上限指針を巡る市町村教委の規則「早急な整備を」 盛山文科相

上限指針を巡る市町村教委の規則「早急な整備を」 盛山文科相
閣議後会見で質疑に応じる盛山文科相
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 教員の時間外在校等時間に関する上限指針を巡り、2023年度中に必要な教育委員会の規則を整備する予定がない自治体が43市町村となっていることについて、盛山正仁文科相は10月24日の閣議後会見で、「未整備の市町村教委に対して、引き続き上限方針を規則等で整備することを求めていく」と述べた。文科省が市町村教委に規則の整備を直接働き掛けることについては地方分権の観点から否定的な見方を示し、「都道府県教委を通じて(市町村教委に)早急な整備を改めて求めていく」と説明した。

 上限指針は、教員の実質的な残業時間にあたる「時間外在校等時間」を月45時間、年360時間以内と定めており、学校の働き方改革を巡る基本的な施策となっている。文科省は20年1月に上限指針を告示し、上限指針の実効性を高めるための条例や上限指針を位置付ける教委の規則を整備するよう各教委に通知などで求めてきた。だが、今年8月時点で文科省が条例や規則の整備状況を調べたところ、43市町村が23年度中に教育委員会の規則を整備する予定はない、と回答。文科省はこれらの自治体名を公表した(参照記事:時間外勤務の上限指針 規則未整備の43市町村名を公表、文科省)。

 盛山文科相は「この指針に基づき、具体的なことを定めるのは各教委になるので、(文科省は)規則等で教員の在校等時間について上限を定めることを求めている。しかしながら、今年の8月時点の調査で、いまだ43の市町村で策定できていない」と指摘。その上で、「引き続き未整備の教委に対して、上限方針を規則等で整備することを求めていく。そして、これらの取り組みを含めて働き方改革、処遇の改善、学校の指導運営体制の充実を一体的に進めることで、教師が教師でなければできないことに全力投球できるような環境を実現すべきであると考えている」と説明した。

 教員の働き方改革を巡っては、文科省が上限指針のような政策を担い、教員の任命など人事権と給与は都道府県教委、学校現場への指導支援は服務監督権を持つ市町村教委が担うという地方分権制度上の役割に応じて、さまざまな取り組みが進められている。ただ、こうした制度上の役割が分かれていることによって、働き方改革の取り組みに自治体間のばらつきが出るといった課題があることも当事者から指摘されている。

 例えば、10月20日に開かれた中教審の「質の高い教師の確保」特別部会で、岡山県教育長の鍵本芳明委員は「県教委は市町村教委の取り組み状況を聞き取って支援や助言を行っているが、働き方改革に向けた意識や取り組みの実態には市町村によってかなり開きがある。県直轄の県立学校ならば、担当課が校長と話して年度途中に分掌上の配置を変更することもできるが、そういうことは市町村立学校にはできない。政令市のように人事権と服務監督権の両方を持っている自治体とは違い、県教委と政令市以外の市町村教委の関係には難しい面がある」と、実情を率直に吐露した。

 この日の閣議後会見で、盛山文科相は、文科省が上限指針を告示してから3年8カ月が経過した今年8月時点で、県庁所在地を含む43市町村が23年度中に教育委員会の規則を整備する予定がないとしている背景に、こうした制度上の難しさがあるのではないかとの質問を受け、「大変厳しい指摘。しかしながら、本質を突いた指摘だと思う」と応じた。その上で、「文科省に与えられている権限、そして地方の独自性がある。これについては今後の課題ということにならざるを得ない。急に文科省が『これはこういうふうにして』と(市町村に)言うことは、今の制度の上では困難だと思う。だから、都道府県教委を通じて(市町村に規則の整備を)求めていくことを続けていく」と、理解を求めた。

 中教審が8月28日に取りまとめた学校の働き方改革に関する緊急提言では、「依然として、長時間勤務の教師が多い状況。持続可能な教育環境の構築に向けて、教育に関わる全ての者の総力を結集して取り組む必要がある」と指摘した上で、「国、都道府県、市町村、各学校などが自分事としてその権限と責任に基づき自主的に取り組む」ことを強く求めている。

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