「不登校の目指すゴールを変える」 大阪・大東市の不登校支援

「不登校の目指すゴールを変える」 大阪・大東市の不登校支援
【協賛企画】
広 告

 文科省は不登校により学びにアクセスできない子どもたちをゼロにすることを目指し、「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」を今年3月に公表した。こうした動きに先駆けて、大阪府大東市では2022年4月に不登校支援モデル「学びへのアクセス100%」を打ち出し、一定の成果が出てきつつある。多層にもれのない支援策が組まれていることに加え、最大の特徴は「不登校の評価の指標」を変えたことだ。同市の水野達朗教育長は「不登校児童生徒の数を減らすことから、学びにアクセスできる子を増やすことに、指標を変えていく」と強調する。そして「学校復帰の要素と居場所づくりの要素をベストミックスさせていけたならば、不登校は問題ではなくなる」と先を見据える。

「学校しかない」時代から「学校もある」時代へ

 文科省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、小中学校の不登校児童生徒数は21年度に24万4940人となり、前年度から4万8813人増えて過去最高を更新し、9年連続で増加している。

 大東市の教育長に就任する以前は民間の不登校専門カウンセラーとして活動していた水野教育長は、「不登校は明らかに変わってきている。今、不登校の要因は“その子の数だけある”というほど多様化している」と指摘する。

 不登校が急増している理由について、「まず、『学校しかない』時代から『学校もある』時代に変わってきたことが大きい。学校に行かなくても、ゲームもあるし、人との付き合いはSNSなどオンラインでもできる。昔と違って、子どもたちは学校に行かなくても退屈ではない」と分析する。

 不登校の中には、集団が苦手、人の目が気になるという子や、自分が好きな教科だけの時間割ならば学校に行ける、という子もいる。「しかし、今の学校制度の中ではその全てに対応することは不可能だ。学校である以上、譲れないところもある」と水野教育長は学校現場の苦悩を語る。

「不登校の評価の指標を変える必要がある」と訴える水野教育長(大東市教委提供)

 GIGAスクール構想の推進をきっかけに、全国的にもICTを活用した不登校支援が広がりつつあるなど、支援の在り方が多様化してきていることはよい傾向だとした上で、水野教育長が強く訴えるのは「評価の指標を変える必要性」だ。

 「これまで行政や学校は、不登校児童生徒数を減らさなければいけないという考え方で、そこをゴールとして目指してきた。しかし、時代背景を考えても、今後も不登校の数は間違いなく増えていく。不登校児童生徒は増えても、学びにアクセスできたり、学校以外の選択肢があったりするなど、不登校でも前向きに生きていける子が増えたら評価されるような世の中にしていかなくてはならない」と決意を語る。

さまざまな支援を重ね合わせ、もれのない教育支援を

 小学校が12校、中学校が8校、児童生徒数は約1万人という同市では、不登校児童生徒数が19年度は155人、20年度204人、21年度225人、そして22年度は315人と、全国的な傾向と同様、増加し続けている。

 こうした状況の中、22年4月に打ち出した同市の不登校支援教育モデル「学びへのアクセス100%」が目指すのは、「学校へ行く・行かないに関わらず、誰一人取り残さない教育の実現」だ。水野教育長は「不登校は増えることを前提に考えている」と話し、不登校児童生徒のうち、どこにもつながっていない、学びにアクセスできていない状態が継続している児童生徒がゼロになることを目指していくという。

 そのための支援として、▽魅力的な学校づくり▽ICTなどを活用した学習支援▽家庭教育支援チームによる支援▽大東市教育支援センター「ボイス」の活用▽民間フリースクールとの連携強化━━と、関係各所の連携を推進していく。こうしたさまざまな支援策を幾重にも重ね合わせることで、もれのない教育支援を行っていく。

