高校教育「多様性への対応」「共通性の確保」が課題 中教審WG

高校教育「多様性への対応」「共通性の確保」が課題 中教審WG
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 高校教育について論点の洗い出しを続けている中教審高等学校教育の在り方ワーキンググループ(WG)の第7回会合が6月30日開かれ、文科省は席上、生徒一人一人の個性を大切にした「多様性への対応」と全ての生徒が社会で生きていくために必要な資質・能力を身に付ける「共通性の確保」という高校教育に必要とされる2つの側面について、議論のたたき台となる資料を提示した。それによると、いずれの高校や課程・学科にあっても共通して取り組むべき重要なこととして、「自ら問いを立て、多様な他者と協働しつつ、その問いに対する自分なりの答えを導き出し、行動することのできる力の育成」など4項目を挙げた。これらの力の育成に向けた教育課程の在り方として「『総合的な探究の時間』を教育課程の基軸に据えて各教科・科目との相互作用を強めていくこと」など2項目を重視する考えを示した。

 高等学校教育の在り方WGは、次の学習指導要領に向けた高校教育の論点整理を視野に、昨年秋から議論を重ねており、8月中に中間まとめの作成を見込んでいる。

 文科省が提示した資料は「多様な生徒が学ぶ高等学校のこれからの在り方について」と題されている。それによると、「多様性への対応」と「共通性の確保」が論点になる背景には、高校への進学率が約99%に達し、入学動機や進路希望、興味・関心や学習経験などが非常に多様になる中、生徒一人一人の個性に応じた対応が求められる一方、2016年の選挙権年齢、22年の成年年齢の引き下げで自立した市民や社会の一員としての資質・能力の育成が一層期待されるとともに、生成AIなどデジタル技術が急速に発展する中で自分から問いを立て、その問いを探究する中で新しい価値を生み出すことが重要になってくる、といった問題意識がある。

 それらを踏まえ、資料では「いずれの高等学校の、いずれの課程・学科にあっても、共通して取り組むべき特に重要なこと」として、▽自己を理解し、自己決定・自己調整ができる力の育成▽自ら問いを立て、多様な他者と協働しつつ、その問いに対する自分なりの答えを導き出し、行動することのできる力の育成--など4点を挙げた()。さらに、これらの力の育成を全ての高校で実現するための教育課程の在り方として▽生徒が自己の在り方や生き方を考え、主体的に社会に関わったり、自ら学びを調整したり自己決定したりする場面を積極的に取り入れていくこと▽生徒が各教科等の学びで習得した資質・能力を相互に関連付け、生かしながら、実りある探究活動を進めることができるよう、「総合的な探究の時間」を教育課程の基軸に据えて各教科・科目との相互作用を強めていくこと--の2項目を示した。

 その上で、現状の課題について、「学校の立地、リソースなどに伴う制約により、学校が生徒の多様な学習ニーズに対応しきれていない」「不登校経験など多様な背景を有する生徒の受け入れが特定の学校・課程に偏っていたり、生徒の在籍する学校・課程・学科により、その後の進路の固定化が生じやすかったりする」と指摘。

対面とオンラインのハイブリッド形式で行われた中教審高校教育の在り方WG(オンラインで取材)
対面とオンラインのハイブリッド形式で行われた中教審高校教育の在り方WG(オンラインで取材)

 こうした課題の解決につながる方策として「遠隔授業や通信の方法による教育の活用、学校間連携の促進、関係機関等との連携・協働などが特に有効」と説明した。これらの実現に向け、具体的に取り組むべき施策として▽実施要件の緩和などを通じた、教科・科目充実型遠隔授業の推進▽特別の事情を有する生徒の学習機会の確保に向けた、自宅などでの同時双方向のオンライン授業の受講や、全日制・定時制課程における通信教育の実施要件の緩和▽学校間連携・課程間併修を促進する高校間ネットワークの強化や優良事例創出に向けた支援▽コーディネーターの配置促進--を打ち出した。

 委員による意見交換で、岡本尚也委員(Glocal Academy代表理事)は「多様性と共通性と言うが、学校はそうした生徒の多様性に対して、どこまで対応できているのか。生徒のニーズはなかなか見えにくい。知らない間に諦めて、声を出せないまま高校生活が進んでいる生徒が多いと思う。この資料は、そうした生徒のニーズについて、データを把握した上で作成されているのか」と、文科省に問いただした。

 これに対し、文科省の田中義恭初等中等教育局参事官(高校担当)は「高校では教科科目が200以上あると言われているが、地域的なハンディのある小規模校などでは、教員配置の限界などから、関心のある教科の授業が受けられないという現状があるのは事実だと思う。ただ、(生徒のニーズに関する)具体的なデータはなく、定性的なところから(資料を)書いている」と説明した。

 このやりとりを受け、WGの主査を務める荒瀬克己・中教審会長(教職員支援機構理事長)は「COREハイスクール・ネットワーク構想の検討過程で生徒の希望を調べており、生徒のニーズが見えるものもある。ただ、生徒が希望するためには、そもそも『こんなことができる』という情報を知り、生徒自身が自分の希望を発掘する必要がある。小学校や中学校でいろいろな学びをやってきた生徒は『なぜ、これができないの?』と感じて希望を出せるが、実際にはそのための経験や知識が十分ではないケースが多いと思う。そこに学校も教育委員会も気が付かないところが深刻なのではないか」と指摘した。

 沖山栄一委員(東京都立世田谷泉高校長、全国定時制通信制高等学校長会理事長)は「学校が生徒の多様なニーズに全て応えることなど、最初から無理な話。例えば、フリースクールとか、NPOなどの支援機関とか、社会にはさまざまな資源がある。そういう学校外の機関や仕組みと連携した学校の在り方が論じられていくべきではないか。(不登校生徒に対応した)別室指導についても、私たちの学校では『校内フリースクール』という位置付けで、教室外の学びを推進する取り組みをしている」と述べた。

 濱田久美子委員(高知県香美市教育委員会生涯学習振興課推進官、元高知県立山田高校長)は「小規模高校で子供たちが学んでいくためには、その子たちの進路保障が大事になる。その進路保障のためには、遠隔授業が不可欠。都道府県が設置する『配信拠点』の法的な位置付けを明確にするなど、同時双方向型の遠隔授業を拡充する必要がある」と指摘した。

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