【萩生田氏に聞く(上)】「レギュラーの教員を増やす」と強調

【萩生田氏に聞く(上)】「レギュラーの教員を増やす」と強調
インタビュー取材に答える自民党の萩生田政調会長
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 7月18日に教育新聞の単独インタビューに応じた自民党の萩生田光一政調会長は「とにかくレギュラーの教員を増やさないと、学校現場は持たない。これまでの姿勢では公教育がパンクする」と危機感をのぞかせ、小学校高学年の教科担任制の強化や少人数学級の推進による基礎定数の改善を柱に、教員の「働き方改革」を加速させる必要性を強調した。党特命委員会の委員長として、学校現場の負担軽減に向けた提言を5月に取りまとめるなど、文教政策のキーマンの一人である萩生田氏は、教育予算の在り方や「GIGAスクール構想」の展望など幅広いテーマの質問に答えた。主なやりとりを2回に分けて紹介する。

「教科担任制、少人数学級で基礎定数を増やす」

――5月の特命委の提言は教員の負担軽減や処遇改善に向けて具体的な方策を掲げ、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に盛り込むことを目指すとしていました。岸田文雄内閣は6月、骨太の方針を閣議決定しましたが、提言の内容は十分に反映されたと考えていますか。

 まず、骨太の方針に「質の高い公教育の再生」というワードが入ったのは良かったと思います。また、2024年度から3年間を集中改革期間とし、24年度から小学校高学年の教科担任制の強化や教員業務支援員の小中学校の配置拡大を速やかに進めること、24年度中の給特法改正案の国会提出を検討することなども盛り込まれました。提言にある改革の内容や実現のスケジュールなどが、しっかり反映されているのではないかと思っています。

――集中改革期間がスタートする24年度予算の概算要求が明らかになるのは8月下旬とみられますが、初年度に優先的に取り組むべき政策はどのあたりでしょうか。

 児童が早期から専門的な教科指導が受けられるとともに、教師にとって持ちコマ数の軽減などに資する小学校高学年の教科担任制の強化です。また、教師の業務を支援し、負担軽減を図る教員業務支援員の全小中学校への配置についても、実現すべきだということを強く言っています。いずれも法改正などは不要で、予算さえ用意すればできます。ただ、教科担任制については加配ではなく、(法改正によって)基礎定数化すべきだと考えています。

――基礎定数にするということは、小学校高学年の教員配置について、受け持ち授業数(持ちコマ数)を週20コマ程度に抑えるという党特命委の提言の実現に向け、義務標準法の中に持ちコマ数の上限という発想を入れるということですか。

 将来はそれが望ましいのではないでしょうか。上限設定のような考え方がどこかにないと、日本の義務教育は変わらないと思うのです。加配でやっていると、一過性のものになる可能性ありますし、財務省と毎年、予算折衝しなければならず、文科省にとってもきついでしょう。基礎定数にしていかないと、産休などの代替教員を確保できなくなりますよ。

――こうした持ちコマ数の抑制という考え方を中学校とか小学校全体とかに広げていった方が良いという思いはありますか。

 もちろんです。学校現場のマンパワーを増やしてくことが大事です。さらに言えば、中学校の「35人学級」、小学校の「30人学級」なども含め、とにかくレギュラーの教員たちを増やさないと、学校現場は持ちません。私たちは小学校の「35人学級」だけで満足していません。

――提言を実現するために必要な予算について、以前は年間5000億円と言っていましたが、24年度はどのくらい獲得する必要があると思いますか。

 必要な分はちゃんとやります。義務教育のコストをみんなに理解してもらわないといけません。もはや義務教育をやっていくのに必要なコストはいくらなのか、何が必要なのかを見直す時期に来ていると思います。今までのように現場任せで、どんなに業務量が膨らんでも教員たちが何とかしてくれるみたいな姿勢では、公教育がパンクしてしまいます。

「学校には『遊び』が必要、給特法に合理性ある」

――自民党の提言は、給特法の「教職調整額」の枠組みを維持するとしています。これに対し、給特法を廃止して残業代を支給すべきだとの批判もあります。

 仮に残業代を払うとなれば、何の残業をしているのか、誰に言われた業務なのか、自己研さんなのかといったことを校長や副校長が全て精査しなければならなくなります。それは教員という職業に照らした時、無理があると思うのです。自己研さんは仕事として認められるか、認められないかみたいな話にもなってしまう。

