文科省の「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」は11月24日、今年度初回となる会合をオンラインで開催した。委員からは自殺予防教育が重要だと分かりつつも、教員不足や業務過多などの影響で十分に時間が割けない現場の苦悩について改めて指摘があった。また教員の精神疾患による休職も増加傾向にある中で、学校がどのように児童生徒の自殺予防教育と向き合っていくかについても問題提起があった。
児童生徒の自殺を巡っては、警察庁などの統計によると2022年は514人に上り過去最多となった。こども家庭庁など関係省庁は今年6月「こどもの自殺対策緊急強化プラン」を取りまとめ、「学校が行うSOSの出し方に関する教育を含む自殺予防教育のモデル構築や啓発資料を国において作成・周知を行う」とした。それを踏まえ設置された同会議では、自殺予防教育の在り方について検討を進めるほか、ICTを活用した児童生徒の相談体制についても課題を洗い出し、年度内をめどに取りまとめる方針。
この日の会合では、教員不足や業務過多など厳しい学校現場の実情を踏まえ、より実現可能な自殺予防教育の在り方について議論が交わされた。
東京都板橋区立上板橋第二中学校校長の宮田正博委員は「学校現場は余裕がなく、どこで時間を生み出すか難しい。(自殺予防教育は)教育課程の中で明確な位置付けがないので、進まない現状があるのではないか」と、現場の厳しい実情に言及。
さらに教員不足や教員採用試験の倍率が低下していることに触れ、「自殺予防教育はセンシティブなもので、高い指導力のある教員が取り組まなければいけない。しかし今の学校は定められたものを何とか回すだけで精いっぱいで、(教員採用倍率も低下しており)免許さえ持っていれば学校現場にいれている現実があると思う。その中で(教員の)高い指導力とともに自殺予防教育を推進していくことが大きな課題だろう」と問題提起した。
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長の松本俊彦委員は「教員の精神疾患による休職者数も、児童生徒の自殺数の増加とともにパラレルに動いているように思える」と、教員側のメンタルヘルスの悪化を指摘。
またリストカットや市販薬のオーバードーズ(過剰摂取)で受診する児童生徒に対して、学校側から『絶対にオーバードーズしないという証明をしてください』『“死にたい”と言わなくならないと学校には戻せません』などと要望がくると明かした。その上で「子どもたちが育っていく上で、友達と過ごしたり、教育の機会を得たりすることは大切だ。中途半端に啓発が行き届くと、(ハイリスクの児童生徒などに対して)単に恐れや怯えをつくってしまうこともある。教員への研修の在り方について考えなければならない」と述べた。
委員は次の通り(敬称略)。
▽【座長】窪田由紀(九州産業大学学術研究推進機構科研費特任研究員)▽赤間幸人(北海道教育大学教職大学院・教育学部札幌校特任教授▽新井肇(関西外国語大学外国語学部教授)▽川井猛(一般社団法人共同通信社編集局ニュースセンター整理部次長)▽阪中順子(奈良県大和高田市立看護専門学校非常勤講師)▽津田顕吾(さいたま市教育委員会学校教育部総合教育相談室室長)▽坪井節子(弁護士)▽松本俊彦▽宮田正博