学校教育を通して子どもたちの「幸福感度」を上げる(喜名朝博)

学校教育を通して子どもたちの「幸福感度」を上げる(喜名朝博)
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質問紙調査に加わったウェルビーイングの要素

 全国学力・学習状況調査の結果が7月末に公表された。今回の児童生徒質問紙調査で新たに加えられた「普段の生活の中で、幸せな気持ちになることはどれくらいありますか」という項目は「幸福感」に関わるものだ。これは、今期の教育振興基本計画のコンセプトの一つである「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」への対応である。今回も含め、今後の質問紙調査の結果は、子どもたちのウェルビーイングの向上という視点での分析が必要となる。

 教育におけるウェルビーイングの要素については、中教審教育振興基本計画部会の答申で次のように整理されている。「幸福感(現在と将来、自分と周りの他者)」、「学校や地域でのつながり」、「協働性」、「利他性」、「多様性への理解」、「サポートを受けられる環境」、「社会貢献意識」、「自己肯定感」、「自己実現(達成感、キャリア意識など)」、「心身の健康」、「安全・安心な環境」――などだ。

 継続調査項目の「自分には、よいところがある」と思いますか」は「自己肯定感」に、「人が困っているときは、進んで助けていますか」は「社会貢献意識」に、「将来の夢や目標を持っていますか」は「自己実現」に対応している。「幸福感」とともに新規項目の「友達関係に満足している」は「学校や地域でのつながり」の指標となる。ただ、それぞれの構成要素を少ない指標で測ることは信頼性に欠け、調査方法も含めた改善が必要である。

「当てはまらない」と答えた理由を明らかにする

 「算数の勉強は大切だと思いますか」「人の役に立つ人間になりたいと思いますか」など、質問紙調査には、質問自体に理想的な回答を含むものが多数ある。選択肢の制約のためにこのような問い方になるのだろうが、子どもたちにも「社会的望ましさのバイアス」(自分を良く見せたいと思う心理)が働くので、建前で回答している数が含まれていることを差し引いて考えるべきである。重要なのは、そう考える理由を明らかにすることである。

 例えば、「多様性への理解」に対応する「自分と違う意見について考えるのは楽しいと思いますか」という質問に対し、小学校では5.2%、中学校では3.9%の子どもが「当てはまらない」と回答している。その理由を把握することで授業改善の方策が見えてくるはずだ。その意味でも、記述式を加えるなどして詳細なデータを得るべきである。

子どもたちはどんな時に幸せな気持ちになるのか

 「普段の生活の中で、幸せな気持ちになることはどれくらいありますか」の結果は、「当てはまる」「どちらかと言えば当てはまる」の合計が小学校で90.9%、中学校で86.8%。一方で、「どちらかといえば当てはまらない」「当てはまらない」の合計は、小学校で9.0%、中学校で12.2%であった。言うまでもなく、この数字をもって日本の子どもたちの幸福度が高いとは判断できない。

 給食でおかわりができたという小さな幸せや、仲間と共に目標を達成できたという幸せ。幸せを感じる気持ち、つまり「幸福感度」は、その子の性格や生育歴などに依存する。だからこそ、学校教育を通して子どもたちの幸福感度を上げることも必要ではないだろうか。そのためにも、子どもたちはどんな時に幸せな気持ちになるのか、なぜ、幸せを感じることが少ないのかを分析することが必要だ。

 特に、否定的な回答をした1割前後の子どもたちは、幸福感度が低いのか、幸福の基準が高いのか、それとも辛い思いをしているのか。この子たちの様子が心配になる。そこで、学校として「日々の幸せ」について考える場面を作ったり、詳細なアンケートを実施したりしてみたらどうだろう。その際、一人一台端末を活用すれば集計も分析も格段に容易になる。

協働的な学びは幸福感を高める

 人の幸福感は、自分の努力が報われたときなどの「獲得的幸福感」と、他者と協働してやり遂げたときの「協調的幸福感」に大別される。これは、日々の授業における「個別最適な学び」と「協働的な学び」にも当てはまる。子どもたち一人一人の「分かった」という達成感・幸福感だけでなく、学び合いを通して自らの考えが広がったり深まったりしたときや自分が集団に貢献したときも、喜びとしての幸福を感じるのだ。

 特に後者の協調的幸福感は、多様な他者と協働することの価値であり、精神的エネルギーとしての生きる力となる。さらに、その気付きが幸福感度を上げることになる。日々の授業が子どもたちの幸福感や幸福感度を上げているという意識をもって授業改善に取り組んでいきたい。

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