政府は11月2日、臨時閣議を開き、所得税と住民税の減税や低所得者向け給付など物価高対策を盛り込んだ総額17兆円台前半の総合経済対策を決定した。教育関連では、GIGAスクール構想で全国の小中学生に整備されたICT端末の計画的な更新に向け、各都道府県に基金を設置し、予備機を含めて5年間、同じ条件で支援を継続する。また、端末更新費用を将来も国費で支援する制度の恒久化については、2026年度中に地方自治体が予算の効率的な活用ができているかどうかを検証しつつ、支援の在り方に方向性を示すとした効果検証の仕組みを盛り込んだ。政府は月内にも23年度補正予算案を編成し、国費で基金創設に必要な経費を確保する方針。
今回の対策は「デフレ完全脱却のための総合経済対策」と名付けられ、物価高対策として▽来年6月にも納税者と扶養家族1人当たり年間4万円差し引く定額減税▽住民税が非課税となっている低所得世帯への7万円の給付▽ガソリン価格を抑えるための補助金や電気・ガス料金の負担軽減措置を来年4月末まで延長--などを盛り込んだ。また、大企業を中心に進み始めた賃上げの動きを中小企業にも広げるとして、赤字法人にも賃上げを促進するための繰越控除制度の創設などを打ち出している。
岸田文雄首相は臨時閣議終了後に記者会見し、今回の対策について「足元における最大の課題は、賃上げが物価上昇に追い付いていないことだ。今回の経済対策では、2段階の政策を用意した。第1段階の政策は、年内から年明けに直ちに取り組む緊急的な生活支援対策。第2段階は来春から来夏にかけて取り組む本格的な所得向上対策だ」と説明。「政府として全力で賃上げを進める環境を整備する予定だが、それでもなお、来年に国民の賃金が物価を超えて伸びていく状況となるのは確実ではない。しかし、今回のチャンスを逃せば、デフレ脱却が難しくなる」として、来年6月ごろに定額減税を行う必要性を強調した。
定額減税については「来年6月のボーナスのタイミングで、(所得税と住民税の合計で)1人当たり計4万円、約9000万人を対象に、総額3兆円半ばの規模で行いたい。本人か扶養家族かを問わず、1人ずつ減税を行うことで、過去に例のない子育て支援型の減税ともなる。例えば、子供2人の子育て世帯では16万円の減税となる。賃上げと減税を合わせることで、国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を確実に作りたい」と述べた。
経済対策の中で教育関連では、国内投資の促進と質の高い公教育の再生につながる施策として、GIGAスクール構想で小中学生に1人1台整備されたICT端末が来年度から一部の自治体で更新期を迎えることを踏まえ、「故障率も踏まえた予備機を含む計画的な更新」を盛り込んだ。具体的な施策として、自治体における効率的な更新を図る目的で「各都道府県に基金を設置し、5年間同等の条件で支援を継続する」とし、23年末までに都道府県を中心とした共同調達の仕組みを検討する。
さらに端末更新は今後も5年に1度程度のサイクルで必要となることを踏まえ、国費支援による基金制度の恒久化については、多くの自治体で端末更新が終了する26年度中に「自治体における効率的な執行・活用状況について検証する」「次期更新に向けて、今後の支援の在り方を検討し、方向性を示す」とした。端末更新を巡っては、全国知事会から国費支援による「安定的なスキーム」を求める提言が出ているが、政府は国費による支援を続けるかどうかは各自治体で効率的な予算執行ができているかどうかを検証した上で判断するとの姿勢をとった。
また、個別最適な学びをサポートする仕組みについて、生成AIの利活用も含めて検討を加速し、「教育DXのフロンティアを切り拓(ひら)く」とした。
不登校児童生徒への支援では、小中学生に1人1台整備されたICT端末を活用した「心の健康観察」の導入支援、スクールカウンセラー(SC)の配置拡充、自分のクラスに入りづらい児童生徒のための校内教育支援センターの設置への支援を盛り込んだ。いじめ防止対策では、学校外からのアプローチの開発や実証に取り組むとしている。