過疎地域の高校、遠隔授業の要件柔軟に 中教審WGで要望

過疎地域の高校、遠隔授業の要件柔軟に 中教審WGで要望
荒瀬克己主査(左)と高知県の取り組みについて報告した濱田委員(YouTubeで取材)
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 高校教育を巡る課題の洗い出しを続けている中教審の「高等学校教育の在り方ワーキンググループ(WG)」の第8回会合が7月21日、オンラインと対面のハイブリッドで開催された。8月中をめどに公表する中間まとめに向けて、委員から少子化による統廃合や過疎化が進む地域の遠隔授業について、学校長に裁量を持たせ実施できるようにするなど要件の柔軟化が求められた。また、増加傾向にある不登校など多様な背景がある生徒の学びを継続する場として高校に求められる役割について、改めて議論が交わされた。

 同WGは、次期学習指導要領を見据え「生徒を主語にした」高校教育の実現を目指し、昨年秋から始動。①高校教育の在り方(「共通性」と「多様性」の観点からの検討)②少子化が加速する地域における高校教育の在り方③全日制・定時制・通信制の望ましい在り方④社会に開かれた教育課程の実現、探究・文理横断・実践的な学びの推進――の4つの観点から、教育委員会や学校、生徒からヒアリングし、議論を重ねてきた。今会合では前回議論した①以外の3項目について、中間まとめに向けて委員がさらに議論を深めた。

 「②少子化が加速する地域における高校教育の在り方」を巡っては、少子化による統廃合や過疎化が進む地域の高校の遠隔授業の在り方について議論が集中した。

 濱田久美子委員(高知県教育センター企画監、元高知県立山田高校校長)は、高知県で取り組んでいる同時双方向型の遠隔授業について報告した。同県では2021年度より教育センター内に遠隔授業配信センターを設置し、単位認定を伴う遠隔授業を本格実施している。濱田委員によると現在16校を対象に実施しており、生徒からは「授業の進度が自分に合っている」「レベルの高い授業を受けられる」などと高評価で、大きなシステムトラブルも発生していないという。

 濱田委員は「遠隔授業は、過疎地域の高校において必要不可欠。今後さらなるデジタル化の進展により同時双方向型の遠隔オンラインもさらに使いやすく、機能も高まるに違いない。中山間地域を多く持つ自治体や、少子化が加速する自治体の高校の重要なツールとして、国の主要事業に位置付けて強力に進めてほしい」と強調した。

 その上で、遠隔授業を実施する要件を柔軟にして、学校現場が取り入れやすい仕組みにするよう求めた。例えば、受信側の教員の配置。文科省は受信側について「原則として教員を配置するべき」としている。一方で同県では授業がスムーズに進むため、受信側である教室に配置された教員の役割のほとんどが生徒の安全管理だという。濱田委員は「教科によっては教員以外でも対応できるのではないか」とし、学校長の裁量で人員配置できるよう求めた。

 また、過疎地域以外のニーズも指摘された。塩瀬隆之委員(京都大学総合博物館研究部情報発信系准教授)は「例えば理科の科目で、先生がいないので地学を選択できない、または歴史の先生が代わりに教えているという事象が、都市部の学校でも起きている。現時点で高校生の多様な興味に対応できておらず、個別最適な学びが実現できていない観点から見ても、遠隔授業を採用することで高校生に最低限の選択肢を提供できる」と指摘した。

 一方、「③全日制・定時制・通信制の望ましい在り方」についても多くの委員から指摘があった。特に近年増加している不登校など、多様な背景をもつ生徒の受け皿としての高校の在り方について議論が繰り広げられた。

 沖山栄一委員(東京都立世田谷泉高校長、全国定時制通信制高等学校長会理事長)は、不登校を経験した生徒の高校受験について言及。「不登校の中学生は、自分には進学できる高校がないのではないかと非常に苦しんでいる。例えば都立高校ではチャレンジスクールなど、特別な入試制度がある。不登校の生徒が中学校を卒業した後も自分の居場所を確保できる制度があると、もっと積極的に示すべきではないか」と強調した。

 学校の在り方について、今村久美委員(認定 NPO法人カタリバ代表理事)は「国や地域は学校という箱を残すことを社会づくりの前提として、その上で議論すべきだ」と場所としての学校の必要性を訴えた。「オンラインは有用で、傷ついた子どもたちの心のケアになるのは確かだ。摩擦が起きたら、画面を消して逃げられるのだから。ただ全ての子どもの高校生活をオンラインベースにデザインすると、社会として維持が難しくなるように思う。傷つけられるのが嫌だという感覚を持っている若者が増えている。その中で嫌でもそこに集まって、会いたい人以外とも顔を合わせる空間があることは、学校の重要な機能なのではないか」と、若者の傾向を推察しながら学校の意義について語った。

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