文科省が7月4日に公表した生成AIのガイドラインでは、夏休みの課題について「従前から行われてきたような形で、読書感想文や日記、レポートなどを課題として課す場合」の留意点として、生成AIによる生成物をそのまま自己の成果物として応募することは不適切または不正な行為に当たるとし、成果物の評価基準を明確にする、口頭発表の機会を設けるといった工夫を盛り込んだ。生成AIが読書感想文を書いてくれる時代を迎え、課題の出し方そのものが問われていると指摘する声もある。同ガイドラインの策定に当たり、有識者としてヒアリングに協力したNPO法人「みんなのコード」の利根川裕太代表理事に、今回のガイドラインのポイントや、AI時代の夏休みの課題の出し方などを聞いた。
文科省の生成AI活用ガイドラインでは「情報活用能力を育む教育活動を一層充実させ、AI時代に必要な資質・能力の向上を図る」という基本的な考え方が示された。
これまで学校現場での生成AI活用を支援してきた利根川代表理事は「真っ当な内容だと感じた。とはいえ、子供たちの学習にどのような影響を与えるか、まだ分からない部分もあるので、『パイロット的な取り組みを進め、成果・課題を十分に検証し、今後の更なる議論に資する』というところもポイントだろう。『全国で一斉に生成AIの授業をしよう』ということではなく、『どう使えば有効なのか検証していこう』ということだ」と語る。
「教員が生成AIについて全部知らなくてはいけないということではないが、AIリテラシーを高めていくことは大事だ。まずは教員自ら、文書作成や授業の構想などに生成AIを使って、たくさん対話してみてほしい。そうすると、「〇〇について教えて」と回答させるよりも文章を書かせた方がうまくいくなど、少しずつ特性が見えてくるはず」と助言する。
今回のガイドラインを踏まえつつ、生成AIを使った夏休みの課題を出すとしたら――。利根川代表理事は「これまで見てきた中で『いいな』と思ったのは、ある大学での事例。『〇〇について調べなさい』といった課題を、まずChatGPTに書かせてみて、その回答を学生が添削するというもの。修正履歴を残して変更箇所を分かるようにしておくと、生成AIの回答に対し、学生がどこを批判的に見てきたかを問うことができる。生成AIの利用を前提とした文章と向き合うことは、今までとは違う思考力のトレーニングになる」と語る。
また読書感想文について、ガイドラインでは「生成AIによる生成物をそのまま自己の成果物として応募・提出することは不適切」とされている。利根川代表理事は「提出する前に生成AIを使って、推敲(すいこう)させるという使い方がよいのでは」と話す。
さらに「生成AI時代の読書感想文とはどうあるべきか」をレポートさせるのも一案だ。「機械がそれらしい読書感想文を書いてくれる時代に、あえて人間が書く意義とは何か。自分の学習を俯瞰的に見て、考えるきっかけになるはずだ」と語り、「そもそも何のために読書感想文を書くのかが子供たちに十分伝わっていないからこそ、生成AIで済ませようとする子供が出てくるのかもしれない」と付け加えた。
同NPOで学校教育支援に当たる元教員メンバーからは、次のような夏休みの課題のアイデアが寄せられたという。
活用事例を考えるにあたっては、「生成AIは、名前に『生成』とついていることからも分かるように、正しい回答をするよりも、何かを生成する方が向いている」と利根川代表理事。「国語、英語、社会など、言語で生成する分野や、技術、家庭、音楽などクリエーティブな分野に親和性が高い。社会問題など、明確な答えのない問いに対して、生成AIとディベートさせるのもよいかもしれない」。
子供たちの成果物は、どのように評価したらよいのだろうか。利根川代表理事は「生成AIを使っても、使わなくても、設定した問いに対して深く考えることができているかを評価すればよいのでは」と語る。「生成AIを使いながら、課題に対して多様な観点で深掘りできていれば素晴らしいし、安易に使ってしまい、考えが深められていないものは駄目、ということになる」。
同NPOは7月4日、これまでの学校現場での実践を踏まえ、今回のガイドラインへの見解と、今後の改訂に向けた議論のポイントを公表した。今回のガイドラインでは「ある活動が適切な活動であるか否かを、学校が判断するための原理原則」がまだ明確でないとして、今後のパイロット的な取り組みの中で明らかにしていく必要があるとした。
同NPOの実践からは「子どもは大人が想定し得ない柔軟な使い方をすぐに見いだす。教員が使い方や使う場面を限定し過ぎると、子どもの創造性を損なう可能性がある」「情報活用能力の育成に関する蓄積があれば、実践を開始する時期を年齢や学校段階などで一律に区切ることは適切ではない」といった気付きがあったという。
他にも情報活用能力の育成について、生成AIの仕組みを科学的に理解する「知識・技能」、問題の発見・解決に向けて生成AIを適切かつ効果的に活用する「思考力・判断力・表現力」、生成AIの活用を通して情報社会に主体的に参画しようとする「学びに向かう力・人間性」などを、相互に深く関連付けて育成するべきだと提言した。
さらに、児童生徒がこれまでどんな情報技術をどのように学び、どの程度の情報活用能力を身に付けているかを考慮することや、ガイドライン策定にあたって、女性やジェンダーマイノリティーの学識経験者、学校現場の声を積極的に聞きに行く必要があることを指摘した。