「非公務員である私立や国立の学校の教師と、公務員である公立学校の教師の職務やそれに伴う給与の在り方をどう考えるか」「諸外国では、時間外勤務を時間により測定し、それに対して追加的な給与を支給する仕組みは必ずしも一般的ではないことをどう考えるか」といった項目を挙げた。
勤務制度については、教員が健康で柔軟かつ効率的に勤務できるよう見直すことも検討すべきとした。具体的には、育児や介護などを行う教職員が働きやすいように柔軟な勤務時間を設定することや、2019年度の給特法改正で導入された「休日まとめ取り」のための1年単位の変形労働時間制の活用促進に向けた運用の見直し、国家公務員で導入が検討されている、終業時から次の始業時までに一定の休息時間を設ける「勤務間インターバル」などを論点として挙げた。
さらなる働き方改革の推進については、19年に中教審が働き方改革答申で示した「学校・教師が担う業務に係る3分類」の改善や、20年に文科省が示した「公立学校教員の勤務時間の上限指針」の実効性を高める仕組みなどの検討を指摘。各教委における働き方改革の「見える化」や客観的な方法による勤務実態の把握に加えて、教職員の精神疾患による休職者が増えている現状を踏まえ、産業医の面接指導や管理職・同僚との関係の在り方について実効性のあるメンタルヘルス対策を一層充実させるための取り組みについても検討を求めた。
こうした論点整理を踏まえた今後の議論の進め方については、委員からさまざまな注文がついた。
労働法を専門とする川田琢之委員(筑波大学ビジネスサイエンス系教授)は「健康を害するような心身に負荷のかかる過重労働を減らすということが、一番高い優先順位と言っていい」と強調。教員が能力を発揮するためには、教員自身の判断に基づいて仕事の時間配分が決められるような自由度を確保することが重要であり、それが教員の働き方の特性や専門性に関わる、と指摘とした。
現行の給特法が教員の職務の特殊性として教職調整額を設定する根拠としている「自発性、創造性」という表現については「やや抽象的であり、必ずしも自発的とはいえない働き方が、給特法の枠組みに当てはめたとき、自発的な働き方として整理されてしまい、健康被害の問題を捉えにくくしている。自発性、創造性を出発点として、その具体的な中身を掘り下げて概念を整理し、それを使いながら検討していくことが望ましい」と述べた。
さらに、時間外手当など含めた教員の給与を考えるに当たっては「何に着目するのかを考えることが重要になる」と指摘。「民間企業の労働関係においては、裁量労働制などの下、仕事の成果とか働き方の質に着目して給与を払っていくような、勤務時間の長さ以外のところに、着目すべきポイントがあることが明確になっているケースが多い。勤務時間の長さが意味を持つと考えるのであれば、その働いた時間の長さにある程度対応するような給与の在り方が望ましい。何に着目して給与を考えていくのがいいかが、今後の議論で重要になってくる」とした。
鍵本芳明委員(岡山県教育委員会教育長)は、教員が誇りを持って仕事に向き合うために処遇改善は必要とする一方、「その前に業務の削減や適正化、定数改善による学校組織の体制の強化を行う。教員の業務負担の軽減を図る取り組みを最優先で進めていくべきだ。学校現場の混乱を避けるような議論の進め方も大切になる」と述べた。「学校現場では、保護者や地域住民の理解を得るのは難しいと、議論に入る前に尻込みしている。国民から理解を得るためには、学校現場だけに任せるのではなく、国、都道府県、市町村などの各主体が努力することが必要になる」と強調した。
藤原文雄委員(国立教育政策研究所初等中等教育研究部長)は「諸外国の経験をみると、総合的に変革しようとする場合、制度や組織構造の改革だけではなく、文化の変革が重要になってくる。この改革は、これまでの教員像の再構築をしないとやっていけない。地域で学校を作っていくような理念を国民と共有していくことが重要になる。また、チーム学校を実現するために教員養成や教員研修が大切になってくる」と述べた。
青木栄一委員(東北大学大学院教育学研究科教授)も「論点が網羅されていて、今後の検討の発射台に足りうる」と評価する一方、「教員の業務の総量を減らすのが喫緊の課題。教員一人当たりの業務量を減らした上で給与や処遇というものを具体的に検討するべきだ」と指摘。在宅勤務によって勤務の自由度を上げたり、勤務時間内の休憩の在り方を考えたり、多忙な副校長や教頭に支援スタッフやアシスタントを付けたりする必要を挙げた。
論点整理の取りまとめに当たった貞廣斎子座長(千葉大学教育学部教授)は、今後の議論の進め方について「部分最適ではなく、全体最適を意識した議論をしてほしい。多様な要素がお互いに相互に影響を及ぼし合いながら、今の実態があることを考えると、例えば、教員定数のみ、給与のみ、という部分最適ではなく、全体的に目配りをして、どのように教員が働きがいを感じる環境を実現するかがとても大事になる」と注文を付けた。
同時に、教員の働き方の自由度を確保す重要性にも言及。「諸外国の調査では、教員の働きがいやメンタルヘルスの増進には、フレキシビリティ(柔軟性)とオートノミー(自律性)が重要であるとの結果が出ている。つまり、柔軟に働けるというだけではなく、自分の意思によって自分の働き方を決められる余地があると、同じような業務をやっていても徒労感は減っていき、働きがいも出てくる。もちろん業務量の総量は減らさなければいけないが、高度な専門職たる教員が自律的に自分の働き方を決めていける余地を作っていくことも、教員の働きがいと働きやすさを両立した環境の在り方につながっていくのではないかと考えている」と議論を締めくくった。
(1)教員給与
※上記について留意が必要な観点
※上記について留意が必要な観点
(2)教師の勤務制度
(3)さらなる学校の働き方改革の推進
(4)学級編制や教職員配置
(5)支援スタッフ配置等
※文科省「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する調査研究会」の論点整理より作成