「ゆったりした気分で過ごせる」と好評の教育支援センター「ボイス」

 水野教育長は、あくまでもベースは学校だと考えている。「だからこそ、本市の不登校支援プランの第一に掲げているのは、『魅力的な学校づくり』だ。学校に行くのが楽しい、学べることにワクワクする、いじめもなくて安心安全だったら、単純に学校に行くのが辛い子は減っていく。ただ、それ一辺倒では、どうしても学校というシステムに合わなかったり、行けなくなったりした子たちが苦しんでしまうから、同時に多様な教育機会も必要だ」と語る。

「学校復帰」だけを目的としていないか

 全国的にもICTの活用や校内フリースクールなどが広がりつつある一方で、水野教育長は「多様な教育機会が、現状では単なる学校復帰へのスモールステップの場所になっているのではないか」と疑問を呈する。

 17年に施行された教育機会確保法では、「登校という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要がある」と、国の不登校対応指針が大きく見直されたが、水野教育長は「教育機会確保法の施行後も、学校はずっと学校復帰、教室復帰をよしとしてきた」と指摘する。「もちろん、学校復帰の支援は引き続き大事だが、全ての不登校の子が学校に戻ることがベストなわけではない」と考えを示す。

 同市では不登校児童生徒にどのようにアプローチしていくのか。水野教育長は「年間30日の欠席までは、学校や教員のアセスメントで学校復帰の支援や別室登校などで支援してもらう。年間30日以上の欠席になれば、多様な居場所支援やICT活用による支援をはじめ、適切なアセスメントのもと、教育支援センターを核にして多層的な支援をしていく」と説明する。

 増加する不登校児童生徒に対応するための体制も、スクールソーシャルワーカー(SSW)を増員することで整えている。同市ではSSW12人分の予算を確保し、人材の確保に動いている。12人というのは、「同規模の自治体と比較すると約4倍」にもあたるという。水野教育長は「不登校支援においては家庭教育支援も重要だ。保護者を支えたり、環境にアプローチしたりするのは、スクールカウンセラーではなく、SSWの役割。そのために予算も増額している」と強調する。

 年間30日以上の欠席となった児童生徒は、SSWのアセスメントの下で各校の教員が支援に協力していく。例えば、「○○さんには先生の方から1回電話を入れてもらっていいですか?」「○○さんの場合は、しばらく学校からのアプローチはお休みしましょう」といった指示をSSWから学校側に出す。

 水野教育長は「SSWの指示の下で動いたほうが、教員にも心の安らぎが生まれ、自分だけで抱え込まなくてもよくなる。専門家のアセスメントを入れていくことは必須だ」と実感を込める。

不登校は増えても、不登校が問題ではなくなる日を目指して

 同市では学校と家庭の橋渡し的な役割を担う教育支援センター「ボイス」も、リスタートを切った。以前は学校復帰や教室復帰が主目的とされていたが、現在は学校への復帰や将来的な自立を目指すことを目的として打ち出している。

 さらには民間フリースクールなどの経験がある人材をコーディネーターやデイリーダーとして配置したことも、リスタートの大きな特徴だ。不登校支援のプロフェッショナルが子どもたちへの関わりを指示するようになったことで、日々の配慮にも変化が見られるという。

 こうした新しい「ボイス」のイメージを学校側にも共有するため、昨年度からは教員向けの説明会や少人数の見学会も行っている。各校の管理職の意識改革も進んできているといい、同市教委では、今後は学校内の別室のスタンスも、民間のノウハウも生かしながらアップデートしていこうとしている。

 水野教育長は「学校復帰の要素と、居場所づくりの要素を、ケンカさせずにベストミックスさせていく。この考え方を全ての保護者と学校が共有できたなら、不登校児童生徒の数は増えるけれども、不登校が問題ではなくなる」と展望を語る。

 22年度、同市の不登校支援モデルの理念に基づき、不登校児童生徒315人のうち、54人が学びにアクセスできた。「100%にはまだまだだが、学校現場には本市の不登校支援モデルの在り方、考え方が浸透しつつある」と水野教育長は手応えを感じている。そして「まずは大東市で一つのモデルをつくり、日本の不登校支援の枠組みを変えていきたい」と力を込める。

広 告
広 告