保護者トラブルの解決を支援 文科省の新事業の狙いは?

保護者トラブルの解決を支援 文科省の新事業の狙いは?
教育制度改革室の中川室長補佐=撮影:秦さわみ
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 一部の保護者から過剰な苦情や不当な要求を受け、疲弊する教員が後を絶たない。こうしたストレスから教員を解放しようと、文部科学省は2024年度当初予算案に「行政による学校問題解決のための支援体制の構築に向けたモデル事業」(1億円)を計上した。学校と保護者・地域間のトラブルを、教育委員会などに置かれたコーディネーターを中心に解決する仕組みを作るという。事業の狙いについて、同省初等中等教育企画課教育制度改革室の中川若菜室長補佐に聞いた。

「学校だけでは限界」困難なケース、自治体が支援

 「学校と保護者は本来、学校運営上の重要なパートナーで、信頼に基づく対等な関係が大切。しかし、一部の保護者から難しい苦情や要求を受け、学校だけで抱え込むのは限界だという声が上がっている」

 中川さんはこう話す。22年度の教員勤務実態調査からも、保護者・PTA対応に対して「重要だが負担は大きく、やりがいも小さい」と感じている傾向がみられた。

 今回のモデル事業の目的について、中川さんは「保護者対応を学校任せにせず、行政が組織として解決する体制が必要」と説明する。働き方改革の具体策を議論してきた中教審の特別部会も昨年8月の緊急提言で、「教育委員会などの行政の責任において対応することができる体制の構築が重要」と指摘していた。

 問題解決の仕組みはこうだ。市区町村の教育委員会や首長部局に、学校管理職OBなど「学校問題解決支援コーディネーター」を置く。保護者・学校だけでは解決が難しい問題が起こった場合、コーディネーターが直接相談を受け、必要に応じて医療・福祉・法律などの専門家の助言を受けながら、事案ごとに解決策を見いだしていく=図表

 併せて、都道府県レベルで支援体制を作ることも考えている。都道府県の場合は、域内の小規模自治体を支援するほか、市区町村教委や学校を訪問して相談に乗ったり、研修会を開いたりする。

 これまでも、教育委員会などが独自に支援体制を整えているケースはあった。文科省は今回の制度設計にあたり、東京都の「学校問題解決サポートセンター」の事例などを参考にしている。一方、支援体制はあるものの、指導主事が通常業務の合間に支援している場合も多く、その負担が課題になることもあったという。

 「保護者対応を学校任せにしない体制作りを、国として応援するというのが、今回の新規事業のメッセージ。学校や先生が相談できる場所を作り、その分、先生が子どもに向き合う時間を生み出せるようにしたい」と中川さんは話す。

コーディネーターの確保が鍵に

 今回の制度で鍵となるのはやはり、コーディネーターとなる人材の確保だ。文科省は学校管理職OBを一つの候補として挙げており、中川さんはその理由を「学校運営や保護者対応の経験、知見があることは非常に有効」と説明する。地域によっては、学校管理職OB以外が担うことも可能だとしている。

 とはいえ、トラブルの解決という難しい責務を担うことから、誰にでも担える役割ではなく、「候補となる人は限られる」といった声が自治体から上がっているという。

 「コーディネーターは学校だけでなく、保護者の話にも向き合い、学校運営や法律などの観点から、学校が対応できること・できないことをきちんと整理する必要がある」と中川さん。「コーディネーターにふさわしい人材を確保してもらうためにも、今回のモデル事業の公募に向けた準備を進めたい」と力を込める。

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