【新卒副校長の学校改革】 YouTubeとリアルな授業の違い

【新卒副校長の学校改革】 YouTubeとリアルな授業の違い
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 新卒1年目で広島桜が丘高校の学校改革をリードする立場となった桐原琢副校長は、自らも教壇に立ち、先輩教員と共に授業改革にチャレンジしている。大学時代は教育系YouTuberとして活躍したが、リアルな授業は「全然違う」と語る。インタビューの2回目では、一斉授業からの脱却や教員同士が協力し合う授業づくりなど、現在進めている授業改革を中心に聞いた。(全3回)

自ら希望して教壇にも立つ

――副校長の業務に加えて授業も担当しているとのことですが、それも学校側からの要請だったのでしょうか。

 私自身の希望です。管理職になったものの、学校現場の教員経験はなく、これまでは高校生と長時間触れ合う機会もありませんでした。そんな人間が、職員室に座っているだけではよくないだろうと思って、お願いしました。

 とはいえ、大学時代に教職課程を取っていなかったので、そのまま授業をすることはできません。そのため、広島県に臨時免許状を発行してもらいました。教育実習もしていないので、教壇に立つのは本当に初めてでした。

「教職課程を取っていなかったので、本当に初めて教壇に立った」と話す桐原副校長
「教職課程を取っていなかったので、本当に初めて教壇に立った」と話す桐原副校長

――実際に授業をしてみた感想はいかがですか。

 面白いですね。もちろん大変な部分もありますが、授業ごとに生徒の姿、顔つきも全然違います。担当する「公共」の最初の単元が、「自分について考える」授業だったのですが、個人の尊厳、自主自立、多様性、協調性、キャリア形成、文化など、15~16歳の生徒たちが成人の18歳を迎えるにあたり、向き合わないといけないテーマでした。

 そのため、どうやって生徒が自分と向き合うきっかけをつくればよいかを考えました。例えば、ONEOKROCKというバンドの『欲望に満ちた青年団』という曲があるんですが、その歌詞が青年期、思春期の心理を本当によく表していたので、それを何回か流して考えさせたり、レゴで自分を表現させたり、ライフキャリアに関するすごろくを一緒にやってみたりして、生徒の興味を引くようにして授業を展開しました。今もいろいろと試行錯誤をしながら授業をしているところです。

――教育系YouTuberとしての経験は、生きているのでしょうか。

 はっきり言って、リアルな授業とYouTubeでは「全然違う」というのが正直なところです。YouTubeで配信していた動画は、難関大学の受験生向け講義だったので、短い時間でコンパクトに伝えることを意識していました。 YouTubeの場合、理解できない場合はもう一度再生できますが、リアルな授業ではそれができないので、ゆっくりと強弱をつけながら話し、生徒の反応を見ながら進めていく必要があります。

 YouTubeの講義はカメラだけを見て、こちらの伝えたいことを一方的に伝えていくスタイルです。それに対してリアルな授業は、一方的に説明すると生徒が退屈するので、グループワークを多用するようにしています。

 一斉授業のときは寝てしまうような生徒も、グループワークでは生き生きと学んでいたりするんですよね。私の授業では、事前に解説動画をネット上にアップしておいて、教科書を読むのが得意な子はその動画を見ながら学び、読むのが苦手な子は耳から聞いて学びます。そうして、一人一人が自分に適した学習法で勉強できるようにしています。

 授業形式も、1人で学んでもグループで学んでもいいという時間もあれば、コミュニケーション力を高めるためにグループで進める時間もあります。ある授業で、グループ活動に慣れてない男子生徒がいたのですが、その様子を見た女子生徒2人組が「先生、あの子グループに入れてもいいよ」と私に言いに来たんです。本当に素晴らしいことですが、「あなたたちから言って」と促しました。すると、すぐに誘いに行って、その男子生徒も活発に参加しました。そういった姿が見られるのも楽しいですね。

新たな教育理念「自考自創」

――先輩の教員に相談することもあるのでしょうか。

 1年生が8クラスあって、「公共」は3人の教員で受け持っています。1~4組までは私が担当し、残り4クラスを2人の教員が担当しています。その2人とコミュニケーションを取りながら、時に相談をしたりアドバイスをもらったり、一緒にトライアンドエラーを繰り返しながらやっています。授業改革の研修では、授業を撮影して教員全体で視聴し、教科を超えて授業の在り方を検討する機会もあります。

――かなり多忙な中で学校改革を進めていくとなると、負担が大きいのではないでしょうか。その辺はどうバランスを取りながらやっているのでしょうか。

 学校は「個人商店」の集まりで、教員が個人で取り組んでいる部分が大きいと思うのですが、「単元マップ」を作ることによって、同じ教科・科目の教員間で情報共有が図られるようになりました。授業準備も手分けして担当することが増え、その点では働き方改革につながっている部分もあります。同じ教科・科目の教員間でコミュニケーションの機会を増やすことで、準備も軽減されるのではないかと考えています。

――学校改革への取り組みは、他の教員にもすんなりと受け入れてもらえたのでしょうか。

 広島桜が丘高校はいわゆる進学校ではありません。中学生の時に勉強に苦労した生徒、人間関係で苦労した生徒が多いので、「生徒に寄り添う」という視点は多くの教員がもともと持っていました。

 そうした中、「何か変えなければいけない。でも、日々の業務に追われて変えられない…」という思いを持った先生も少なくなかったと思います。また、教員集団が全体に若く、平均で30代前半くらいだと思います。20代後半の教員が多い職場なので、改革しやすい部分はあるのかもしれません。

――学校の教育理念も変わったそうですね。

 昨年度までの教育理念は、「躾(しつけ)と規律のないところに教育はない」という、やや管理教育的なものでした。それが今年度からは「自考自創」に変わりました。自ら考え、自ら(を)創る。そんな方向にガラッと変えて、管理教育を捨て去る方向にかじを切りました。その結果、昨年度までは定員割れしていた状況が一気に変わり、今年度は320人もの入学者があったんです。そういう方向が求められているということも、多くの教員が多分それとなく分かっていたと思います。

授業改革は働き方改革にもつながると感じているという
授業改革は働き方改革にもつながると感じているという

「廊下を歩いている人が…」の驚き

――昨年度までたまに来る程度だった人が、いきなり副校長になったことに対する生徒たちの反応はどうでしょうか。

 昨年度はおそらく「たまに廊下を歩いている人」みたいなイメージだったと思います。全校生徒の前で自己紹介をするような場もなかったですからね。ただ、一部の3年生が、私が大学受験専門のYouTuberとして発信していることを知って、大学受験についてアドバイスを求めてきたので、放課後に一緒に勉強することがありました。

 その子たちには「アドバイザーとして学校改革のために準備しているんだよ」と話をしていましたが、全員が志望校に合格して卒業していったので、今年度の生徒はほとんどが私のことを知りません。たまに見る人がいきなり副校長になって、しかも24歳だというので、驚きはかなりあったんじゃないかと思います。

【プロフィール】

桐原琢(きりはら・たくま) 1998年生まれ、茨城県出身。東京大学合格を目指し2浪するも、1点差で不合格となり、中央大学法学部へ進学。「置かれた環境によらず、受けたいと思う教育を受けられる環境づくり」を目指し、在学中に受験勉強YouTubeチャンネル「PASSLABO」を立ち上げ、登録者数は32万人に上る。昨年度から広島桜が丘高校のアドバイザーとして関わり、今年度から副校長に就任。

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