 例えば、丸付けだけで終わる教員もいれば、そこに赤ペンを入れて一言書いてあげることをポリシーだと思っている教員もいるわけです。丸やバツだけを付けるのと、一言書くのでは必要な時間が全然違う。これに対して「余計なことをしないでくれ」と言えるかと言ったら、言えないでしょう。あるいは、お手紙という形でやりとりをする教員もいるかもしれない。いずれもその教員のやり方であり、子どもたちとの接し方であって、自由なわけじゃないですか。それが日本の教育の良いところです。こういうのを一律に制限してしまったら、学校の「遊び」や「伸びしろ」がなくなってしまいます。

――教員の仕事の際限がなくなるリスクもあるように思うのですが、教員たちの中核業務とはどのあたりになるのでしょうか。

 第一は授業ですよね。授業をしっかりやってもらいたい。できるだけ子どもたちと接する機会を増やしてあげたいです。そこまでが主たる仕事だけれど、さらに「上乗せ」や「横出し」があり、全ては管理できないと思います。だから、その部分は手当や「教職調整額」で見るわけです。教師というのは創造性が求められるかけがえのない職業だと思うからこそ、勤務時間の内外を包括的に評価する給特法の基本的な枠組みは、現在においても合理性を有していると考えます。

 また、給特法を廃止するとなれば、各学校単位で労使間の「36協定」を締結する必要が出てきます。こうした管理コストが増えれば、ただでさえ減っている校長や副校長のなり手がいなくなるかもしれません。「教職調整額」という制度への不満は分からなくないですし、私たちも「働き方は絶対変えよう」と考えています。だから、教員のマンパワーを増やし、教員以外のマンパワーも増やし、それをパッケージでやろうとしているわけです。

「提言を全て実行すれば、月の残業20時間は可能」

――提言では、教職調整額の「10%以上」という数値の妥当性を担保するため、教員の「時間外在校等時間」を20時間程度に抑制するともうたっています。この実現時期はいつごろをお考えですか。

 22年度の教員勤務実態調査の速報値によると、依然として長時間勤務の教師が多く、月当たりの「時間外在校等時間」が小学校で41時間、中学校は58時間です。制度・予算両面の抜本的な改革が24~26年度の集中改革期間を含めて、政府においていつどのように実施されることになるかにもよりますが、可能な限り早期に「20時間程度」が実現されるよう、政府にも働き掛けていきたいと思います。3年プランが始まるわけですから、3年を一つのゴールにしたらいいのではないでしょうか。

――裏を返せば、提言の政策が全て実現すれば、きっと20時間以内に収まるはずだと。

 そう思うし、そういう世の中にしていかなければいけません。タイムカードなどで勤務時間が管理されるようになり、「早く帰りましょう」というキャンペーンも行われているけれど、実際には自宅に仕事を持ち帰って頑張っている教員もいるわけです。だから勤務実態調査の数字よりも苦労している教員がいるのだろうということは、私たちも肌感覚で分かっています。こうした努力も含めて何とか20時間を目指し、「持ち帰り仕事をしなくていいんだよ」という仕組みをどんどん作っていく必要があります。

 そのためには、提言の政策のどれか一つが抜けても駄目です。教員業務支援員が全校配置されないとか、小学校高学年の教科担任制が始まっていませんとなってしまったら、実現できなくなってしまう。できることをどんどん前倒しし、3年後には、「(残業が)41時間とか昔は言っていたよね」と思えるようなところまで近づけていけたらいいと思います。

「教育は国の根幹、予算折衝で引くつもりない」

 ――自民党の提言は、少子化で浮いた財源を有効活用するだけではなく、むしろ積極的に拡充すべきだとしていますが、財務省との折衝は厳しいものになるのではないでしょうか。

 義務教育の形を変えなきゃいけないのだから、今までの延長線で財政当局とのやりとりをするのではなく、これからの日本の義務教育の姿をもっと深く議論をすべきです。教育は国家の根幹であり、「100年の大計」であって、岸田内閣も人への投資を最重要課題としています。この国はやはり人で食っていかなければならない。だから、いろいろな分野で活躍してもらうプレーヤーを増やすためには、学びの機会をきちんとしていくってことが絶対に必要です。

 少子化が進む中、子どもたち一人一人の能力を最大限発揮できるようにすることが、結果としてわが国の国益につながるのは明らかだと思います。だから、児童・生徒の減少に伴い(義務標準法上、教員定数の自然減分として)生じる財源の活用は当然の前提とした上で、それを大幅に超える大胆な拡充が必要であるという提言をさせてもらいました。私は引きませんよ。

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