文科省の「学校安全の推進に関する有識者会議」は6月5日、今年度初めての会合を開いた。施設・設備に起因する死亡事故が校内で発生しており、安全点検の方法に改善が求められるため、同省は教職員向けの要領を作成することを決めた。ワーキンググループを新たに設け、5回の会議を開催。年度内にまとめる方針で、課題だった教職員と外部人材の役割分担や点検のポイントを明確にする。
消費者安全調査委員会が3月に公表した報告書では、児童生徒が日常的に使用する学校の施設・設備は定期的に点検することが義務付けられているにもかかわらず、それに起因する死亡事故が発生していると指摘。文科省に対して、安全点検の手法を改善するよう求めていた。
さらに、教職員は「学校の安全点検の担い手」とする一方、「厳しい勤務実態が指摘されている」とし、教職員の勤務実態に鑑みた安全点検の範囲や資料の明確化、知見を有する外部人材の導入に向けた支援が不十分であることを課題に挙げていた。
これを受け、有識者会議においても、法律に基づく行政が行う専門的な点検と教育活動上の教職員による日常的な点検との整理を行い、教職員が行う安全点検の視点や対象について、内容の分類や点検体制の仕組みを構築する必要があるとしていた。
また、文科省の「公立学校施設の老朽化状況調査」の結果によると、公立小学校施設の老朽化面積は2021年度で3338万平方メートル。前回16年度の1834平方メートルに比べ、ほぼ倍となっており、施設の老朽化も進んでいる。
これらを踏まえ、新たに作成する「教職員のための安全点検要領(仮称)」は、▽調査委員会の意見を受けた安全点検▽学校と教育委員会が行う安全点検体制▽教職員が行う安全点検の視点や対象▽外部人材の活用▽子供の視点を取り入れた安全点検――などが観点。取りまとめに向けては、外部人材を活用した安全点検の好事例の収集や関係機関へのヒアリングなども行う。
小川和久委員(東北工業大学総合教育センター・教授)は「課題を網羅できていないように思う。現場では何らかの形で点検をやっていると思うが、点検したままで改善が行われなかったり、理由が分からなかったりという話をよく聞く。点検後の流れなど全体的な議論は必要」と指摘。老朽化や設備不良という視点だけに絞らず、児童生徒や教職員の使い方も含めて、課題を洗い直す必要があるとした。
北村光司委員(産業技術総合研究所・主任研究員)は「1回作って終わりというわけにはいかない。基本的な考え方は作れるが、どうしても不足しているものが出てくる。抜けていたので事故が起きましたでは、意味がない」と強調。要領を更新したり、評価したりする枠組みも同時に検討することを求めた。
同会議の委員は次の通り(五十音順、敬称略)。
▽大木聖子(慶應義塾大学環境情報学部・准教授)▽小川和久(東北工業大学総合教育センター・教授)▽北村光司(産業技術総合研究所・主任研究員)▽木間東平(葛飾区立柴又小学校・校長)▽桐淵博(公益財団法人日本 AED 財団・理事/元さいたま市教育委員会教育長)▽嵯峨実允(学校法人藤華学院・理事長)▽神内聡(兵庫教育大学・准教授)▽首藤由紀(株式会社社会安全研究所・代表取締役所長)▽平塚真一郎(宮城県石巻市立青葉中学校・校長)▽藤田大輔(大阪教育大学・教授)▽山中龍宏(緑園こどもクリニック・院長)▽渡邉正樹(東京学芸大学・名誉教授)
また、要領作成に向けたワーキンググループの委員は次の通り(五十音順、敬称略)。
▽伊東龍一郎(板橋区教育委員会事務局・副参事、施設整備担当)▽大木聖子(慶應義塾大学環境情報学部・准教授)▽小川和久(東北工業大学総合教育センター・教授)▽桶田ゆかり(十文字学園女子大学・教授)▽北村光司(産業技術総合研究所・主任研究員)▽木間東平(葛飾区立柴又小学校・校長)▽熊谷亮平(東京理科大学工学部建築学科・准教授)▽森純子(学校法人市川学園市川中学校・高等学校・養護教諭)▽森本晋也(岩手県立図書館・館長)