自殺危機迫った子ほど助け求められず こどもの自殺対策会議で報告

自殺危機迫った子ほど助け求められず こどもの自殺対策会議で報告
こどもの自殺予防などに取り組んでいる有識者からヒアリングを実施した関係省庁連絡会議
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 こどもの自殺対策の強化について検討している政府の「こどもの自殺対策に関する関係省庁連絡会議」は5月26日、第3回会合をこども家庭庁で開き、こどもや若者の自殺予防に取り組む有識者からのヒアリングを行った。有識者からは、「自殺の危機が迫った子ほど、周囲に『助けて』と言えない」ことや、「こどもの近くで生活している保護者などの大人が余裕を持てない現状がある」ことが指摘された。

 この日の会合では、東京大学大学院教育学研究科特任助教・(一社)RAMPS代表理事の北川裕子氏、NPO法人自死遺族支援ネットワークRe代表の山口和浩氏が、デジタルツールを活用したこどもの自殺予防の実践報告や、こどもの自殺対策に向けて必要な視点について提案した。

 北川氏は自殺リスク評価ツール「RAMPS」を活用した、こどもの自殺予防の実践について報告。研究などで分かってきたこととして、「不安症やうつ病など精神疾患の好発症時期は思春期であり、それ以外にもいじめや学校関係の問題など、自殺の多くの場合は複数の要因が連鎖している。また、自殺の危機が迫った子ほど、周囲に『助けて』と言えないことも明らかになっている」と指摘。北川氏のグループの研究で、高校生1万人のデータ分析をしたところ、希死念慮が強まるほど援助希求が減少することが分かったという。

 「だからこそ周囲の大人が手を差し伸べる必要があるが、こどもに自殺に関することを聞くのは良くないと思っていたり、どう聞けばいいのか分からないといったりした声を教員や保護者から聞く」と話し、それがこどもの自殺の危機が見過ごされる原因になっていると指摘した。

 こうしたことから、こどもが自殺の危機について語ることを助け、大人がこどもに自殺の危機について聞くことを助けるデジタルツール「RAMPS」を開発。2023年度は新潟県、長野県、東京都など全国約100校の中学校、高校で導入されている。学校では、保健室来室者を対象とした保健室健診や、健康診断や長期休み前後に行う一斉検診、不登校の生徒など特定の生徒を対象とした個別健診などの場面で使用されている。

 RAMPSはまず生徒が一人で回答する一次検査、次に養護教諭などが端末の質問を手掛かりに問診する2次検査、回答結果をまとめて生徒への対応を検討するという3つのステップで使っていく。1次検査の質問内容も、食欲など生活に関することから聞いていき、心の不調など自殺リスクに関する質問などへと移っていく。各質問への回答時間も記録でき、例えば、回答に迷いがあり時間がかかっているといったことも解析に活用していく。

 実際に活用している学校の教員から「なんとなく気になっていた生徒だが、自殺リスクがあるとまでは思ってもみなかった。自殺リスクの明確化とその緊急度も把握できた」といった声や、生徒から「死にたいということは、あえて聞かれないと言えなかった」といった声もあったという。

 議長の小倉将信こども政策担当相は「自分の打ち明けた気持ちを養護教諭や保護者に知られるのが嫌だという子もいると思うが、こうしたデジタルツールだと、こどもたちは気持ちを発しやすくなるのか」と質問。北川氏は「ツールをポンと入れただけでは、こどもたちは本当の気持ちを答えない。だからこそ、必ず事前に『打ち明けたその先には、必ず支援がある』ということをしっかりと伝えるようにしている。また、1度目は本当の気持ちを回答しなかったとしても、何度か行ううちに打ち明けられるようになるケースもある。普段の様子とRAMPSの結果を合わせて考えていくことで、その子の状況がより分かりやすくなるのではないか」と話した。

 続いて、山口氏は「今のこどもたちは、SNSなどで自殺を身近に感じることが多くなっている」と現状について指摘。自身は父親を自殺で亡くした経験があり、「自殺でなくなるこどもたちだけを減らせばいいということではない。親や友達などを自殺で亡くしたこどももかなり多くいて、そこが見過ごされているのではないか」と問題提起した。加えて、「こどもの近くで生活している保護者などの大人が、余裕を持てない現状がある。さらに、教員やSC(スクールカウンセラー)、SSW(スクールソーシャルワーカー)など、こどもにかかわる専門業種のマンパワー不足を感じる。教員は児童生徒だけでなく、その家族全体の支援の役割も求められており、そこへのフォローが必須だ」と強調した。

 こうした現状を踏まえ、山口氏はこどもの自殺対策に向けて▽遺されたこどもも意識した自殺対策▽こどもを支える相談機関の人員拡充と環境の充実▽保育所へのソーシャルワーカー設置▽こどもの育ちを支える緩やかなサポート体制━━などが必要だと提案した。

 また、委員からの「こどもが『助けて』と言えるようにするにはどうすればいいか」との質問に対し、山口氏は「こどもたちは、自分が助けを求めたときに、なんとかなったという経験がまだまだ少ないのではないか。悩みは消えないけれども、一緒になって考えてくれたという大人をどれだけ増やせるのかが重要だ。また、交通安全対策のように、小さなころから自殺対策についても繰り返し学んでいく必要がある」と答えた。

 同関係省庁連絡会議は、昨年に小、中、高校生の自殺が514人と過去最多となったことを受けて設置され、6月に政府が示す「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針)への反映を視野に、こどもの自殺対策の強化の取りまとめに向けて議論を急いでいる。小倉こども政策担当相は「デジタルツールの活用については、非常に可能性を感じた。自殺や希死念慮を抱くことは本人の責任ではなく、自助努力に委ねられるべきものではない。社会全体でしっかりと受け止め、支え守らなければいけないことをしっかりと発信していきたい」と考えを示した。

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