【落語教育で心に種を】 「動物園」から小学校教員へ

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 小学校教員を退職し、現在は落語教育家として出前授業で精力的に全国を回る「楽亭じゅげむ」こと小幡七海さん。教員というキャリアから現在の道へと転身した背景には、どのようなきっかけがあったのか。インタビューの第2回では、落語との出合いや教員を目指した経緯、転職後の歩みなどを聞いた。(全3回)

願いを込めた衣装で

「私は落語家ではなく、落語教育家です」と話すじゅげむさん=撮影:市川五月
「私は落語家ではなく、落語教育家です」と話すじゅげむさん=撮影:市川五月

――落語教育家としての活動は、いつも今日のような着物姿でされているのですか。

 今着ている着物は、「パーソナル着物スタイリスト」の方にアドバイスしてもらって選んだものです。話をする際には、服に白色があると、話に注目してもらいやすくなるそうです。着物の模様は唐草文様で、つる草が四方八方に絡み合っています。生命力が強く、途切れることがない様子を表していて、「これからもずっと笑い教育の活動と思いが根を張って、どこまでも広がっていくように」という私自身の気持ちと重ね合わせています。

 はかまを履いているのは、かつての日本の女性教員をイメージし、一見して「落語家ではなく、落語教育家です」と分かってもらうためです。

――「女性教員をイメージして」とのことですが、今は落語教育家として活躍されているじゅげむさんも、もともとは教員をしていたのですよね。

 はい。京都女子大学を卒業後、京都市の公立小学校の教員になりました。大学には「子どもに関わる仕事がしたい」と思って進学したんです。そして、在学中に落語の面白さを知りました。

 この面白さを教育に生かしたいと思い、そのためには「より幼少の方がストレートに子どもの心に響く」と考え、幼稚園教諭を目指しました。でも、その思いはかなわず、2018年春に卒業して小学校の教員になりました。

落語で全国優勝、そして教育の道へ

子どもたちに「もっと面白くしよう」と投げ掛ける=撮影:市川五月
子どもたちに「もっと面白くしよう」と投げ掛ける=撮影:市川五月

――落語との出合いが大きかったとのことですが、それ以前から笑いが好きだったのですか。

 中学生の時に「相方」を見つけて、修学旅行の出し物などで漫才をやったこともあります。憧れていたのは芸人の「NON STYLE」さんです。言葉で人を笑わせる力に大きな可能性を感じました。

 高校生になってもお笑いが大好きで、大学入学後はお笑いサークルに入る予定でした。ところが京都女子大にはお笑いサークルがなかったので、落語研究会をのぞきに行ったところ、吉本興業に仮所属しているという先輩が落語をしていたんです。プロの芸人さんとお笑いライブに出ていたような人で、その先輩の落語と漫才に一目ぼれしました。そして、「この先輩に笑いを教わりたい!」と思い、落語研究会に入りました。

 そこからは落語に没頭する毎日で、21歳の時には300人くらいが参加する「全日本学生落語選手権」で優勝することができました。

――全国優勝ということですか。

 はい。その前年にも同じ大会に出ていて、その時も予選を勝ち抜いて決勝まで進んだのですが、本番では全く自分の落語ができなかったんです。会場にはNHKのカメラがあって、審査員がいて、お客さんが1000人以上いました。そんな状況の中で、圧迫感を感じてネタが飛んでしまったんです。それがものすごく悔しくて、「このままでは終われない」と翌年に再出場しました。でも、まさか優勝するなんて思っていませんでしたね。

 その時の審査員の方が後日、「誰よりも楽しんでいた」と言ってくださって、それがとてもうれしかったです。その時やったのは「動物園」という演目でした。基になっているのは英国に古くから伝わるジョークで、ある男性が動物園から「虎になってくれ」と頼まれる話です。それを基に2代目桂文之助が落語に仕立てたもので、私にとっては今も一番好きな演目です。

――全国優勝したことで「落語の道に進もう」とは思わなかったのでしょうか。

 そういう選択肢もあったとは思いますが、「子どもと関わる仕事に就きたい」という気持ちは変わらず、小学校教員の道へ進みました。それと同時に、「笑いを教育に生かしたい」という思いも強くなっていきました。

 ちょうどその頃、大阪で小学校の先生をしている方と知り合う機会があり、落語の話をしたところ、「うちの小学校でもやっていますよ。子どもたちが老人ホームを訪問して、落語を披露しているんです」と教えてくれたんです。その先生の話を聞くうちに、この活動が子どもたち自身に大きな影響を与えることが分かってきました。

 落語で人を笑わせて、喜んでもらえたという経験を通じ、子どもたちに自信が生まれる。そしてその自信を力に、子どもたちが新しいことに挑戦したり苦手なことを克服できたりする。そんな話を聞いて「これだ」と思い、小学校教員を1年で退職し、落語教育に専念する道を選びました。

子どもたちを前にして笑顔がこぼれる=撮影:市川五月
子どもたちを前にして笑顔がこぼれる=撮影:市川五月

【プロフィール】

楽亭じゅげむ、小幡七海(らくてい・じゅげむ、おばた・ななみ) Lauqhter代表理事。大学を卒業後、小学校教諭に。退職後、「花まる学習会」で働きながら落語を使った教育事業に携わった後、Lauqhterを設立。独自に落語教材を開発し、出前授業や研修の講師などとして、3年間で4500人に落語教育を実施してきた。第14回全日本学生落語選手権策伝大賞優勝、「TOKYO STARTUP GATEWAY 2021」セミファイナリスト。

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