「働き方改革をする“時間”がない」 大字全連小会長に聞く

「働き方改革をする“時間”がない」 大字全連小会長に聞く
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 教員の働き方改革や処遇改善などが盛り込まれた「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策」が中教審に諮問され、学校の在り方を抜本的に見直す議論が進められる方針だ。全国連合小学校長会(全連小)会長であり、東京都世田谷区立下北沢小学校(児童743人)の大字弘一郎統括校長は今回の諮問について「大変ありがたい」と評価する一方で、「働き方改革をする“時間”がない」と、ひっ迫した教員の現状を語る。

授業時数を減らすことにお金はかからない

――中教審の諮問について、どのように受け止めているか。

 このタイミングで、教員の労働環境について踏み込んだ諮問が出されたことは、現場としては大変ありがたい。一方で、数字を含めどのように具現化するかが、これから正念場だろう。

 例えば、最近よく耳にする言葉に「チーム学校」がある。スクールカウンセラーなど外部人材を入れることは、もちろん喜ばしいことだ。しかし、チームとして課題に取り組むためには、PDCAのサイクルを回す“時間”が必要だ。実際の学校現場はどうだろう。外部人材に協力を仰ぐための、ミーティングをする時間すらないのが現状ではないか。すると、勤務時間外から捻出するしかなくなる。働き方改革をするための時間が、すでに学校にはないのだ。

 授業時数を減らさなければ、何も始まらないのではないだろうか。私はこれまでも、中教審の総会などで授業時数の削減を訴えてきた。年間の標準授業時数は、小学校高学年で1015。さらにクラブや委員会はこれに収まりきらず、はみ出している。週5日、1日6時間と計算しても、本来あり得ない数字だ。

 本来であれば、教員定数を増やして業務量を減らす形が理想だ。しかし、人を増やすことはそう簡単なことではない。一方、授業時数を減らすことにお金はかからない。さらにこれからの学力観や授業観を見つめ直したときにも、1時間の授業を大切にする、充実させるという考え方にシフトするのがいいのではないか。

教員の「ゆとり」は管理職がつくる

――働き方改革のボトルネックはどこにあるか。

 学校特有の「ビルド&ビルド」の構造ではないか。一般企業や役所では新しい業務が追加されるとき、これまでの業務が削減されたり、新たに人員が追加されたりして、組織が動き始める。しかしこれまでの学校は、その当たり前すらできていなかった。「外国語」「GIGAスクール」「〇〇教育」……と次々に新たな業務が追加されるだけ。現場は問答無用で受け入れるしかなく、声を上げたとしても「工夫してやってくださいね」「児童のためですよ」と、各教員の「子どものため」という気持ちの上に何とか成り立っていた。組織の仕組みとしては全く機能していないとも言える。

――校長として、働き方改革にどう向き合っていくか。

 働き方改革という名のもとに、児童の活動や学びに制限をかけたり、削ったりするのは本末転倒だ。そして1教員ができることにも限界がある。学校現場で働き方改革の責務を負うのは、校長をはじめ管理職であり、私たちが教員に時間のゆとりをつくることに尽きる。

働き方改革を進めるのが校長の役目だと強調する大字統括校長
働き方改革を進めるのが校長の役目だと強調する大字統括校長

 本校は教科担任制を積極的に取り入れており、高学年の教員は授業時数が20時間以下と、他校と比べても少ない。5・6年生の理科、音楽、図画工作、家庭科は専科教員が、体育、社会、外国語などは学年の担任が担当教科を決めて指導している。高学年だけでなく、音楽と図画工作は1年生から専科教員(ベテランの非常勤講師)が対応する。そのために、東京都や世田谷区から配置される講師は、全てもらえるよう副校長と一丸となって業務にあたっている。

 教科担任制を取り入れたことで、教員の教材研究も教科が絞られ、繰り返し授業することで精度も上がったように思う。

 そうやって生み出した「時間の余裕」については、「どう使うかは自分で考えてほしい」と教員たちに伝えている。教材研究に充てる者や児童との関わりに充てる者、早く帰宅して家族との時間を充実させる者。教員一人一人が学校生活に満足し、「今日も1日頑張った」と心地よい疲労感とともに、明日を迎えられる学校をつくりたい。

 一方で学校が抱える課題は、千差万別で、どの学校にも効く特効薬はない。東京都は正規教員の充足率が高いなど恵まれている部分もあり、地域によってはもっと困難な状況にある学校もあるだろう。自分の学校の課題は何か、管理職の先生たちにはぜひ見極めてほしい。

校長の役割は教員を大切にすること

――体力的、精神的に追い込まれ、学校現場を離れる教職員も増えている。

 子どもたちが毎日「今日も学校、楽しかった」「早く明日にならないかな」と思えるような学校をつくりたいと、常々考えている。それは教員にも当てはまることだ。当校で働く教員一人一人が、心から楽しめる学校をつくらなければならない。

 それを保護者にも共有するように心掛けている。例えば、先日の保護者会では「子どもたちが楽しく学校生活を送るためには、教員が元気に楽しく働ける学校でなくてはなりません。そのためには、保護者の皆さんの協力が不可欠です」と話した。すると1人の教員が校長室を訪れ、「心が震えました」と声を掛けてくれた。うれしかったのと同時に、校長だから当たり前だよと感じた。

 校長の大切な役割の一つは、一人一人の教員を大切にすること、元気にすること。そして教員のやりたいことができる環境をつくること。教員が生き生きと魅力的に輝いていれば、児童たちにとって憧れになるはずだ。それは未来の学校の担い手を生むことにもなる。校長が教員を大切にすることは、実は10年後の教員養成につながっていると信じている。

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