教職の大変さも楽しさも伝える 大阪教育大「教職キャリア形成論」

教職の大変さも楽しさも伝える 大阪教育大「教職キャリア形成論」
オンラインで行われた徳留氏の講義を聴講する学生ら=大阪教育大提供
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 教員の仕事の難しさ、大変さだけでなく、楽しさも知ってほしい━━。大阪教育大学では、教養基礎科目において「教職キャリア形成論」の授業が行われている。さまざまなキャリアを持つ教員や教員経験者をゲストスピーカーとして招き、教員志望の学生に、大変さも含めた教員の仕事の魅力を伝えている。12月1日と8日には、元大阪市立中学校教員で、現在はフィンランドのヘルシンキ国際高校に勤務するNordic Educations代表の徳留宏紀氏(教育新聞で「世界の教室から フィンランド編」を連載中)がオンラインで講義を行った。

厳しい現実の中でも楽しんでいる教員はいる

 「教職キャリア形成論」の授業は、今年度で7年目となる。授業を担当する手取義宏教授は「本学の学生は9割以上が教員になりたいとの希望を持って入学してくる。しかし、学校現場のブラックな職場環境を報道で知ったり、実際に学校現場にいって大変さを目の当たりにしたりすることで、学生たちには『自分に教員ができるのだろうか』という不安が芽生えていく」と話す。

 学生の教員志望率低下の大きな要因が「教員の仕事の困難さばかりが伝わってくること」だと手取教授は語る。「しかし、厳しい現実の中でもさまざまな試みや改革に取り組み、楽しんでいる教員はいる。そうした現役教員や教員経験者から、それぞれの教職経験について話を聞くことで、教員の仕事への理解を深めてほしい」と説明する。

 今年度は後期の教養基礎科目において、10人ほどのゲストスピーカーを招いて講義が行われており、徳留氏は大阪市立中学校教員時代から4年連続でゲストスピーカーを務めている。 

フィンランドの教育を特別だと思う必要はない

 現在、フィンランドのヘルシンキ国際高校で日本語や生物、物理、数学を教えている徳留氏。12月1日の講義では、フィンランドの教育について、そして自身の大阪市立中学校教員時代の挫折、そこから取り組んだ「普通の公立中での学校改革」について話した。

 徳留氏は「フィンランドの教育はいい、というのが、日本人が持っているイメージではないか」と投げ掛け、その上で実際のフィンランドの生徒の声を紹介。「教育制度はいいけれども、勉強をやるかどうかは本人によるところが大きい」「授業のレベルも生徒の理解度も学校によってさまざま」「授業の裁量権が教員にある分、各授業の方法や質の差は大きい」といった声も上がっているという。

 こうした現地のリアルな声に対し、学生からは「一般的にフィンランドの教育は進んでいて質も高いと言われているが、さまざまな教育の方法がある以上、どこの教育にも一長一短がある。それを受け止めた上で、自分に何ができるかを考えていくことが重要だと感じた」という声が上がり、徳留氏は「フィンランドの教育を特別だと思う必要はないし、日本の教育はだめだと悲観することもない」と話した。

 また、大阪市立中学校教員時代の「心理的安全性」「リスペクト」をキーワードに取り組んだ職員室改革について、徳留氏は「教職員の方向性をそろえるためにハンドブックを作成したり、対話ベースの校内研修や、コミュニケーションを生む職員室の大幅な配置転換などを行ったりしてきた」と説明。

 学生からは「教員の側に焦点を当てた内容が興味深かった。教員の働きやすい環境を整えることが、授業の質の向上など、子どもたちにとっての良い影響にもつながっていくことが理解できた。私自身もそういう面にも目を向けていきたい」と前向きな意見が出ていた。

コンフォートゾーンから飛び出してみる

フィンランドで得た気付きを学生に伝える徳留氏=オンラインで取材
フィンランドで得た気付きを学生に伝える徳留氏=オンラインで取材

 1日の講義を踏まえて行われた8日の講義では「フィンランドで学んだ大切にしたいこと」をテーマに、徳留氏は学生に語り掛けた。

 昨年度で教員を辞め、今年からフィンランドに渡った徳留氏は「公務員の安定を捨てて不安はなかったのか?」「言語など心配ではなかったのか」などとよく聞かれたそうだ。徳留氏は「不安はあったが、コンフォートゾーンから飛び出して、ラーニングゾーンにチャレンジしてみたかった」と振り返った。

 もともと英語に対する苦手意識があったが、ある時、友人に「言い訳ばかりしている」と指摘された。徳留氏はそこから一念発起し、フィンランドに渡るまでにオンライン英会話を毎日続けた。「チャレンジした先にしか見ることができない景色があると、今、実感している。現状を嘆いたり、言い訳を探したりするよりも、『やるか』もしくは『めっちゃやるか』のマインドでチャレンジしよう」と熱を込めて語った。

 最後に、徳留氏は「教師として大切にすべき3つのことは世界共通だった。それは、生徒たちに対して常にリスペクトの気持ちを持つこと、常に笑顔でいること、常にオープンマインドでいることだ」と締めくくった。

 講義後、学生からは「フィンランドに行って、自分の目でしっかり見て、感じたい」「夢があっても実現までの道のりが遠く感じるあまり、なかなか行動に移せていない。私もやるか、めっちゃやるかの2択で行動してみたい」「自分は何度もコロナのせいで『あれができない』『これができない』と言い訳していた。今の環境でも、全力でできることを自分で選択して頑張りたい」といった前向きな声が多く上がった。

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