学校の安全対策を議論している文科省の有識者会議は8月24日、2023年度の2回目の会合を開き、6月に設置した2つのワーキンググループから議論の現状について報告を受けた。学校管理下で児童生徒が巻き込まれた事故が起きた場合の対応などを定めた「学校事故対応に関する指針」の見直しについて議論しているグループの藤田大輔主査(大阪教育大教授)は、現行指針の運用状況を確かめるため、都道府県教育委員会などを対象に調査を進めていることを説明。7月末までに回収できた自治体の回答を暫定的に集計した結果、指針では死亡事故が起きた場合、都道府県教委や政令市教委が国に報告するよう求めているにもかかわらず、一切報告していない自治体が約3割あったことを明らかにした。
指針は文科省が16年3月、学校現場に参照してもらうガイドラインとして策定した。教員研修や安全教育など普段から事故防止に向けて取り組むべき対策に加え、学校管理下で死亡事故が起きた場合、都道府県教委や政令市教委を通じて国に報告すること、被害者となった児童生徒やその家族を支援することなどを求めている。だが、指針に沿った対応が取られていないケースが見られることから、文科省の有識者会議は6月、会議の一部メンバーも含めたワーキンググループを設置し、指針の実効性を高めるための改定案づくりに着手した。個別の事故事例を参照しながら議論するため、ワーキンググループの議論は非公開とされてきた。
ワーキンググループはまず、全ての市区町村教委と都道府県教委、各都道府県の私学行政の担当部署を対象として、現行指針の運用状況を尋ねる調査を実施。藤田主査が8月24日の有識者会議で、7月末までに回答を寄せた約7割の自治体の回答を集計した結果を暫定値として示した。
それによると、市区町村教委の96.0%が死亡事故が起きた際は都道府県教委に報告していた。一方、国に報告を上げる立場の都道府県教委や政令市教委では「全て国に報告した」との回答が64.7%にとどまった。5.9%は「報告しないものもある」とし、29.5%は「全て報告しなかった」と答えた。
藤田主査はこの結果について、ワーキンググループの議論の中で「国まで報告するためのシステムの検討が必要」との声が上がっていることを明らかにした。有識者会議のメンバーからも「指針がしっかり周知されておらず、どういった事案を報告すべきかという点の理解が進んでいない。国に報告してもらって対策を取るという仕組みが回っていく体制を構築することが重要だ」と問題視する声が上がった。
有識者会議では、学校の安全点検の在り方を検討するために設置されたワーキンググループの小川和久主査(東北工業大教授)も議論の状況を報告した。こちらのグループは学校施設の安全点検のやり方や役割分担を示した要領案づくりを目指しており、教室など日常的に使う場所や目視で確認できる設備は教職員がチェックし、構造物の金属疲労など外見で分かりづらい部分は専門家に関わってもらう方向で整理を進めていると説明した。
有識者会議は各ワーキンググループの議論に基づき、23年度内に指針の改定案と要領案を取りまとめることにしている。次回の会合は12月ごろとなる見通しだ。