スウェーデンの子どもたちの夏休みは長く、6月初旬から8月中旬まで2カ月以上ある。年度の区切りでもあるため、宿題はない。スウェーデン人の多くは家族で海外旅行に行ったり、森の中のサマーハウスに滞在したりして、街中は閑散とする。しかし、街にも子連れで賑わう集う場所があった。
ウプサラの中心部から少し離れた川沿いの緑地に「ウプサラ・サマーゾーン」がある。ここは、夏の間だけ期間限定で設置される、屋外でさまざまなスポーツやゲームが楽しめる無料の運動公園だ。ホッケーやバスケットボールなどのコートがあり、小さい子供が安全に遊べる柔らかい素材のアスレチックや、地面に並べて遊ぶ巨大なチェスもある。ローラースケートやスケボー、キックボードなどが貸し出されていて、安全のためのヘルメットやサポーターも借りられる。色々なスポーツを代わる代わる試す家族や、ストリートバスケを楽しむ若者たち、キックボード専用のコースをぐるぐる回る子どもたちがいた。
アイスやコーヒーなどが買える小さな売店があり、公園の中央には休憩スペースもある。大人は、子供たちが遊ぶのを見守りながら日陰で休むことができる。移動販売車が来て軽食を買える日もある。
夏休み中の平日は朝9時から夜9時まで開放されている。北欧の夏は日が長いため、夜9時でも明るい。自由に運動して遊ぶこともできるし、さまざまな団体がアクティビティーを提供している時間もある。例えば、地元のスポーツチームが体験会やミニ大会を開催している。消防署が消防車を見せてくれる日もあるし、自転車による移動図書館が読み聞かせをしてくれる日もある。広場は人気で、この夏は史上最多の1日970人の訪問者を記録したそうだ。
休憩しながらあたりを見回すと、移民の家族が多いことに気付いた。複数の家族で広場を訪れて、ランチボックスの果物や食事を囲んで歓談しながら、子供たちを遊ばせている。以前の記事 「少子化なのに人口増のスウェーデン」でも触れたが、夏休みに街に残り、生活基盤やサービスを支えているのは多くが移民である。夏休みに訪れたプールでも、同じように移民の家族や若者たちが連れ立って遊びに来ている様子が見られた。
「ウプサラ・サマーゾーン」に移民の家族が多いのは、偶然ではない。むしろ、その設置目的にかなっている。この広場は、ウプサラ市が2021年から始めた取り組みで、目的は「活動的な子供と若者を増やすこと」、そして「余暇をよりインクルーシブに、平等にすること」だ。生活費の高騰もあいまって、旅行に行けない家族と子供・若者にも、無料で夏休みを楽しんでもらうための施策なのである。
初年度の予算は、広場に敷き詰める床などを購入する必要があったために130万クローナ(約1690万円相当)が計上されたが、今年は設備の維持管理に40万クローナ(約520万円)、運営費が30万クローナ(約390万円)ほどだという。
予算を確保しているということは、こうした場を設ける必要性が認識されているということだ。市内には、失業や犯罪が深刻な地域もあるし、麻薬犯罪の低年齢化も問題となっている。子供や若者の学校外の居場所と活動を提供することが、重要な施策になっているのだ。
自治体と並んで、NPO団体も夏休みの居場所提供に重要な役割を担う。セーブ・ザ・チルドレンは「しんどい地域」として知られるゴッツンダ地区で毎年「ソンマークール(夏の楽しみの意)」を開催している。6歳から12歳の子供を対象に、小グループでバドミントンなどのスポーツや、近場に遠足に行くなどの活動を提供する。毎日無料で果物と昼食もついている。また、ウプサラ・スタッド・ミッションは、22年に親子キャンプを開催した。難しい状況に置かれた親子を対象に、自然の中で泳いだり魚釣りをしたり、安心して過ごし、さまざまな人と出会う場を提供する。
長期休暇や放課後などの余暇をどのように過ごすかは、家族によって差が大きい。余暇をインクルーシブで平等にするという理念と、それを実行に移す自治体やNPOの取り組みは重要だ。「ウプサラ・サマーゾーン」では、毎年少しずつ広場を変えて、楽しさや新鮮さを生み出そうとする工夫も怠らない。街中の無料の運動場は、新学期に登校する子供たちの笑顔に、大きく貢献している。