今年3月、埼玉県戸田市の公立中学校で起きた殺人未遂事件で、生徒を守って負傷した教員への補償が十分になされていないとして、教員を中心とする有志が7月27日、埼玉県教委に対し「児童生徒を守って負傷した教職員への補償を最後まで行ってほしい」と、制度の改善を求める請願書と署名を提出した。オンライン署名サイト「Change.org」では、今月21日の開始以降、27日の午前10時時点で2万6240筆の署名が集まった。
地方公務員である公立学校教員が勤務中にけがや病気をした場合、公務員災害補償制度により一定の補償がなされる。地方公務員災害補償基金によれば、学校に侵入した不審者に対応して教員がけがをした場合、「第三者加害」の扱いとなり、治癒(ちゆ)または症状固定までの間、基金から療養補償がなされるほか、その後も障害が残った場合は障害補償が受けられる。一方、精神的損害への慰謝料や物的損害は補償の対象外となるため、けがをした公務員自身が加害者と示談するなどの対応が必要になる。
今回の署名を立ち上げたのは、愛知県の一宮市立小に勤務する加藤豊裕教諭。署名とともに県教委に提出した日吉亨教育長宛ての請願書では、「いざという時に児童生徒の命を守れるのは教員しかいない。第三者加害による公務災害のうち、児童生徒の命を守るために取った行動と認められるものについては、金額や期間の定めなく、公が責任をもって補償するとともに、精神的損害への慰謝料や物的損害の賠償などにも補償の対象を広げてほしい」と要望した。
その上で「こうした制度改正は、最終的には法改正を伴うことになるだろう。しかし法改正にはかなりの時間がかかると思われるので、地方公共団体のレベルで、迅速に対応してほしい。地方公務員災害補償基金がすぐに動けないのであれば、都道府県や政令指定都市において必要な条例・規則などを制定し、法改正が行われるまでの間、現在の制度を補完する仕組みを作ってほしい」と対応を求めた。さらに学校の安全対策についても「児童生徒の安全を教員だけの責任とするのではなく、警備員を配置するなど、行政の責任において実効性のある対策が取られるべきだ」と訴えた。
署名の提出に先立ち、加藤教諭は埼玉県庁前に立って「教員が危険を顧みず生徒をかばい、傷を負ったことに対して、自分で示談を持ち掛けろとは何事か。これは100%、公務であり、公によって100%補償がなされるべきだ。自分の不注意で負ったけがとはわけが違う。生徒のために、体を張って行った公務に対し、公が最後まで責任を持って補償を行わないということが許されるのか」と呼び掛けた。
また、栃木県から駆け付けた公立小の教諭も「(事件があった中学校の)先生は生徒の命を守った。今度は私たちがこの先生を守る番だ。教員の安全・安心が守られなければ、生徒の安全・安心を守ることはできない」と力を込めた。
署名を受け取った埼玉県教委の担当者は「非常に多くの方から署名をいただいたことについては、教育委員会としても大変重く受け止めている。まず内容をよく確認していきたい」と述べた一方で、今後の制度改善の方針については「まだ白紙の状態」とした。
同県の戸田市立美笹中学校では今年3月、刃物を持った当時17歳の少年が校内に侵入し、60代の男性教員1人が上半身を複数箇所、切りつけられる事件があった。