部活動などを背景に、他の校種と比べて長時間労働の深刻さが指摘される中学校。今回の教員勤務実態調査の結果でも、中学校教諭の在校等時間は、平日・土日ともに小学校、高校よりも長かった。一方で、土日の部活動の時間が減少するなど前進も見られた。全日本中学校長会の平井邦明会長(前東京都台東区立忍岡中学校校長)は、学校現場の意識が変わりつつあることを実感しつつも、部活動を始めとした改善の難しさを語る。今回の調査結果は、今後の給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の見直しの議論にも関わる。平井会長は「『子供たちのために』という気持ち一つで頑張っている教員たちの心が折れないよう、学校現場の実態を反映した見直しを進めてほしい」と期待する。
これまで多くの働き方改革の取り組みがなされてきたが、今回の数字を見ると、「改善は進んでいないわけではないものの、やはり思ったようには進まないのだな」と感じた。とはいえ、教員の勤務時間に対する意識は近年、はっきりと変わってきている。「早く帰れる日があれば帰ろう」という雰囲気を学校管理職も作ってきたし、教員たちの間でも、自分の時間を大切にした方が結局、仕事により集中できるという考え方が広がってきた。
しかし、やるべき仕事が減ったわけではない。どうしたらもっと時間をうまく使って、効率的に、これまでと同じような成果を出すかという発想に立って、無駄なことは減らしていくよう、心掛けるようになった。ノー残業デーを実施する学校も増えており、そうした効果は実際に出ているのではないか。
中学校の長時間労働を考える上で、大きな課題となっているのが部活動だ。今回の調査結果では土日の部活動の時間が減少しているが、主な要因はやはり、2018年にガイドラインが策定されたことだろう。それまでは全て顧問の都合で部活動ができてしまうので、練習が毎日あるのも普通だったし、生徒たちも部活動が終わって帰宅し、夕飯、宿題を済ませたら体力が残っておらず、すぐに寝てしまう、ということもあった。こうした状況に対し、ガイドラインが適切な休養日の設定、効率的・効果的な活動などを求めた点は大きな意義があった。
とはいえ、部活動の改革は容易ではない。今回の調査結果によれば、部活動の負担感のスコアが高く、重要度のスコアは低かったが、やりがいのスコアが比較的高い。つまり、部活動は教員の本来業務ではないという意識は高まっているはずだが、顧問を担当すれば教育的効果が出るように取り組もうとするため、やりがいも生まれてくる。ここが難しいところだ。部活動を楽しみに小学校から入学してくる子供たちも多く、急に廃部とするわけにはいかない。さらには顧問になれる部活動指導員が少なく、外部指導者を入れたとしても、活動時間中は教員が顧問として共に関わり続けなければならないという課題もある。
調査結果では、教育課程外の活動である部活動について「削減すべきで削減可能」と答えた教員が40.5%、「削減すべきだが削減は難しい」と答えた教員が45.0%と拮抗(きっこう)した。削減が難しい理由としては、「所属する学校の文化により難しい」(42.0%)、「地域の理解が必要となる」(34.2%)、「保護者の理解が必要となる」(47.9%)、「児童生徒の理解が必要となる」(43.1%)、「地域ボランティア、支援人材、教員などの追加的な協力が必要」(52.6%)が並び、さまざまな課題が残っていることが分かる。
「学校の『営業時間』を超えて、生徒たちが学校にいる」という実態は、何とか変えていかなければならない。校長の中には「学校でできることは既に取り組んできた。働き方改革は限界に来ている」と語る人もいるが、この調査結果を見ると、もう少し学校でも工夫できるところがあるのではないか、とも思う。
例えば、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、学校行事の一部は学校でかなりの工夫・改善をして、シンプルなものに変えてきた。それでも目的を達成し、子供たちが十分に達成感などを得ることができるのであれば、元に戻すのではなく維持していけばよい。
ただ標準授業時数の多さなど、学校だけではどうにもならないものもある。学校での取り組みと合わせて、そうした部分の改善がなされなければ、どれだけ予算や人を投入しても抜本的な改善は難しいだろう。また、働き方改革への理解を保護者や地域に求めると、「教員が楽をしたいだけではないか」と捉えられてしまうこともある。学校単独で取り組むのではなく、地域一体となって、自治体が積極的に周知を図るべき部分もあると思う。
給特法の見直しに関しては先日、有識者会議で論点整理がなされたが、誰もが納得する落としどころを見つけるのは難しいと感じる。私としては今後、学校現場の実態を反映した見直しがなされることを期待する。教員たちの多くは「これだけやったのだから、それに見合う対価が欲しい」などとことさらに主張することはなく、「子供たちのため」とあらば仕事をする。その気持ち一つで、使命感に駆られて働いている。
そのような教員たちの心が折れることなく、「子供たちのことに集中できる仕組みに変えてくれたのだな」と実感できるような給特法の見直しを進めてほしい。「学校現場が望んでいるのは、そんなことではない」という結果になれば教員たちの心は折れてしまうし、そうなると日本の学校教育はつぶれてしまう。勤務実態調査結果の数字から見えることだけでなく、学校現場の思いや願いを受け止めながら、議論が進むことを期待する。(談)