給特法の改廃で36協定締結や残業代の支給を 労働弁護団が意見書

給特法の改廃で36協定締結や残業代の支給を 労働弁護団が意見書
意見書について説明する日本労働弁護団のメンバーたち
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 労働者の権利擁護に取り組む約1700人の弁護士でつくる「日本労働弁護団」(井上幸夫会長)は8月18日、公立学校教員の労働法制に関する意見書を公表した。長時間労働が解消されない大きな要因は、基本給の4%を「教職調整額」として上乗せ支給する代わりに、時間外勤務手当・休日勤務手当(残業代)を支払わないと規定した給特法にあると指摘。同法を廃止したり、抜本的に見直したりすることで、民間企業の従業員や私立学校教員などと同じように、労働基準法36条に基づく労使協定(36協定)を締結しなければ、残業を命じることができないルールを公立校の教員にも適用するとともに、労働時間に応じた賃金が支払われる仕組みに変えるよう求めた。

 給特法の見直しを含めた教員の処遇改善については、中教審で議論が進められており、2024年春ごろに方向性が示される見通しとなっている。日本労働弁護団は、今回の意見書の内容が中教審の考え方に反映されるよう、中教審のメンバーにも可能な範囲で働き掛けたいとしている。

 意見書はまず、文科省が22年度に実施した公立校教員の勤務実態調査の結果、小学校で少なくとも7人に1人、中学校は3人に1人が「過労死ライン」とされる月80時間以上の「時間外在校等時間」(残業時間)を記録していることが明らかになるなど、依然として長時間労働が解消されていない現状を指摘。離職者・休職者が増えたり、教員の志望者が減ったりした結果、本来配置すべき教員を確保することができない「教員不足」が多くの自治体で発生し、子どもたちがしわ寄せを受けているとして、「教員の労働条件・労働環境を巡る問題は、教員自身の人権課題にとどまらず、(憲法26条が規定する)子どもたちの教育を受ける権利を保障できるかに関わる問題だ」と訴えた。

 続いて、長時間労働に歯止めが掛からないのは、給特法が存在することにより、36協定や割り増し賃金といった労基法が労働時間抑制のために採用しているルールが機能しなくなっているからだとして、「(給特法は)廃止するか抜本的に改正することが必要」と主張。改正する際に見直しが必要な点としては、①36協定を通じ、各校の集団的な労使自治によって時間外労働を規制する②残業代を支給する③厳格な労働時間の把握を徹底する④教職調整額を廃止しても、給与の引き下げにならないよう対処する――の4つを挙げた。

 ①は労使間協定を締結しなければ、原則として時間外勤務命令は出せないと定めた労基法のルールを公立校の教員にも適用し、残業を命じることができる業務の範囲や残業時間の上限を各校の管理職・教員間で決めていこうというものだ。また、②の残業代を支給する目的については、個々の教員の給与を増やすことではなく、業務量の削減や人員の拡充につなげるためだと強調している。

 意見書はこうした給特法の在り方以外にも、勤務終了から次の勤務開始までに一定時間の休息を確保することを義務付ける「勤務間インターバル」の制度を創設したり、残業をした場合は代休を取得できる仕組みを導入したりする制度改正も求めている。また、給特法の見直しについて議論している中教審の特別部会の中に、教員の代表者と言えるメンバーが入っていないとして、当事者の意見を反映させるために、教職員組合から一定数の委員を選出することも要求している。

 18日に文科省で記者会見した日本労働弁護団事務局次長の市橋耕太弁護士は「いまは公教育が維持できるかどうかの瀬戸際にあると考えている。このタイミングで給特法改正の議論をきちんとやり、民間労働者にとって当たり前の規制を教員の世界にも適用すべきだ」と訴えた。

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