多様な子どもたちが主体的に学ぶことができる環境の整備について議論していた文科省のタスクフォース(作業チーム)がこのほど、現状の成果や課題を踏まえた論点や、これから必要となる取り組みをまとめた。カリキュラム編成の工夫などに取り組んでいる小中学校の好事例を集めて普及を図っていくことや、次期学習指導要領について議論する際、各校の柔軟な取り組みを後押しする仕組みが可能かどうかを検討するよう求めている。
タスクフォースは伊藤孝江文科政務官を座長として8月8日に設置され、教育課程などを所管する省内の幹部職員ら6人がメンバーを務めた。子どもたちが自分の興味や関心に応じた主体的な学びを展開できるようにするため、カリキュラム編成などを工夫している学校にヒアリングを重ね、現状の成果と課題を整理。その上で、優れた実践を普及させていくために必要な取り組みを提案した。
ヒアリングは、横浜市立奈良小学校、東京都目黒区立中目黒小学校、東京都八王子市立高尾山学園の3校と、各校の設置者である教育委員会を対象に実施した。奈良小学校は現行の学習指導要領の範囲内で独自のカリキュラム編成に取り組んでいる学校の一つ。通常は1コマ45分の授業を40分に縮め、代わりに授業のコマ数を増やしたり、20分間の学習タイムを設けたりすることで、個々の児童の学習状況に応じて学べる時間を確保しながら、文科省が定める標準授業時数と同じ授業時間をこなしている。児童の集中力が高いとされる午前中に5コマをこなすことで、学習効率を高める効果も狙っている。
中目黒小学校は学習指導要領などの基準によらない教育課程の編成が認められている「研究開発学校制度」の対象校。1コマ40分の授業を展開している点は奈良小学校と共通だが、制度の特例を活用し、授業のコマ数を増やさずに授業時間だけを縮めている。これによって年間で127コマ分の時間のゆとりを生み出し、そのうち35コマ程度は児童の関心に応じた探究型の学習などに充てている。また、教員が教材研究や打ち合わせに使う時間としても活用し、「働き方改革」にもつなげている。
高尾山学園は、不登校の小中学生を対象として、特別なカリキュラムを組むことが認められている「学びの多様化学校」(いわゆる不登校特例校)だ。年間の授業時数を2割ほど削減し、午前中は3コマ、午後は1~2コマというゆとりある教育課程を編成している。また、午前は通常授業を中心に据え、午後はスポーツや文化活動、ものづくりなど主体的・協働的な学びを重視した「講座学習」を展開することで、児童生徒の意欲が1日にわたって持続するよう工夫を凝らしている。
タスクフォースはこうしたヒアリングの結果などを踏まえ、「今後は義務教育として共通に学ぶべきことを担保しつつ、可能な限り児童生徒が興味・関心に応じて主体的に学ぶ時間を確保できるよう取り組んでいくことは重要と考えられる」と指摘。具体的な取り組みとして、小中学校の多様なモデル事例を収集・創出していくことを提案している。特に「学びの多様化学校」については、事例集を作成して好事例の普及に直ちに取り組むことが重要だとした。また、次の学習指導要領の改定の際には、主体的に学べる多様な学びを各校が柔軟に実現できるような仕組みを考えられるかどうかについて検討するよう求めた。