「誰一人取り残さない支援を」 都教委が不登校に関する協議会

「誰一人取り残さない支援を」 都教委が不登校に関する協議会
「不登校の子どもの社会的自立に向けた支援」をテーマに行われたパネルディスカッション
【協賛企画】
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 子どもが学校に合わせるのではなく、学校が子どもに合わせるに、変えていかなければいけない━━。東京都教育委員会は8月29日、第2回「不登校対応加配教員配置校、不登校特例校、教育支援センター、フリースクール等協議会」を都内の会場で開催した。都内教育委員会および学校関係者や、教育支援センター職員、フリースクールなどの関係者、不登校児童生徒の保護者などが参加し、不登校の子どもの社会的自立に向けた支援をテーマに、パネルディスカッションと講演が行われた。

 パネルディスカッションには、調布市教委指導主事の小宮山香織氏、三鷹市適応支援教室学習指導員の亀山桂子氏、八洲学園高校教頭の南條将範氏、子どもが不登校を経験した保護者の岩崎麻衣子さん、自身が不登校を経験した遠藤愛さんが登壇し、上智大学総合人間科学部教育学科の酒井朗教授がコーディネーターを務めた。

 2014年に八洲学園高校の在校生と保護者の声から誕生した八洲学園中等部は、関西4カ所と関東4カ所の計8カ所で開設されているフリースクール。同高校の施設を使用し、同高校の教員が指導を行うことで、中等部の学費は年間で5000円だという。南條氏は「都内4校では週3~4日の時間割が組まれており、授業内容は生徒の要望や様子を見ながら臨機応変に決めている。在籍中学校への復帰を目標に、安心できる居場所づくりを心掛けている」と説明した。

 三鷹市では市立中学校の3教室と、教育センター内の1部屋を活用し、適応支援教室「A-Room」を運営。毎年90人ほどの児童生徒が通室している。学習機能、カウンセリング機能、相談機能の3つの機能があり、亀山氏は「支援をする上で、通室時間や制服の着用などは本人と相談して決めたり、本人のできる範囲で集団活動に参加したりするなど、自分で考えて自分で行動できるようにすることを大切にしている」と強調した。

 分教室型の不登校特例校として18年4月に開設された調布市立第七中学校はしうち教室。小集団の学級編制で、朝は9時から朝学活が始まるなど、ゆったりとした時間割が組まれている。小宮山氏は「表現科や、CST(コミュニケーションスキルトレーニング)、学習内容の学び直しができる個別学習など、特徴のある教科を設定している」と取り組みについて紹介した。

 こうしたさまざまな施設の話を聞き、不登校の経験がある遠藤さんは「選べるということがポイントだと感じた。私も不登校の時、適応指導教室なら通えたが、それは決められたことだけをやるよりかは、選べるという環境が良かったのだと思う。選べる自由度を公立校で実現するのは難しいと思うが、広がっていくとうれしい。また、現在、社会人として仕事をしていると、勉強の大切さはもちろんのこと、コミュニケーション力が重要だと感じている。不登校の子どもたちに、そうした支援をしているのは良いと思った」と感想を述べた。

 南條氏は「本校のような通信制に来る子は『普通の学校に行けなかったから』と言う子も多い。ただ、それは少数派なだけであって、悪いことではないと、しっかり伝えている。また、不登校を経験した子は『自分は勉強ができない』という言い方をするけれども、不登校になって、学習が止まっていただけ。そこに戻ってやることは何も恥ずかしいことではない。『まだやったことがないという状態なんだよ』『やったら、めちゃくちゃできる可能性があるよ』ということもしっかり伝える。自己肯定感を促し、自信を持ってもらう。そうすると学習へのモチベーションが上がっていく」と強調した。

 小宮山氏は「本市でも学習支援は大事にしている。個別学習の時間を通して学び直すことも大事だが、もっと大事にしたいのは、学習についていけないと思った時にどうするのか、自分に合った学習はどんなものなのかを考えていくことではないか」と訴え掛けた。その上で、「不登校の子どもたちも含めて、全ての子どもたちに寄り添った支援をしていくことが重要だ。子どもたちは一人一人違うという前提に立ち、子どもたちにとっての学習とは何なのか、捉え直す時期にきている。『子どもが学校に合わせる』のではなく、『学校が子どもに合わせる』に、変えていかなければいけない」と決意を述べた。

 続いて、「不登校の現状と誰一人取り残さないための支援の在り方について」をテーマに酒井教授が講演。不登校の現状について、「10年前と比較すると、1000人当たりの不登校児童生徒の人数は、11.2人から25.7人と2.3倍になっている。特に小学校は、3.3人から13.0人と3.9倍にもなっている」と指摘した。

 その上で、誰一人取り残さないための支援の在り方について、「教育とは、人生前半期の社会保障だと言われている。学校教育の一層の充実とともに、さまざまな子どもたちが通いやすい、学びやすい施設をつくっていく必要性が高まっている」と強調した。

 酒井教授は「高齢者には地域包括ケアシステムが完備されているが、子どもたちの学びのための包括ケアシステムのようなものも必要ではないか。それが実現できてこそ、誰一人取り残さないための支援が可能になる」と指摘。教委や自治体の役割について、「社会保障という観点で、教育の充実や整備をしていくとともに、所管する全ての子どもの状況を正確に把握することが喫緊の課題だ。ごくわずかであれ、網の目を抜け落ちている子どもたちがいる」と、切れ目のない包括的な支援の必要性を訴えた。

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