今年度より文科省とこども家庭庁の共同設置となった「いじめ防止対策協議会」の2023年度初会合が8月9日、オンラインで開催され、いじめによる自死や長期間の不登校といった「重大事態」を巡る課題について優先的に審議する方向性が示された。また、同省が今年度より全国の教育委員会に求めている重大事態の報告についての進捗(しんちょく)も公表され、9日時点で、発生報告が160件、調査開始報告が83件、調査結果報告が8件寄せられていることが分かった。協議会では、これらの調査結果報告の分析結果や委員の議論などを踏まえて、2017年3月に示された「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」の改訂も視野に検討を重ねていく。
初会合では、昨年11月に政府の関係府省会議が提起した、いじめ防止対策強化で早期に対応すべき14項目のうち、重大事態を巡る4項目について優先的に議論する方向性を確認した。具体的には、▽重大事態の認知から調査開始までの迅速な処理に向けた検討▽専門家による重大事態調査などに関する助言方法▽重大事態に関する国への報告(任意)による状況把握の仕組み▽重大事態調査における課題抽出に向けた報告書の分析方法の検討――を挙げた。
冒頭で、同省の担当者が今年度より全国の教委に求めている重大事態の報告について、進展状況を報告した。それによると8月9日時点で、発生報告が160件、調査開始報告が83件、調査結果報告が8件寄せられていた。同省では調査が終わっている8件を中心に分析を進め、次回以降の会合で分析結果を公表し、重大事態への対処の改善や強化につなげる検討材料にするとした。また21年度に発生した重大事態705件のうち、半数を超える395件が重大事態に陥る以前に何らかのいじめの実態が認知されていたことも示された(21年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」)。
委員からは、第三者委員会の設置をはじめ重大事態の対応を巡り、各学校や自治体が苦慮している現状やいじめ被害への影響について改めて指摘があった。
村山裕委員(日本弁護士連合会)は自治体や学校の重大事態への対応が円滑に進まないために、いじめ被害が深刻化している可能性を指摘した上で、「重大事態の調査の在り方はさまざまある。選択するときのポイントを現場に分かりやすく説明することが必要。そうしないと(調査が)長期化して、被害が大きくなってしまうのはないか」と危惧した。
第三者委員会の人選について、原富美夫委員(全国市町村教育委員会連合会事務局長)は「(教委などが)中立性を保っているつもりでも、被害者や保護者からは中立になっていないと見えてしまっている。中立性を保つために、市町村を超えて広域で人材の名簿を作成してほしい」と提案した。
渡辺弘司委員(公益社団法人日本医師会常任理事)も、「自治体ごとに人選すると、どうしても被害者や保護者は恣意(しい)的に委員が選ばれたと思ってしまう。できるだけ第三者性を保つことを考えると、臨床心理士や精神保健福祉士、弁護士、医師など職能団体が広域で支援する形をとるべきだ。全国的な支援システムを、各職能団体でつくっていく必要がある」と訴えた。
その他に複数の委員から、教員研修や日々の授業などを通して、いじめの未然防止に注力すべきといった意見が相次いだ一方で、教員の負担過多を懸念する声も出された。
遠藤哲也委員(東京都葛飾区立新宿中学校長、全日本中学校長会生徒指導部長)は「いじめの対応において中学校現場や教員は最重要と捉えている」と前置きした上で、「学級担任が生徒指導に向かう時間の確保について、ぜひ考えていただきたい。教員の多忙は本当に深刻であることを改めて伝えたい。教員に過度な負担を求める施策にならないように考慮していただきたい」と、現場の声を代弁した。
これを受け、新井肇座長(関西外国語大学外国語学部教授)は「教員の過度な負担にならないようにする一方で、子どもたちを守るために、どう生徒指導やいじめ対応を充実させていくのか。働き方改革との両立を図りながら何ができるのかについても、この協議会で提言できればと思う」と述べた。
同協議会の委員は以下の通り。(50音順、敬称略)
▽新井肇(関西外国語大学外国語学部教授)▽遠藤哲也(東京都葛飾区立新宿中学校長、全日本中学校長会生徒指導部長)▽清原慶子(杏林大学客員教授・前東京都三鷹市長)▽熊谷弘(公益社団法人日本PTA全国協議会常務理事)▽高田晃(宇部フロンティア大学心理学部心理学科教授、一般社団法人日本臨床心理士会会長・教育領域委員会委員長)▽河野浩二(東京都立蒲田高等学校長、東京都公立高等学校長協会生活指導委員会委員)▽玉井康之(国立大学法人北海道教育大学副学長(社会貢献・附属学校担当))▽田村綾子(聖学院大学心理福祉学部心理福祉学科教授、公益社団法人日本精神保健福祉士協会会長)▽豊北欽一(全国都道府県教育長協議会)▽中田雅章(公益社団法人日本社会福祉士会副会長)▽原富美夫(全国市町村教育委員会連合会事務局長)▽福島みどり(川越市立中央小学校長、全国連合小学校長会常任理事(庶務部長))▽松谷茂(文化学園大学杉並中学高等学校長、日本私立中学高等学校連合会常任理事)▽村山裕(日本弁護士連合会)▽八並光俊(東京理科大学教育支援機構教職教育センター教授、日本生徒指導学会会長)▽渡辺弘司(公益社団法人日本医師会常任理事)