育休明けの正規教員が数年間、講師になれる仕組みを(庄子寛之)

育休明けの正規教員が数年間、講師になれる仕組みを(庄子寛之)
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 東京都教育委員会は9月30日、2024年度採用の公立学校教員採用選考第2次選考の合格発表を行った。小学校全科の区分では、受験者数2280人に対して合格者は2009人。受験倍率は1.1倍だ。

 倍率が低いからといって、教員の「質」が下がるとは限らない。しかし、この倍率は危機感を持たなくてはいけない数字だ。このままでは、年度途中に教員が不足し、中堅やベテランの仕事量が増え過ぎて、中途退職者がどんどん増える可能性がある。

 来年度を想像してほしい。今年も担任がいないクラスがたくさんあった。4月当初ももちろんだが、9月以降の方がさらに増える。うまくいかないクラスの病休もあるが、それ以上に、産休で休暇を取る教員の補充教員を見つけることができないからだ。

 今年合格しなかった教員は東京で200人しかいない。今年だって産休や病休でいなくなった後に担任がいなかった。来年度はもっと担任が見つかりづらくなるだろう。

 担任がいなければ、その学校にいる教員で補わなくてはならない。自分のクラスを4時間みて、空き時間は担任のいないクラスに入る。毎日フルコマになり、体調を崩す。自分のクラスならまだしも、自分の学年でもないクラスの保護者対応までしなくてはならない。そして、自分のクラスの準備がおろそかになることで、自分の学級もうまくいかない。負のスパイラルがどんどんつながっていく。この解決策はあるのだろうか。

育休明けの教員は続けるか辞めるかで悩んでいる

 私は解決策の一つに、育休明けの教員が必ずしも担任で戻らずに、正規のままで講師になれるシステムの構築があると考える。

 具体的に述べたい。まず、多くの育休明けの教員は、このまま続けるか辞めるかで迷う人が多いそうだ。この数年で、学校現場は大きく変わった。子供たちは全員1人1台端末を持っており、教員同士の連絡手段もオンラインが当たり前となった。育休明けの教員は、タブレットがないコロナ前にしか教員をやっていなかった人も多い。

 わが子が小さい時に、自分が学ぶ時間はあまりない。もちろんタブレット学習も同じである。そんな中、果たして担任をしながら子育てを続けることができるのだろうか。そう悩む気持ちは痛いほど分かる。

 悩む時に考えることは、安定とお金だ。教員は確かに安定している。結果がどうであれ、年次分の給料が発生し、退職金も多い。将来のことを考えれば、今が忙しいからとか、今子育てに集中したいから、という理由で辞めてしまうのはもったいないのではないか、と考える気持ちもよく分かる。

 さあ、そんな気持ちで教員に復帰した教員たちはどうなるのだろうか。私は、復帰1年で辞めていった教員を何人も知っている。数年ぶりの担任、新しい環境、年次が上がったことで与えられる校務分掌、そして子育てに付きものの送り迎え、さまざまな家事――。

 教員はとにかく朝が早い。学校に午前8時前に出勤するためには、わが子を7時過ぎには保育園に預ける。その準備などを入れれば、午前5時起きも当たり前になってくる。

 仕事が終わってもいないけれど午後5時に勤務先の学校を出て、午後6時前までに保育所のお迎えにいかなければならない。その後もご飯や家事をしていたらあっという間に夜中になる。教材研究や、この数年間に起きた変化について学ぶ時間もない。

 思い返してほしい。タブレットが1人1台になった2021年はコロナ禍であった。その前年の20年にはコロナ禍の中、みんなで模索しながら少しずつタブレットの使い方を学んできた。今年度から育休から復帰する人たちには、その時間がないのである。

担任に戻りたいタイミングで戻せばいい

 長々書いたが、私は「育休明けの教員は、担任を持たず、講師やスクールサポートスタッフ、教頭補佐などの仕事に就くことも可能とする」という新たな制度を提案する。

 もちろん育休明けでも、すぐ担任に復帰したい人はもちろん今まで通りで構わない。

 ただ、給料が下がっても講師をしたい、スクールサポートスタッフをやりたいという人は、できるシステムにする。

 現在は担任をするか、教員を辞めるしかない(専科教員になる選択肢を除けば)。担任を数年続けて、1校目で産休育休に入った教員の中には、教員としての勤務期間よりも産休育休期間の方が長いという教員も少なくない。例えば、教員を3年やって産休育休を6年とっているとしたら、すぐには担任に戻りたくない気持ちは容易に想像できるだろう。

 復帰する際に、1年間は現場感覚を取り戻すために使いたいという教員は、スクールサポートスタッフを行う。勤務時間も午前9時から午後2時。教材などの印刷の補助や校務分掌のサポートを行う。担任の経験がある人なら、機転の利くサポートができる。もし担任が複数休んだ時は、補教として代わりに授業を行うこともできるだろう。

 育休明けに担任ではなくスクールサポートスタッフを選んだ教員の給与は、もちろん担任より下がる。だが、担任を持たず、午後2時に必ず帰れるのであれば、わが子の子育てにも余裕をもって取り組みながら、現場の状態を理解し、担任としての感覚を取り戻す時間や学び直す時間もとれるだろう。

 育休明けの教員が、担任に戻りたいというタイミングで戻すことで、学校現場としても復帰しようと思っている教員にとっても、どちらにもWin-Winの関係を築くことができるはずだ。

現職の教員たちが辞めたくなくなる施策が必要

 教員不足は深刻だ。志望者を増やすためにも教員の素晴らしさを世の中に伝えていかなくてはならない。しかし、すぐに採用倍率が上がることは見込めないだろう。であれば、新規採用を増やすこと以上に、現職の教員たちが辞めたくなくなる施策を立てていく必要がある。

 私ごとだが、最近小学5年生の移動教室に3日間補助員として行動を共にした。大変なこともあるが、改めて教員は素晴らしい仕事だと感じた。この施策だけではなく、辞めた教員がすぐ戻りやすいシステムや、民間企業での勤務を数年体験してから戻るシステムなど、今の時代あった施策がどんどん取り入れられ、教員経験者が教員以外の経験もあるのが当たり前である世界になるといい。そして、世の中の人から「教員って大変なところもあるけれど、素晴らしい仕事だね」と多くの人に言われる世界を望む。

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