東京都の千代田区立和泉小学校(村田悦子校長、児童数377人)では昨年度から月2回、日本語指導の絵本を出版している作家が訪れ、外国にルーツを持つ児童にお絵かきを通して、日本語に親しんでもらうワークショップを行っている。きっかけは昨年にウクライナから避難して同校で学んだきょうだい(参照記事: ウクライナの避難児童が門出 喜びの一方、母国の思いも吐露)。彼女らが好きだったという絵がつないだ縁は、2人が学校を離れた後もその役割を果たしている。
スーザンももこさんは都内の日本語学校で教師として働く傍ら、趣味が高じ、絵本作家としても活動。日本語指導の教材として使うイラストをブログに掲載したり、勉強会で売り込んだりしたところ、出版社の目にとまり、2021年に日本語を学習するための絵本を5冊出版した。
スーザンさんはウクライナからの避難民が「日本語を覚えたい」と言っていたのを新聞記事などで見つけると、その学校や企業に自身の本を無償で寄贈。これまでに和泉小学校を含め、全国約10カ所に提供している。「絵本を見ながら少しでも楽しく、一つでも日本語を覚えてくれたらという気持ち」と話す。
同校には昨年度、ウクライナから家族と避難したジブロフスカ・オリビアさんとジブロフスキ・ヤンさんきょうだいが在籍していた。2人の趣味が絵を描くということもあり、村田校長がスーザンさんにアプローチ。スーザンさんも2人に関心を寄せ、ワークショップは始められた。
ワークショップでは、スーザンさんが所有する100色の色鉛筆を使ってお絵かき。色の種類を日本語で聞いたり、思い思いに描いた絵の内容を話したりしながら、2人は日本語に親しんでいった。
オリビアさんは3月に卒業。ヤンさんもオリビアさんの進学先と同じインターナショナルスクールに転校した。一方、同校には日本語指導が必要な外国にルーツを持つ児童が現在、4人在籍している。彼らにも学校生活を楽しく過ごしてほしいとの思いから、ワークショップは今年度も継続。「特色ある教育活動」として区の支援も受けられることになった。
取材に訪れた4月28日は、2時間目と3時間目の間の休み時間を利用して、2年生のアルタイル・ヒロブミさんが参加。アルタイルさんがスーザンさんと絵を描いていると、興味を持った他の子供が集まって一緒に絵を描き始める。オリビアさんらが在籍していた時も、他の児童が集まりコミュニケーションをとりながら、お絵かきを楽しむ光景が見られたという。
もともと千代田区には週2回、日本語指導員が学校を訪れ、日本語が苦手な児童をサポートする制度があるが、このような取り組みと並行することでより効果的に日本語を覚えられるとスーザンさんは語る。「日本語指導員の方が文法を教えることももちろん大事だけれど、自然に生まれる会話で身に付く部分も大きい。他の児童も集まることで鉛筆を貸してと言ったり、借りたらありがとうと言ったり、逆に使うか尋ねたりといったコミュニケーションが生まれる」。
アルタイルさんは2月に同校に転校。村田校長によると転校当初は「日本語が分からないし、学校がつまらない」と漏らしていたという。しかしこの日、他の児童と接しながら笑顔で絵を描く姿を見て、「ずいぶん日本語が上達した」と村田校長も驚いた様子。「区の日本語指導員によって、知識として入った日本語がスーザン先生によって発展してもらえる。この効果は大きい」とスーザンさんに同調する。
村田校長は「正直言って、ウクライナから来た2人がいなくなったら終わってしまうのではないかと思っていた。これからも日本語指導の必要な児童が入学する可能性は高いので、こういった取り組みを続けていきたい」と力を込めた。