半年間、さまざまな学校の改革に伴走している。その中で、私の一番の関心事は働き方改革である。
残念ながら、どこの学校の教員からも聞かれることが「働く時間を短くしろ、とだけ言われるのが嫌だ」である。効率よく仕事をして、働く時間が短くなり、その時間で自分のしたいことをする。多くの教員が仕事優先になり、家庭を顧みる余裕がないので、早く帰ることで生まれた時間が自分のQOL(生活の質)のために使われることは素晴らしいことであろう。
しかし、本当に勤務時間を減らすだけでよいのだろうか。それは本当に働き方改革と呼べるのだろうか。私はそうは思わない。
働く時間を単純に短縮するだけでは、働き方改革とは言えない。真の改革とは、教職員が職務を全うし、子どもたちによい教育をしつつ、自身の生活の質も向上させることであると私は考える。単に勤務時間を短くすればいいのではない。
自治体を通して、とてもうまくいっている地域もある。滋賀県湖南市だ。同市の松浦加代子教育長は、学校経営のポリシーとして「校長笑顔率世界一」を掲げている。「心」「機動力」「根拠」の3Kを掲げ、「とにかく一度、やってみよう」という言葉が校長室や教育委員会に張り巡らされている。
湖南市の校長会も見学して講話させていただいたが、とにかく元気である。私の話を聞いた後、すぐ実践しようとし、実際に動いているものもある。どの校長も意欲的に取り組んでいる。隣の学校であっても、参観し、学ぼうとしている。
たくさんの教育長と会ってみて感じることは、失敗を経験とし、許容する度量のある教育長の元にある教育委員会・自治体は、活気があるということである。まさしく湖南市はその一つであろう。
湖南市にある岩根小学校の働き方改革に伴走させていただいているが、この学校もとにかく活気がある。教職員同士の学び合いも生まれており、仕事を「減らすこと」「なくすこと」だけでなく、研修やICTなど「増やすこと」も実施し、実際に働き方も改善されているという。
岩根小学校の教員たちと話していて、特徴的だったことは、「誰にも早く帰れとは言われない」ということだった。岩根小は滋賀県の働き方改革実践校に指定されている。当然、教職員の勤務時間を減らさなければならないはずだ。しかし、「早く帰りなさい」「勤務時間を減らしなさい」と言われないということはどういうことなのだろうか。
川邊裕子校長に話を聞いた。すると、勤務時間の総時間よりも、教職員の笑顔や働きやすさを大切にしているという。つまり、教職員に遅くまで残って教材研究したいことがあるときには、それができる環境を整えている、というのだった。
そんな職員室は、本当に温かい。子どもたちも笑顔ですてきな学校である。これらは教職員のがんばり、管理職の学校運営もあるが、教育委員会の姿勢から生まれてくることなのではないだろうか。
国も教育委員会も、勤務時間ばかりに着目して教員の働き方が改善されていると言ってはならない。
都道府県教育委員会は「うちの県はさまざまな取り組みをして、これだけ時間が減りました」と文科省に伝えてはいないだろうか。今の数字は、本当に正確な数字なのだろうか。いろいろな学校を訪問して、疑問に思うことが多々ある。
大切なことは誰もが生き生きと働ける職場環境である。もちろん最初は全員で無駄を省くことが大切であろう。ただ、無駄を省いていても、ある一定程度に減れば、そこから減らなくなる。その時に、減らすだけでなく、教員の笑顔が増えるという観点で働き方改革に取り組んでほしい。やりたいことができない職場は本当の意味でよい職場とは言えない。たとえ勤務時間が短くても、である。
「うちの学校は働きやすいです」「私は教職員をしていて楽しいです」。心の底からそう言える教職員が多い学校が働き方改革のできている学校である。子どものため、授業のためになら、教職員はがんばれるのである。
生成AIを使った校務の取り組みやデジタル教科書をはじめ、これからさまざまな変化が学校現場にやってくるだろう。教職員はますます学ぶ時間が必要だ。その時間を確保せずにビルドアンドビルドしてしまったら、働き方改革の取り組みなど焼け石に水である。教職員自身がしたいことができる働き方にするために、国や教育委員会は、勤務時間以外の見取り方も改めて考えてほしい。
最後に岩根小学校の運動会の様子について、川邊校長から届いたメール文を紹介したい。
「業務改善推進員の森本先生がこんな提案をしていました。運動会練習は2週間以内でおさめる。今までなら、たくさんの時間を費やして運動会練習していましたが、最初に決めた目標に達したら、たらたら練習をこなさず、違う価値ある学習に替えていこうよと。ギリギリまで練習を詰め込みがちだった雰囲気がなくなり、先生方も肩の力を抜くことができました。働き方改革をいかに自分事としてとらえるか。それは、ウェルビーイングにつきますね。楽しくないとあきません。そして、子どもや地域も笑顔になってこそ、よい学校ですね」