学びの多様化学校の岐阜市立草潤中学校で教務主任を務める中今純一教諭は、自校の教員組織の特徴として「対話が多い」ことを挙げる。自身は昨年度から福井大学連合教職大学院で「同僚性」について学んでおり、その経験を対話を増やすことにつなげていると話す。インタビューの最終回では、生徒一人一人を支える草潤中の教員組織の在り方や、これまでの経験をどのように次につなげていくかを聞いた。(全3回)
――前回、学校現場で働く中で感じていた違和感みたいなものを、草潤中学校への異動を希望した理由の一つに挙げていました。その違和感は教員になってから徐々に感じるようになったものなのでしょうか。
私の場合、教員になってしばらくは、「学校はこういうもの」という感じで捉えていました。自分が子どもの頃は校則に対する違和感もなく、「従っておけばいい」「言うことを聞いていればいい」と考えて過ごしてきて、特に問題意識はありませんでした。
でも、教員を何年か経験する中で、授業にしても学級経営にしても、本質を見ようと意識するようになって、「本当に子どもにとって必要なことなのだろうか」と考える機会が増えました。
例えば、学校行事にしても、いろいろなものがあって多くの教員が疲弊しています。「これって絶対やらなくちゃ駄目なことなのか…」「やった方がいいぐらいの行事はやらなくてもよいのでは…」「この行事を子どもたちも望んでいるのだろうか…」などと自問自答を繰り返し、違和感を抱くようになっていったんです。でも、その違和感を他の先生たちに言えるような度胸もなく、改善策も持てませんでした。
一方、草潤中は行事もゼロベースから教員同士で話をしながら決めています。例えば、命を守る訓練は命に関わることだから必要ですが、それ以外はそれこそ卒業式にしても、やるかどうかから話し合いました。私たち教員は今までやってきたことを当たり前に捉えがちなので、ちゃんとリセットする作業を定期的にしないといけないと思うんです。
――でも、さすがに卒業式はやるものだとなりそうですが、そこもゼロベースから検討するというのはすごいなと思います。
卒業式のシーズンが近づいた頃、生徒たちから「卒業式って、人前に出て嫌だよね。なんかさらされている感じがして」という声がちらっと聞こえたので、まずは生徒たちに聞いてみようという話になりました。最終的には、生徒たちが「やりたい」という話になり、開催しました。
学校行事の予定は、普通の学校なら前年度末には決まっていると思いますが、本校は4月になった時点でいったんゼロにします。「去年やったから今年もやる」というのはなしで、子どもたちがやりたいと言ったら計画していこうというスタンスです。
――学校をゼロからつくっていくとなると、教員組織の在り方も従来とは違う形でないと対応できないように思います。
本校は、職員同士の対話の量が多い学校だと思います。本校は生徒が朝、ちょっとゆっくりめの9時頃に登校するんです。職員の出勤は8時なので、生徒が来るまでの1時間のうち15分を使って、職員同士の対話や研修、カルテの記入作業などをしています。
私自身は昨年度から、福井大学の教職大学院に在学していますが、そこでは対話を通して学び合うことが主流です。大学院での学びを通じ、「対話でこれだけ自分のことを見つめ直したり、他者のことを知って学べたりするんだ」と、対話の大切さを体感しました。これをなんとか学校にも落とし込みたいと思いました。
そして、去年の夏休み明けから週に1回、朝の時間帯を活用して「スタッフラウンドテーブル」を実施しています。いろいろなテーマを設定して、職員でグループを作って対話をする取り組みです。先日のテーマは「生徒が登校するモチベーションってなんだろう」でした。結論を出すことが目的ではありません。
私はコーディネーター役を務めており、教員からは定期的にアンケートを取って、どんなふうに話し合いをしたいかを聞いています。真面目なテーマだけでなく、お勧めの旅行先や映画、音楽など、仕事とは直接関係がないテーマも取り上げる中で、同僚性が高まっていくと考えています。教員になってからのターニングポイントを深掘りするなどのテーマも、同僚性が高まると思います。
多分、そういう場がなくても教員は放課後などによく話をしています。校長も教頭もそこに加わって、本当にフラットな関わり方をしています。いろいろと話がしやすい関係性があるので、生徒に何か起きたときもすぐに情報共有ができます。
本校には部活動がないので、時間的な面も含めて「草潤中だからできる」と言われることがありますし、確かにそうした一面はあります。その点を差し引いたとしても、今は本当に対話の文化が根付きつつあります。
――教職大学院に行くようになったのは、何かきっかけがあったのですか。
教職大学院には以前から興味がありました。学校を外から見てみたい、視野を広げて考えてみたいという欲求があって、以前の勤務校の校長にも相談していました。
教育委員会からは「福井の対話の文化をぜひ岐阜にも広げたい」という一言がありました。もちろん、私自身は今、岐阜市全体に広める立場ではないので、まずは勤務校で取り入れているところです。
――今、草潤中で模索されていることは、不登校の子への対応というだけでなく、子どもたち一人一人に対応した教育の在り方なのかなと思うのですが、いかがでしょうか。
本当にその通りで、普通の学校では目立つ子や配慮が必要な子は、学年で話したり職員で話したりします。でも、おそらく自分が普通の学校に戻ったときには、それ以外の目立たない子にも目が行くと思います。「この子、ずっと黙っているけど、何か問題を抱えていないだろうか…」とか「おとなしいけど何を求めているんだろう」とか、そういう目で見ないと子どもの本当の姿が見えてこないと感じています。もちろん、普通の学校では教職員が子どもたち一人一人について対話することが時間的に難しいのは分かっていますが、子どもを見る視点や生徒理解の手法などは取り入れられそうに思います。
また、職員組織の在り方についても、今取り組んでいることをそのまま横展開するのは難しいでしょう。でも、対話をすることの価値については、体感・実感してきたことを伝えたいですし、今まで当たり前に考えてきたことを見直したり、発信したりできたらいいなと思っています。
――草潤中での経験を次にどう生かすかも考えているのですね。
開校から3年、本校に勤めている教員はそろそろ異動の時期になると思うので、みんなそういうことは考えていると思います。本校のやり方をそのまま広げるのではなく、考え方や生徒の見方を異動した先の学校に伝えていくことが必要だと思っています。
私たちは、異動した先では、絶対に何かしら求められる立場でもあると思います。若い先生もベテランの先生も、本校で取り組んできた財産をちゃんと語れるようにしたいねと、教員同士で話しているところです。
【プロフィール】
中今純一(なかいま・じゅんいち) 社会科の教員として、岐阜県内の小中学校で教壇に立つ。学びの多様化学校である岐阜市立草潤中学校の設置に際して勤務を希望し、立ち上げに参画。現在、教務主任を務める。また、2022年度から福井大学連合教職大学院で「個別最適な学び」と「職員の同僚性」をテーマに学んでいる。