東京都の八王子市立上柚木中学校(三田村裕校長、生徒262人)で5月29日、同市が取り組む「いのちの大切さを共に考える日」として、不登校経験のある鉄道写真家を招いた講演が行われた。同中ではこれまで、インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷問題やウクライナ侵攻などを取り上げてきたが、今年は「生きることの素晴らしさ」にフォーカス。不登校経験から立ち上がり、写真家になる夢をかなえた講師は「過去は変えられない。でも、未来は変えられる可能性がある。自分の夢をどんどん語ってほしい」と呼び掛け、生徒たちは真剣な表情でその言葉に聞き入っていた。
今回講演したのは、JR東日本や小田急電鉄の写真などを手掛ける鉄道写真家の武川(むかわ)健太さん。武川さんは宮城県出身で、小さい頃から電車が大好きだった。小学校ではクラスの人気者だったが、中学1年生の大型連休明けに不登校になった。武川さんは講演の中で「決定的な原因があったわけではなく、みんなに好かれるよう演じている自分が、割れて粉々になってしまった」と振り返った。
しかし「不登校になったが、夢がかなわなくなるとは思っていなかった」と語り、鉄道と写真への情熱が、再び外に出るきっかけを作ったことを紹介。フリースクールの教員に自分が撮った写真を見せた時、「うわあ、すごい写真だね」と褒めてくれたことが、武川さんの進むべき道を決定づけたと語った。
東日本大震災では故郷の宮城県が被災。被害を受けた鉄道が復興していく様子や、沿線で暮らす人々にカメラを向けてきた。武川さんは生徒たちに向け、「生きられるのは今、この瞬間だけ。過去は変えられない、でも未来は変えられる可能性がある。自分の夢をどんどん語ってほしい。尊敬する先生とたくさん会話をしてほしい。相談できる人をたくさん作ってほしい」と語り掛けた。
講演後、中学3年生の松田勘太郎さんは「中学校で不登校を経験した人が、自分が心から好きなことを仕事にして生きている姿を見て、芯の強さを感じた。自分も将来の夢がある。諦めずに挑戦していきたい」と笑顔を見せた。三田村校長は「希望を持つことは前向きに生きることで、命を大切にすることにもつながる」と語った。