内閣改造で退任することになった小倉将信こども政策担当相は9月13日、辞表を提出した臨時閣議の後の会見に臨み、これまでの1年1カ月間の任期を振り返った。小倉担当相は多くのこどもや若者の話を聞いてきたことを強調し、中でも、視察で出会った児童養護施設のこどもと、スマートフォンを持てるようにする約束を果たせたことに胸をなでおろした。そしてこどもたちに対し「われわれに対して意見を言うことに遠慮しないでほしい。こどもや若い人と一緒に未来をつくっていきたい」とメッセージを送った。
昨年8月10日に発足した第2次岸田改造内閣で当時41歳の若さで初入閣を果たした小倉担当相は、岸田文雄首相の指示を受け、今年3月に次元の異なる少子化対策のたたき台となる「こども・子育て支援加速化プラン(加速化プラン)」を作成。これを基に6月に策定されたこども未来戦略方針では、3兆円半ばのこども関連予算の拡充を打ち出した。
小倉担当相は「この規模とスピード感が、次元の異なるいまだかつてない少子化対策だと思っている。まずは若い世代の所得をしっかり上げる。そして社会構造や社会意識を変える。従来の子育て支援にとどまらず、経済社会政策の一環として少子化対策を捉え、挑んでいく観点の下でこの少子化対策を打ち立てる。同時に、(少子化対策は)子育て支援策も妊娠から、こどもが大学や大学院を卒業するまで、非常に息の長い取り組みなので、どれか一つを取って支援を充実させるということではなく、妊娠期からこどもが高等教育を卒業するまで、切れ目のないステージに応じた子育て支援を充実させる必要がある。こうした考えの下で、少子化対策に盛り込むことができた」と成果を振り返った。
また、こども政策担当相に就任した直後の昨年9月には、静岡県牧之原市の認定こども園で当時3歳の園児が送迎バスの中に置き去りにされ、死亡した事故が発生。その対策として、全国の保育所や幼稚園、特別支援学校などの送迎バスに安全装置の設置が義務付けられた。小倉担当相はこうしたこどもの命や安全を守る施策について「こども家庭庁発足後にはこどもの自殺対策、こどもの性暴力や性被害から守るための対策を総理の指示の下でこども政策担当大臣である私の下で会議を開き、そしてそれぞれ対策プランをまとめた。こどもの数は減っているけれども、こういった事件・事故の数というのはとどまることを知らない。しっかりとこども家庭庁の下で、こども政策担当大臣の下で、縦割りを排し、政府が一元的にこどもの命や安全を守るための対策を打ち立てることができたのではないかと思っている」と述べ、児童虐待やこどもの貧困問題、障害児支援など、さまざまな困難を抱えているこどもや家庭の支援がこども家庭庁の重要なミッションであることを強調した。
小倉担当相は在任中、こどもや若者の声を聞き、彼らの視点に立って政策運営をしていくことを自分自身でも実践してきた。小倉担当相は「さまざまなこどもと会い、そして対等に意見を交わさせていただいた。どのこどもにも共通するのは、彼ら、彼女らは意見がないわけではない。思いがないわけではない。むしろ、彼ら、彼女らの中で自分たちが意見や思いを持っていても、それを大人が聞いてくれることはないのではないか、ましてや自分たちの声や意見が制度の中に反映されることがないのではないか、という諦めを持っている。そういうこどもや若い人たちが多いのも事実だと認識している」と指摘。「長い道のりかもしれないけれど、一人一人のこどもや若い人たちの意見をしっかりと聞いた上で彼らの声や意見を反映させられるようにわれわれ大人がしっかり努力をしていく、こういったことが今、日本の若者を覆う閉塞感を打ち破る大きな鍵になる」と呼び掛けた。
こうしたこどもや若者と直接話をする機会や多くの視察などで印象に残っているエピソードについて尋ねられると、小倉担当相は7月に訪れた東京都立川市の児童養護施設で出会った小学生の男子児童との「約束」について紹介。小学校から施設に帰ってきて、宿題に取り掛かっているその男子児童に小倉担当相が「何をしてほしい?」と質問すると「スマホが欲しい」と答えたという。小倉担当相が「頑張ってかなえるよ」と応じると、うれしそうな表情を浮かべながら「指切りげんまん」を求められたそうだ。小倉担当相は「今の児童養護施設のルールだと高校に上がれば学習上必要だということでスマホがおおむね認められているが、中学校以下だと認められない。でも中学校では、同級生たちのほとんどがスマホを持っている。学校の授業や部活動のこと、それ以外の生活のこと、だいたいがスマホでやりとりをしている中で、児童養護施設で暮らすこどもたちはその輪から漏れてしまう。私は、どんな場所にいてもこどもたちが負い目や引け目を感じないような社会をつくる責任が大人にはあるのではないかと思う」と述べ、来年度予算の概算要求で、児童養護施設のこどもたちがスマホを広く利用できるようにするための支援が実現したことに胸をなでおろした。
「重要なのは、こどもや若者と同じ目線に立って、対等の関係で話を聞き、議論を交わすのと同時に、こどもや若い人の声を大切にして、われわれが責任を持って政策に昇華・反映させていくことだ。さまざまな困難を抱えるこどもや若者にたくさん会ってきた。彼ら彼女らも内なる思いを秘めていて、ものすごく社会や大人に訴え掛けたいけれども、なかなかこれまで聞く耳を持ってくれなかったという人が多かったのではないかと思う。だからこそ、われわれがしっかりと意見や声を聞けば、彼ら、彼女らがこれまで以上に大きな夢や希望を持つことができ、社会の中で活躍してくれるのは間違いない」と小倉担当相は力を込めた。
最後に、こどもたちへのメッセージを求められると、小倉担当相は「私に直接、間接的に意見を言ってくれたこどもや若い人たちに対して、『貴重な素晴らしい意見をありがとうございます』と申し上げたい。一人一人のこどもや若者の、どの意見が優れていて、どの意見が優れていないということはない。その一人一人が、われわれが参考にすべき大変貴重な意見だと思っている。どうか今の若い人たちが、われわれに対して意見を言うことを遠慮しないでほしい。こどもや若い人と一緒に未来をつくっていきたい。私は任を離れるが、こども家庭庁が大人の組織ではなく自分たち(こども・若者)の組織であるということ、そんな当事者意識を持ってお付き合いいただけるとありがたい」と思いを託した。