へき地・小規模校の教育課題を解決する 東京都が研究発表会開催

へき地・小規模校の教育課題を解決する 東京都が研究発表会開催
授業実践について発表する古里小学校の藤田誠司副校長(左)と中山主任教諭
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 へき地や小規模校ならではの教育課題とは——。東京都教育委員会は東京都へき地教育研究協議会と共催で8月1日、「へき地・小規模校教育研究発表会」を国立オリンピック記念青少年総合センターで開催した。奥多摩町立古里小学校(乙津秀敏校長、児童82人)が「自分の考えをもち、表現できる児童の育成」を、三宅村立三宅中学校(小澤秋仁校長、生徒42人)が「学習者用端末とアダプティブ教材を活用した実践」をテーマに、それぞれ研究発表を行った。

 東京都の多摩・島しょ地域の学校では、地域の特性を生かした特色のある教育活動や、小規模校の利点を生かした授業研究が行われている。今年度のへき地・小規模校教育研究発表会は4年ぶりのリアル開催となり、奥多摩町立古里小学校と三宅村立三宅中学校がそれぞれ研究発表を行った。

 東京都の北西端に位置する奥多摩町は、面積は全都の約1割を占めるものの、小学校は2校のみ。そのうちの1校である古里小学校に通う児童の多くは、幼少期から共に過ごしている。中山伸也主任教諭は同校の現状について、「互いの思いや考えを細かに言葉で表さなくても分かり合える一方で、自分の思いや考えをうまく言葉で表現できないことにより、学習や生活に対する苦手意識が生まれている」と述べ、言語能力の向上が同校の児童にとって重要な課題だとした。

 そこで同校では、自分の考えを持ち、表現できる力を育成するため、年3回の検証授業の実施と、校内OJTを活用した授業提案と授業実践の参観により、授業改革に取り組んだ。例えば、5年生の音楽「日本の音楽に親しもう」の単元では、地域の伝統芸能で使われる楽器「篠笛」に取り組み、自分たちのつくった音楽を学校外の人に聞いてもらう機会を設定。旋律や楽曲のイメージを言葉だけでなく、思考ツールで伝え合い、音楽的な特徴について共有・共感することで考えを深め、対話的な学びを表現につなげた。

 中山主任教諭は「教科の特性に応じて、考えたくなる、表現したくなる活動を設定したことで、子どもたちが進んで学習に取り組む姿がみられるようになった」と話し、学習に関する児童へのアンケートにおいても、「自分の考えをもち、先生や友達に伝えようとしている」「授業では他の人と考えを交流しながら課題を解決する活動を行っていると思う」などの質問で、肯定的な回答の割合が大幅に増えたという。

 さらに、「児童の学び方への意識がインプット型からアウトプット型へと変容していた」と強調。今後について、「話し合いを通して、児童自身の考えに深まりや広がりが見られているかという視点を持ち続け、引き続き検証していく必要がある。教科の特性や発達段階に応じたICTの効果的な活用場面について、さらに研究を進めていきたい」と意欲を見せた。

 2007年に三宅中学校・阿古中学校・坪田中学校の3校が合併する形で開校した三宅中学校は、島内に1校ずつ設置されている保育園、小学校、高校と、運動会や音楽会などを合同で実施するなど、保小中高一貫教育を推進している。

 同校では家庭学習の時間が30分より少ない生徒の割合が多い一方、計画を立てて学習している生徒の割合が少ないといった課題があった。そこで、オンライン上の表計算ソフトを活用し、家庭学習の計画を立て、記録を蓄積するための「学習管理表」を開発し、家庭学習の可視化を行った。

 さらに21年度からは、AI機能を搭載したアダプティブ教材を導入。導入当初は利用頻度が少なかったため、授業での活動と連動させた活用を図ったという。例えば、夏休みなどの長期休業の直前に復習確認テストを実施し、弱点と診断された問題を配信し、長期休業中の課題として取り組ませるなどしたところ、休業明けに行った再テストでは正答率が上がるなどの効果が表れた。

 年4回実施される定期考査での学習管理表の活用をはじめ、月ごとに学習管理表の提出を求めることにより、学習習慣の確立を図ることができたといい、「問題を繰り返し解くことの大切さに気が付いた」と振り返る生徒もいたそうだ。また月1時間以上、アダプティブ教材を活用した生徒の割合は、学期中は20%から48.7%に、長期休業中は67.5%から72.5%に増加しており、鈴木健吾主任教諭は「家庭学習に取り組むことが当たり前になるための第一歩を踏み出すことができた」と強調した。

 参加者からの「アダプティブ教材を活用することで、授業における教職員の関わりに変化は表れたか」という質問に対して、鈴木主任教諭は「本校では反転学習にも取り組んでおり、事前の家庭学習でもアダプティブ教材を活用している。こうすることで、教員が授業をやる前に生徒の理解度が分かるので、個別の指導がしやすくなった。また、知識の習得をするための一斉授業の部分を短くし、思考力・判断力・表現力を高めるための時間を増やすことができている」と説明した。

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