教師不足「教員の自由度上げることが鍵」 庄子寛之元教諭

教師不足「教員の自由度上げることが鍵」 庄子寛之元教諭
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 「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策」が中教審に諮問され、教員の働き方改革や処遇改善などについて本腰を入れた議論が始まった。今年3月まで東京都の公立小で指導教諭として教壇に立っていた庄子寛之氏(現ベネッセ教育総合研究所・教育イノベーションセンター研究員)は「とにかく人が足りない」と現場の悲鳴を代弁しつつ、「学校という箱に教員を閉じ込めてしまっているのではないか。教員の自由度を上げることが鍵になるように思う」と教員不足について分析する。

担任不在で綱渡りの現場

――中教審の諮問を、学校現場の現状を踏まえどう受け止めたか。

 約10年前から「働き方改革」は進められてきましたが、ますます忙しくなっているのが現状です。とにかく人が足りません。現場の教員にとっては、年々大変になっていると言っても過言ではないのではないでしょうか。

 この2カ月間で10校以上を巡りましたが、半数の学校で教員が足りず、担任不在のクラスがありました。ある小学校では、2学級の担任が不在のまま新年度をスタートし、いまも不在のまま。副校長と、少人数指導に充てられた加配教員がそれぞれのクラスに入っているようですが、1日中クラスについてはいられません。

今年4月に転職した後も全国の学校現場を巡る庄子氏(本人提供)
今年4月に転職した後も全国の学校現場を巡る庄子氏(本人提供)

 担任がいないのは、児童生徒にとっても、学校にとっても大きな負担です。1時間の授業ごとにあらゆる教員が入り、リレー方式で何とか1日の学校生活をつないでいく。ただ何か問題が起きるのは、大半が休み時間など教員の目が行き届かない隙間の時間。問題が発生するとその対応に追われ、学級運営だけでなく、学校運営自体も一気に立ち行かなくなります。まさに綱渡り状態です。

 担任がいない状態は、もちろん保護者にとっても不安でしょう。近年、子どものメンタルなど内面部分を最優先に考える保護者が多くなったように思います。「学力を伸ばしてほしい」以上に、「元気に学校に通ってほしい」「『今日も学校、楽しかった』と帰ってきてほしい」と多くの保護者が望んでいます。児童生徒の内面部分を観察するのは、どうしても学級担任が行います。担任不在が続き、子どもが不安定になっているという声も聞きます。児童生徒の学校生活を一貫してフォローする役割がいない状況は、非常に問題でしょう。

学校という箱に教員を閉じ込めている

――支援スタッフの配置なども進められているが。

 例えば東京都では、エデュケーション・アシスタントやスクールサポートスタッフなど支援員が積極的に配置されています。確かにありがたいですが、多くが午後2時や3時までの勤務である非正規職員であり、担任の変わりはできません。結局、正規教員である担任の負担はほとんど変わっていないのが現状です。

 それを解消するためには非正規職員を増やすだけでなく、正規教員を増やすしかありません。採用人数を増やしたり、臨機応変に対応できる正規教員を加配したりなど、あらゆる策が考えられます。例えば、正規教員が(子育てなどをきっかけに)支援スタッフになり、わが子が大きくなってから担任に戻る制度があると、大きく変わるのではないでしょうか。また、諮問でも示されているように、給与体系を見直し、給与自体を上げることももちろん必要です。

 一方でそれだけでは、教員不足やなり手不足の解消には足りないのではないかとも感じます。

――どのような手だてが考えられるか。

 現状の学校現場は、学校という箱に教員を閉じ込めてしまっているのではないでしょうか。教員の自由度を上げることが鍵になるように思います。

 教員はとにかく自由度が低いと感じてきました。例えば、社員が休憩中にコンビニや銀行に行くことは、民間の企業などでは当たり前に見る光景です。しかし教員は、授業の空きコマであったとしても、基本的には難しい。学校から出るとなるといくら短時間であっても、時間休暇の書類を書き、提出しなければならないなど、煩雑な作業を踏むことになります。

 また、オンラインとオフラインを使い分けた働き方も、依然として進んでいません。例えば授業が終わったら職員室を出て、在宅で業務にあたってもいいのではないでしょうか。会議もオンラインでできるはずです。転職してから在宅で働くことが多くなりました。朝、息子たちを「いってらっしゃい」と見送ることや、これまで所属校の行事と被るので参加できなかった学校行事に参加できること、一つ一つが新鮮でありがたいです。教員でもライフワークバランスを取りながら働ける形態を、本気で見直さなければならないと思います。

 さらに、教員の空き時間を増やすことも必要です。トイレに行く時間やコーヒーを飲んで一息つく時間もなく、6時間ぶっ続けで授業をしている教員が大半です。人も足りない上に、時間もないという悪循環そのものでしょう。

 働き方改革は、改善している部分はもちろんあります。しかし、状況が悪化し続ける背景には、働き方改革のスピード以上の速さで「教員=ブラック」というイメージが定着していることがあるでしょう。教員の自由度を上げた働き方の実現は、現役の教員だけでなく、教員志望の学生にとっても本望です。

「子ども主体」で隙間時間を生む

――働き方改革で、今苦しんでいる教員にできることはあるか。

 教員をしている理由を改めて考えつつ、できるだけ楽しめることに目を向けて、頑張ってほしいと思います。退勤時間を逆算して考えれば、できることはきっとあるはずです。

 始めやすいのは、テストの採点やプリントの丸付け、宿題のチェックなど、授業中にできることは授業中にやるというもの。また教員以外でもできることは、子どもを巻き込みながらやってみるのもいいでしょう。プリントの配布や掲示物の掲示、子どもがお互いで丸付けし合うなど。授業でも子ども同士が学び合う時間を増やして、子ども主体に転換すると、おのずと教員の隙間時間は増えていきます。

 従来の教育観を見直してみると、実は教員が手放せることはいくつもあります。「サボり」と受け止める人がいるかもしれませんが、全く違います。教員が手放すことは、古い教育観を変える第一歩でもあります。そして教員が新たな教育観や授業観を学ぶためにも、教師のゆとりのある時間が必要だと感じます。

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