2023年度全国学力・学習状況調査(質問紙調査)の結果で、学校現場でのICT活用状況が、前年度と比べて改善していることが分かった。授業で1人1台端末をほぼ毎日活用している割合は小中ともに6割を超え、端末を家庭に持ち帰って利用できるようにしている割合も、小中ともにおよそ8割となった。同時に、不登校児童生徒や外国人児童生徒への支援にも活用されている状況が明らかになった。一方、全体的な活用状況と比べると、個別最適な学びや主体的・対話的で深い学びに関連した使い方をしている頻度は低い傾向がみられ、専門家は「教員の指示や判断の下で活用している事例が多い」と指摘している。
授業で1人1台端末をほぼ毎日活用している割合は、小中ともに前年よりおよそ7ポイント改善し、小65.3%、中62.8%となった。端末を家庭に持ち帰って利用できるようにしている割合(「毎日」「時々」の合計)は、小中ともに前年より15ポイント近く改善し、小で81.2%、中で76.9%となった。臨時休業などの非常時のみ持ち帰ることとしている割合は、小中ともにおよそ1割だった。
通常の授業での利用に加え、週1回以上、不登校児童生徒に対する学習活動の支援に1人1台端末を活用している割合は小43.1%、中54.5%。特別な支援を要する児童生徒に対する学習活動の支援に活用している割合は、小66.9%、中61.7%だった。外国人児童生徒がいる小中学校のうち、学習活動などの支援を週1回以上行っている割合は小62.9%、中60.6%だった。
また、児童生徒の心身の状況の把握に週1回以上活用している割合は、小35.5%、中36.2%、児童生徒に対するオンラインを活用した相談・支援に週1回以上活用している割合は、小13.5%、中17.7%だった。
質問紙調査では合わせて、端末を活用した個別最適な学びや主体的・対話的で深い学びの実施状況について調べた。「児童生徒が自分の特性や理解度・進度に合わせて課題に取り組む場面」で活用している割合は、小では「ほぼ毎日」が16.1%、「週1回以上」が77.8%。中では「ほぼ毎日」が12.6%、「週1回以上」が67.5%。「自分で調べる場面」での活用割合は、小では「ほぼ毎日」が29.3%、「週1回以上」が94.9%。中では「ほぼ毎日」が29.5%、「週1回以上」が90.9%だった。
一方、「児童生徒同士がやりとりする場面」になると割合が低下し、小では「ほぼ毎日」が16.6%、「週1回以上」が68.7%。中では「ほぼ毎日」が12.9%、「週1回以上」が62.2%にとどまった。「児童生徒が自分の考えをまとめ、発表・表現する場面」では、小では「ほぼ毎日」が17.0%、「週1回以上」が76.5%。中では「ほぼ毎日」が16.2%、「週1回以上」が76.1%だった。
主体的・対話的で深い学びの取り組み状況と、ICTの活用状況との関連を見ると、児童生徒が課題を設定し、話し合い、まとめ、発表するなどの学習活動を「よく行った」と答えた学校で、ICTの活用頻度が他より高かった。また「児童生徒は、自分の考えがうまく伝わるよう、資料や文章、話の組み立てなどを工夫して発言や発表を行うことができているか」という問いに「そう思う」と答えた学校で、ICTの活用頻度が他より高かった。
学校現場のICT活用に詳しい山梨大学の三井一希准教授は「学校でほぼ毎日使っている割合が増えており、端末を文房具のように日常使いできている学校が増えている。一方、『週1回以上』『月1回以上』という回答もまだあり、学校間の格差が気になる」と見る。
また「端末を毎日持ち帰っていない学校が半数を超えており、家庭での利用は日常化しているとはいえない。感染症の拡大などの非常時に、スムーズに在宅学習に移行できず、学びが止まってしまう可能性がある。端末を持ち帰ることで、学校と家庭の学びをつなぐことができるが、家庭で端末を活用するイメージがまだ湧かないという教員もいる。授業と家庭学習のつなぎ方など、家庭での端末活用の事例を広く共有していく必要がある」と危惧する。
全体的な活用状況と比べると、個別最適な学びや主体的・対話的で深い学びに関連した使い方をしている頻度は低い傾向がみられる。これについて三井准教授は「教員の指示や判断の下で活用している事例が多い。子供たちが各自、インターネットで調べる、資料をまとめる、友達とやりとりするなどの活動をどう組み込むか、授業デザインのイメージがつかない場合もあるし、子供たちの操作スキルもある程度、必要になる。これまで以上に子供たちの動きを丁寧に見ていかなければならない」と指摘。
ただ「うまくいっている学校でも、教員のパソコンスキルが極めて高いとか、授業デザインがすごく上手だとは限らない。それよりは子供たち一人一人を大切にし、活躍させたいという思いがあり、子供たちを信じて委ねてみようという挑戦をしていることが大きい。子供たちと目標を共有し、自分の学びをどう作っていくかを子供自身に考えさせ、失敗してもいいから挑戦を繰り返すことが重要。その中で子供たちは、端末を使う場面や自分の特性などを理解し、学びの手段を選択できるようになっていく。教員もぜひ、こうした学びに挑戦してほしい」と強調する。