横浜創英中学・高校の工藤勇一校長がこのほど、学校教育の改革を進める「青森県教育改革有識者会議」に出席し、児童生徒の主体性を取り戻す学校の在り方や、それに伴う教員の意識改革について、同校の実践を交えて報告した。教員に求められる能力について「『人間力』と勘違いしている人がいるが、専門性に基づいたスキルが大切だ」と強調し、同校では生徒や保護者への効果的な言葉掛けをノウハウとして蓄積していることなどを明かした。
有識者会議は今夏、宮下宗一郎知事直轄の諮問機関として発足。議長は大谷真樹氏(インフィニティ国際学院学院長)、副議長は森万喜子氏(北海道公立学校初任段階教諭指導講師)が務め、工藤校長も特別委員として参画している。
10月25日に行われた第6回の会合では、有識者として工藤校長が登壇し、同校の実践を報告した。日本の学校教育の課題について、「従来型の教育を受けて主体性と当事者意識を失った子どもたちをリハビリする」と表現した。
同校でも工藤校長が着任した約4年前から試行錯誤を重ねている。特にこれまでの小学校教育の影響が色濃い中学1年生については、主体的になるための「緩和期間」を設けているという。
例えば、数学の授業では、学びたくない生徒専用の教室を設けている。生徒に対して「学ぶか学ばないかは自分で決めていい。ただし学びたい人の邪魔をする自由はないよ」と伝え、授業を受けたくない場合はその教室で自由に過ごせるようにしている。
年度当初は、そこでゲームをする生徒が続出。約130人のうち30人ほどに上る時期もあった。しかし教員が黙って見守り続けることで、1人また1人と通常の教室に戻っていき、3学期を迎える頃には3人ほどまでに減ったという。
工藤校長は「教員が叱るなど、対立軸があると反発する。戦う者がいなくなり、自己決定を許される環境になると子どもはおのずと学びたくなる」と生徒の変容を説明した。
一方で教員の「リハビリ」の難しさについても言及。前述した学びたくない生徒専用の教室に対しても、一部の教員が不安を感じ生徒を注意したところ、対立を招いた事例もあったという。
工藤校長は、宿題やテストをなくすといったシステムは取り入れられても、一人一人の教員が持つ指導観を変えることは難しいと指摘。自身も「毅然と叱る」ことを重視していた時代があると振り返りつつ、「(叱ればいいという)スキルを変えられない教員がいるとうまくいかない。生徒や保護者は信頼しない」とした。
さらに「豊かな人間性や経験を持つと、すてきな教員になれると勘違いしている人が多い」と指摘し、教員が専門性に基づくスキルをつけることの重要性も説いた。
所属校の教員に対しても、「(子どもに対して)無償の愛情があるか自分に問い掛けるのではなく、しっかりスキルを持ってほしい」と伝えているという。
工藤校長の指す「スキル」の一つは、生徒が自律するための言葉掛け。同校ではトラブルが起こったときをはじめ、場面ごとに、生徒や保護者に対する効果的な言葉掛けをセリフとして蓄積しており、教員はOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で理解を深めているという。
工藤校長は「このセリフを蓄積し活用することで、生徒や保護者の意識啓発がされて信頼関係が深まり、学校が安定してきた」と手応えを語った。
同校ではこういったノウハウを全国の教育委員会に広める取り組みにも注力している。
有識者会議では、各回に全国の教育現場で活躍する委員が実践を報告し、青森県の教育を変えるためのヒントを探っている。次回は11月7日に開催され、生重幸恵氏(特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長)の報告が予定されている。会議の様子は後日、同県のYouTubeで視聴できる。