東京都教育委員会は10月12日、今年度の第1回東京都総合教育会議を都庁で開催した。小池百合子都知事と浜佳葉子教育長、教育委員らが出席し、「さまざまな困難を抱える子どもたちの支援の充実」をテーマに意見交換した。委員からは「教員だけで対応するには限界がある。学校でできることとできないことを整理すべき」など、外部との連携を含めた支援体制の構築について意見が上がった。
浜教育長は冒頭、子どもたちを取り巻く状況について、「いじめの認知件数の増加や、小中高生の自殺者数、特別支援教室の利用者が増加傾向にあること、そして不登校の小中学生数が過去最多となっている」ことなどを上げた。
特に不登校については、学校を全欠席し、学校などと全く関わりを持てていない小中学生が約500人存在しているとし、「子どもが抱える困難などが不登校という状況に表出している。学校とのつながりが全くない子をなくし、一人一人の状況に応じた支援を強化することが必要」との考えを示した。
そのために都教委で現在取り組んでいることとして、▽福祉面から支援を強化するためのスクールソーシャルワーカー(SSW)などの活用支援▽仮想空間を活用した学びの場や居場所であるバーチャル・ラーニング・プラットフォームの提供▽小中学校時代に不登校経験のある生徒などを受け入れるチャレンジスクールや昼夜間定時制高校━━を紹介した。
続いて、さまざまな困難を抱える子どもたちに必要な支援を進める上での課題について、同会議の講師の吉祥寺二葉栄養調理専門職学校の木下結加里さんが自身の経験を話した。
木下さんは現在、同校の栄養士科で助手を務めているが、小学3年生の頃から学校に行きづらくなり、中学校では特別支援学級に在籍していた。中学2年生の時の調理実習で、自分が考えたレシピが採用されたことをきっかけに、料理の道を考えるようになったという。
その後、学力考査や内申書がなくても入試が受けられること、自分に合った時間に学校に通えること、自分と同じように不登校を経験している人が多く所属していることから、チャレンジスクールへ進学した。チャレンジスクール在学中には、文化祭の実行委員会なども経験。「同年代の人たちと協力して一つのことをやり遂げられた経験は、今でも『私でもできる』という自信になっている」と話した。
卒業後は、大学と迷った末に、自分が苦手だった「毎日決められた時間に学校に通うこと」にチャレンジしようと、専門学校へ進んだ。「私が困難を乗り越えられたのは、中学以降、自分が居ても良いと思える、私を受け入れてくれる居場所と出合えたから。そして、その居場所で私を一人の人間として真剣に向き合ってくださった先生方のおかげだ」と述べた。
また、これからの学校に期待することとして、「児童生徒の声に耳を傾け、変わっていける柔軟性を持ち続けてほしい。そして、私が料理という好きなことを見つけられたように、多くの子どもたちが自分の好きを見つけられる居場所に学校がなってくれたらうれしい」とメッセージを送った。
木下さんの話も踏まえ、教育委員からはさまざまな意見が出された。宮原京子委員は「よりスピーディーに、かつ柔軟に対応するアジリティーが教員にも求められていると強く感じた。子どもたちの困難に、SSWなど専門家を交えたチームで学校は対応していく必要があり、チームのマネジメント力も必要になってくる」と述べた。
秋山千枝子委員は「特別支援教室の在籍人数も右肩上がりに増加している。教職員の定数は年度当初の児童生徒数によって決まるため、年度途中の入室に対応しきれていない。教職員定数管理も是正する必要があるのではないか」と訴えた。
北村友人委員は「一人一人の子どものペースを大切にすることが大事だと思うが、それを教員が全て対応できるかというと、現実的ではない。学校にできることとできないことをしっかり整理して、どこまで学校でやるのか、そして学校以外で何をしなければいけないのか、東京都全体で考えなければいけない」と問題提起した。
小池都知事は「子どもたちの健やかな成長には、教員も健康で働ける環境が重要だ。SSWなど専門家や外部人材の力をうまく借りることで、教員の負担を軽減し、子ども一人一人に合わせたサポートを充実させていくことが必要だと感じた。皆さんと連携しながら学校教育のさらなる充実を図っていきたい」と締めくくった。