【萩生田氏に聞く(下)】 「多様な専門性持つ教職員集団を」

【萩生田氏に聞く(下)】 「多様な専門性持つ教職員集団を」
「3年ぐらいで環境を良くするので、教員の皆さんはプライドを忘れずに頑張ってほしい」と話す自民党の萩生田政調会長
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 7月18日に教育新聞のインタビューに応じた自民党の萩生田光一政調会長。文科相時代に教員免許更新制の廃止を推し進めたこともあり、これからの学校について、「多様な専門性を持つ人材を受け入れ、質の高い教職員集団を形成していくことが重要。日頃から探究心を持って研修に励んでほしい」と期待感を示した。インタビュー後半では、こうした新しい時代の教師像に加え、端末更新を控える「GIGAスクール構想」の展望、次期学習指導要領の在り方などについて聞いた。

「プラスワンの強みを持つ教員も必要」

――財務省は5月、教師の仕事も強制的に国が整理した方がいいのではないかと提案しました。この話をどのように受け止めていますか。

 財務省としてはそういう意見になるのかもしれませんが、教員が「頑張ったね」と赤ペンを入れてくれるかどうかで、子どもたちのモチベーションは変わり得るわけです。それが専門職というものです。「無駄な仕事だ」とか「業務外の仕事だ」とか線引きはできないでしょう。だから、(給特法が定める)「教職調整額」が必要になるわけですよね。教員それぞれのスタイルがあっていいと思うので、それを認めてあげたいのです。

――そうなると業務の際限がなくなる可能性がありますが、このバランスをどう考えますか。

 だから、(教員業務支援員を活用した)「スクールサポート制度」を作って、プリントの印刷をしてもらうようにしたり、欠席の子どもの家庭からの電話を担任が受けていたものをデジタル化したりと、いろいろな仕組みを作っていますよね。学校というと、朝早くから誰かが校門の前に立って、子どもたちに声を掛けなきゃいけないんじゃないかといった染み付いた使命感が広がっているけれども、それを簡素化すれば、教員としての本来の仕事は何かというのが見えてくると思います。それは授業であり、子どもたちと向き合う時間だと思うので、そこに集中してもらいたいなと思っています。

――新しい時代に求められる教員像については、どう考えていますか。

 令和の時代の子どもたちには個別最適な学びと協働的な学びの一体的な実現が必要であって、教師には子どもが主体的に学ぶ力を身に付けられるように、ファシリテーターとしての能力が重要になってくると考えます。同時に心理・福祉や語学力、グローバル感覚など、特定の分野にプラスワンの強みや専門性を有する教師も必要です。

 スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)といった専門職はもちろん必要なのだけど、学校に常勤しているわけではないので、一時的には教員の方が子どもの毎日の変化が分かるわけです。1学年に1人でも心理や福祉の専門的な知識を持った教員がいるだけで、安心感は全然違いますよね。そういう教員には手当を出したらいい。個人的には教員養成の段階から変えるべきだと思っているのですが、多様な専門性や背景を持つ人材を教師として取り入れ、ゼネラリストとスペシャリストが相まって、質の高い教職員集団を形成していくことが重要だと考えています。教員免許更新制を廃止しましたので、逆に日頃から探究心を持って研修に励んでほしいというのが個人的な思いです。

GIGAスクール「第1ステージの経験生かす」

――学習指導要領の内容を精選すべきだという意見もありますが、いかがですか。

 これは中教審の領域なので、政治家が具体的なことを話すのは控えたいと思いますが、AIなどの技術が発展する中、単に多くの知識を詰め込むというものにはならないのではないでしょうか。現行の学習指導要領も単にたくさんの知識を覚えるのではなく、実生活で使える知識を身に付けることを重視していると思いますので、次の学習指導要領についても、細かな知識を覚えることを強調して内容を膨らませる方向で検討が行われるようなことにはならないように期待しています。

――「GIGAスクール構想」の端末更新が2024年度から始まります。故障した端末の修理費用が莫大となり、子どもたちが自由に使うことの足かせになっているケースもあると聞きますが、どのように進めていきますか。

 今般の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)では「GIGAスクール構想」を国策と位置付け、1人1台端末についても「公教育の必須ツール」というワードを使い、着実に更新するということを書き込みました。第2ステージに向けて「もう一歩も引かないぞ」ということです。

 予算確保していく際には、第1ステージの経験を踏まえ、改善すべき点は改善したいと考えています。あの時はとにかく端末を配るのが最優先だったので、端末の初期設定(キッティング)の契約を結ばずに教員の大きな負担となったケースや、保険に入らなかった結果として修理費用がかさんでしまった自治体がありました。各自治体にそこまで教えてあげなければいけなかったなと思います。そこで今回はメーカーの皆さんとも相談し、「保険には入る」「付属品としてペンを付ける」といった最低限のパッケージを作って進めたいと考えています。

――岸田文雄政権は「異次元の少子化対策」を掲げましたが、その中に教育予算の増額に向けたメニューが乏しいことに懸念の声があります。

 それは少し誤解があって、子育て政策と義務教育の充実は連携して進めることになっています。政府が6月に閣議決定した「こども未来戦略方針」と、私たちの特命委が取りまとめた提言の集中的な取り組み期間が「3年間」で一致しているのはその表れです。一緒のパッケージにしても良かったのだけれど、義務教育は文科省を中心に別の形で議論をした方がいいだろうと考え、特命委で引き取りました。

 教育がしっかりしてくれれば、子育てにもプラスの影響があるので、そこは当然リンクしてくると思います。政府としても別々に取り組むわけではなく、こども未来戦略方針には「公教育の再生は少子化対策としても重要」と書き込まれており、この「公教育の再生」という言葉が(子育て政策と義務教育、骨太の方針をつなぐ)フックになると考えています。

――特命委の提言には「人確法の初心に立ち返った教師の処遇改善」という表現があります。人確法(人材確保法)の制定当時と異なり、教育政策の主導権は自民党や文科省から首相官邸に移っているようにも感じますが、文教行政において党が果たす役割というのはどう考えますか。

 いまは人確法が作られた時代とはだいぶ異なります。学校現場は悲鳴を上げており、私たちは公教育の再生が家庭負担を軽減して少子化対策にもつながるという大きな視点から、教育改革をしよう、学校現場を変えていこうと考えています。当時の先輩たちのように党内の文教族が尖った意見を発信することで解決するのならいいのですが、今の時代は政府とより連携していくことが大事なのではないでしょうか。

 幸いにして、岸田首相は副文科相や党政調会長の経験があるので、私たちがやっている特命委の取り組みを大変に理解してくれています。政府と党で同じ方向に平仄(ひょうそく)を合わせ、(集中改革期間である)3年間のスタートダッシュができると期待しています。

――現場の教員に伝えたいことはありますか。

 とにかく、教員の皆さんには頑張ってほしいです。社会にとって大事な仕事なのですから。3年ぐらいで環境を良くするので、プライドを忘れずに頑張ってほしい。私はこれまで、小学校の「35人学級」も教員の免許更新制の見直しも、言ったことは何とか実現してきました。その私が「働き方改革」の提言をまとめた特命委員長なのですから、(予算折衝などで)引くはずがないということを分かっていただきたいと思います。

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