15歳で島を出る 東京・利島の「自立」を目指す教育

15歳で島を出る 東京・利島の「自立」を目指す教育
利島小中学校のグラウンドでは町民運動会など地域のイベントも行われる(利島村教委提供)
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 15の春ーー。これは東京から南に約140㌔に位置する、自然豊かな周囲約8㌔の小さい島「利島(としま)」で毎年3月に行われる、中学を卒業した子どもたちを島外に送り出すセレモニーだ。人口約330人、日本で3番目に人口が少ない自治体の東京都利島村には高校がない。そのため、子どもたちは中学を卒業すると島外の高校などに進学することとなる。こうした背景もあり、同村では子どもたちの「自立」を目指す学びに取り組んできた。4月22日には、村唯一の学校である利島村立利島小中学校(小野享洋校長、児童生徒31人 )の教員11人と、村山将人村長、弟子丸知樹教育長が参加し、「15の春」に向けて子どもたちにどう育ってほしいのか、何を身に付けてほしいのかを考える勉強会が行われた。

15歳で島を出る子どもたちに身に付けてほしい力とは

 昨年10月に就任した弟子丸教育長は「利島村の人口は約330人と少ないからこそ、全員で考えて学び合えるという良さがある。一方で課題としては、新しい情報が入りづらく、無意識のうちに『井の中の蛙』状態に陥る恐れもある。意識的なアップデートと、前向きな実践が不可欠だ」と話す。

 今年1月からは月1回程度、同村教委主催の勉強会を開催しており、これまでもへき地教育の専門家を招いて保護者と一緒にへき地教育や小規模校教育の可能性について考えたり、GIGA先進自治体の取り組みを学んだりするなどしてきた。

 この日の第4回の勉強会では、「15の春」をテーマとし、より具体的に「15の春」までに子どもたちにどう育ってほしいのか、どんな力を身に付けてほしいのかを、ワークショップ形式で考えていった。

 ワークショップを前に、同村教委が実施した、島外の高校に進学した高校1年生へのヒアリング内容が紹介された。例えば「1人暮らしをしているが、洗濯や食事など、大変さが分かっていなかった」「利島では先生が全員の子どものことを知っているのが当たり前だったが、こちらでは部活動の顧問が自分の名前を知っているのかさえも不安」といった戸惑いの声や、「どんな世代の人とも関われる」「発表する機会が多く、行事においても一人一人に役目があったから、発言する力や周りを見る能力は自分の強み」といった、同村の教育を受けたからこそ身に付いた力を挙げる声が紹介された。

 また同小中学校の児童生徒への調査では、ほぼ100%の子どもたちが「利島が好き」と答え、約70%が「利島の役に立ちたい」と思っているものの、「自分の行動で利島を変えられる」と思っているのは、約30%と少なかったことが分かった。

 弟子丸教育長はこうした調査結果などを踏まえ、「『15の春』はシンボリックだが、抽象的な面もある。利島の教育に関わる人々にとっての共通言語が必要ではないか」と提案。その共通言語になるものとして「『15の春』チェックリスト」を作成しており、その案を参加した教員らに提示し、「果たしてチェックリストという名称でいいのか、そうしたことも含めて、皆さんにも考えてほしい」と呼び掛けた。

「何事も前向きに捉える力」「自分は“独り”じゃないことを知っている」

「15の春」までに子どもたちに身に付けてほしい力を考える、利島小中学校の教員らの勉強会(利島村教委提供)
「15の春」までに子どもたちに身に付けてほしい力を考える、利島小中学校の教員らの勉強会(利島村教委提供)

 ワークショップでは、まずそれぞれが「教員として子どもたちに育ってほしい姿」「中学卒業までに身に付けておいてほしいこと」と、弟子丸教育長が示した「『15の春』チェックリスト案」に対する意見などを、付箋に書いていった。その後は3つのグループに分かれて、各付箋をホワイトボードに提示しながら考えを深め合った。

 育ってほしい姿や、身に付けてほしい力については、「何事も前向きに捉える力」「自分は何が得意なのか、何が好きなのかを自信を持って伝えられる人」「困った時に助けを求められる人」「自分は“独り”ではないことを知っている」「学習の基礎基本を身に付けている」など、さまざまな意見が出ていた。

 あるグループでは、「学ぶことの楽しさ、知ることの面白さを知っていて、自ら課題を見つけて研究できる力を身に付けてほしい」との考えに他の教員らも賛同する中、「現状では学校であまりそういう機会を与えられていないように思う。大人がやり過ぎていては、この力は育たない。もっと子どもたちに任せていくことが必要ではないか」との意見が出て、現状の課題を認識し合っていた。

 また、児童生徒の意識調査結果について、「利島を変えられると思っている子が少ないというのは、大人がそういう姿を見せてしまっているからではないか。子どもは大人の鏡。村全体の自信が子どもたちの自信になる」との意見も出ていた。

 弟子丸教育長が示したチェックリスト案については、「そもそも、このチェックリストを誰が使うのかを考えなければいけない」「チェックリストをマンダラチャートのようにして、達成したら塗りつぶしていくようなことができると面白いのでは。キャリア教育にもつなげていきたい」「このチェックリストは、利島の子ども限定ではなく、日本のどこの学校にいっても通じるようなものにするべきではないか」との意見や指摘があった。

 また、ある教員は「果たして大人の感覚と子どもの感覚が、ちゃんとリンクしているのだろうか。子どもたちは何ができるようになりたくて、何が課題だと感じているのか。それを共に考えていった方がいいのではないか」と話した。さらに別の教員は「『15の春』を経て、島外に出た子たちの声をさらに集めていくと、もっと今の小中学生が実感を持って『15の春』を考えられるようになるのではないか」と提案した。

 予定時間を超えても続いた活発な議論に、弟子丸教育長は「今後も教員や子どもたちなどから意見を募り、今年度中には『15の春』のチェックリストを形にしたい。公表後も、定期的により良く改善しながら、地域や家庭、学校の共通言語にしていけたら」と展望を語った。

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