「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的な指針(仮称)」の策定に向けて、こども家庭審議会の「幼児期までのこどもの育ち部会」はこのほど、第5回会合をオンラインで開き、障害児支援の団体などからヒアリングを行った。各団体からは「特別支援教育のSpecialは、特に分けるという意味ではない。こどもの個性や特性を尊重した教育として、全てのこどもがSpecialだ」など、インクルーシブ教育への転換を求める声が上がった。同部会では次回から中間とりまとめの審議に入る予定。
この日の会合では▽全国児童発達支援協議会▽日本知的障害者福祉協会▽日本発達障害ネットワーク▽家庭的保育全国連絡協議会▽全国病児保育協議会――の各団体から意見を聴取。加えて、都竹淳也委員(岐阜県飛騨市長)と秋山千枝子委員(あきやま子どもクリニック院長)が医療施策の観点から発表を行った。
このうち、日本知的障害者福祉協会の北川聡子副会長は「乳幼児期のこどもの育ちは人格形成の基礎となるので、いろいろな不安を受け止められて安心することで、自己肯定感につながる。こどもは養育者の心をたどって物事を知っていくので、お母さん、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん、保育園の先生、児童発達の先生などに安心の輪が広がるアロマザリングがとても大切になる。不安や恐怖を受け止められる大人がいないと、障害のある子も健康になることが阻害されたり、後に中学生くらいになって本人も周りも困り感が出たりする。なので、全てのこどもは大人との愛着関係が必要なことは変わりなく、特に障害のある子は時間がかかって難しいこともたくさんあるが、安心感、信頼感は一生の土台となる」と、さまざまな大人との関りの中での愛着形成の重要性を挙げた。
その上で、インクルーシブ教育が進むイタリアの学校の取り組みを紹介し、「(これまでの)いろいろな支援には境があってできてきた。それは今までは、安心の場を提供してくれるということだったと思うが、日本でも特別支援や発達支援が進んだ段階では、引かれている境や壁を問い直して、新しく引き直すことが、新しくできたこども家庭庁の役割になると思う。ぜひ就学前の指針を考える上では、この新しいやり方を今後実践していかないといけない」と、あらゆるこどもが支援を受けられるようにし、インクルーシブな教育・保育の環境を実現していく方向性を呼び掛けた。
日本発達障害ネットワークの内山登紀夫副理事長は「こどもの幸福を考えたときに、日本では将来のために今頑張るんだと、親に対してもこどもに対してもそういう言い方をされると感じる。しかし、大事なことはこどもの今が幸福であること、こどもの心がハッピーと感じていることが大事だ。個々のこどもが幸福であることが一番の目標だ。特別支援教育のSpecialは特に分けるという意味ではない。こどもの個性や特性を尊重した教育だと考える。そう考えると全てのこどもがSpecialだ。発達障害があってもなくても、こどもの個性や特性、家庭や地域社会の実情に応じたテーラーメードの支援を目指したい。ただ、どうしても日本では集団適応や『普通』を目指すことが目標になりやすい。そうではなくて個に応じた幸福を目指す支援が必要だ」と指摘。
「今まで発達障害領域で蓄積されてきた障害支援のスキルを、定型発達のこどもにも逆輸入ができないか。子育てに悩む保護者、保育者、幼児教育の支援者、先生たちにも役に立つと思う。障害のある子のお母さんや教育者も苦労があったはずだ。これまで蓄積した発達障害向けの家族支援、保育所へのコンサルテーションのシステムなどの知見が役立つだろう」と提案した。
同部会では8月末に行われる次回会合で、中間とりまとめの素案について検討を行う。